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ギルドと魔法使いの少女。8

 索敵(サーチ)には広範囲を探る機能と特定のターゲットの位置を常に把握しておく機能があります。恐らく作中では語られないであろう設定です。




.



 スタチアの森、深部。ゴブリンの生息域よりも奥深いそこは、雰囲気が少しだけ違っていた。


「……なんだか、薄気味悪いですね」


 アイシャが囁くように呟いた。俺もそう思う。


 木々は密集し、日光をほとんど遮っている。足元の草も背が高く、歩きにくい。確かにこれは、迷ったりして時間がかかりそうだ。


 ただ、俺の場合は不安はない。索敵(サーチ)もあるし、最悪の場合はベリアルが危険を教えてくれるだろう。


 そのベリアルが先ほどから沈黙しているのが少し怖いが、便りがないのがいい便り。前向きに解釈しておこう。


「そろそろ、一度サーチするか」


 無意識に独り言が漏れていた。むぅ、なんだかんだ言って俺も怖がってるのか? んなバカな。


 とにかく、意識を集中させて周囲の気配を探る。


 徐々に索敵範囲が広がり、小動物や木々の形、鳥の数などが気配として伝わってくる。さらに伸ばす――


 ――……あれか?


 俺が反応したのは、ひとつの巨体。といっても二メートルはなさそうだ。ビール腹で、全体的に逞しい。下顎が突き出ていて、そこから二本の牙が伸びている。


「たぶん、見つけた」


「ホントですか?」


「ああ。……行くぞ」


 恐らくオークだと思われる影は、俺の索敵範囲内では一体だった。確か、依頼はオーク一体の討伐。ゴブリンと違って単独行動というわけか。


 一応、索敵でオークの動きを探りつつ、俺たちは小走りで向かっていった。


 その間も、ベリアルはずっと黙っていた。




   ♌ ♌ ♌




 幹から顔だけ出して向こうを伺うと……いた。オーク(たぶん)だ。


 確かに、緑の肌や棍棒を持っているところなどはゴブリンそっくりと言えなくもない。が、明らかに逞しすぎるだろ。サーチの段階で思ったけど。


 そして何より、獣臭い。


「(あれがオークですか?)」


 アイシャが顔をしかめながら尋ねてくる。やっぱり臭いんだろう。


「(知らん。たぶんそうだろ。つか、お前は見たことねーのかよ)」


「(あはは……ゴブリンで手間取ってたもので……)」


 ま、確かにそうか。


 しかし、どうしようか。流石に負けることはないだろうが、やはり先手必勝が確実だろうか。


 ――どう思う?


 ――『…………』


 ――ベリアル?


 何度か問いかけたが、ベリアルは反応しない。どうしたんだ?


 まあいいか。


「俺が飛び出すから、一応魔法の準備しとけ」


「あ、はいっ」


 言うが早いか。俺は一気に木の幹から飛び出した。同時に剣を抜き放つ。


「ムゥッ!?」


 抜剣の音に反応して、オークが振り向いた。その猪面に、俺は思いっきり剣を振り下ろす。


 一刀両断するつもりだった。


「……ガァッ!?」


 しかし、直前でオークが顔をそらし、俺の剣はオークの肩に直撃した。ブシャッ、と紫の血が飛び散る。


 剣は胸のあたりまで切り裂き、そこで停止してしまう。くそっ、肉厚すぎんだよッ。


「……チッ」


 俺は舌打ちして、剣を引き抜きながら後ろに下がった。今度はその首を切り落としてやる!


 ――と、意気込んだんだが。


「グゥ……ォォオオオオ!」


「!?」


 突然、オークが吼えた。それは痛みの絶叫とは違う気がした。


 何か、嫌な予感がする。俺は咄嗟に、無意識にサーチを発動していた。


 そして絶句した。


 すぐ近くに、オークが一、二、三……何体いるんだ? たぶん六体くらい居た。そして、そいつらがすべてこちらに向かってくる!


「どうなってんだ!?」


「リオン? どうしたんですか?」


「……来るぞっ」


 説明をしている時間は無かった。俺は叫ぶと同時に地を蹴って飛び上がり、負傷したオークの首をはねた。大量の血液が噴出されるが、気にしない。


 着地した瞬間、オークの増援が姿を現す。


「えっ、ええっ!?」


 突然現れた増援にアイシャは驚いていた。


「アイシャ! 魔法の準備!」


「あっ、は、はい!」


 ウォオオ!


 アイシャが詠唱を開始したと同時に、オークどもが走ってくる。俺は全力で駆け出し、先頭の一体に斬撃を浴びせた。……撃破。


「行かせるかっ」


 アイシャに向かっていたオークの背中を思いっきり斬りつける。「ォオオ!」と悲鳴をあげて転がったオークに止めを刺そうとして、俺はなぜか思いっきり横に跳んでいた。一瞬前まで俺がいた空間を、別のオークの棍棒がなぎ払っていた。


 ――『油断するな。敵は一体ではないぞ』


 ――ベリアル!?


 ――『仕方がないから、少し補佐してやろう』


 ベリアルの思念が聞こえるやいなや、俺のカラダは半自動的に動き出していた。な、なんだ!?


 ――『オート操作だ。我がお前の体を魔力で操作しているのさ』


 ――んなこと出来んのかよ!


 俺のカラダは、俺を後ろから殴ろうとしていたオークの顔面を蹴り飛ばした。着地と同時に負傷したオークの心臓を突き刺し、引き抜く。……二体目撃破。


 立ち上がろうとしているオークに駆け寄ろうとして、またも俺のカラダは勝手に後ろに跳んだ。別のオークだ。


 空振ったオークの体に斬撃を叩き込みながら、俺はアイシャの方を振り返った。瞬間。


「――ファイアーボール!」


 アイシャが、火球を放ってオーク一体を焼き払った。……これで三体。


 俺は斬り下ろした剣を跳ね上げて、オークの首を飛ばす。四体目。あと二、三体か。


「やったっ! 初めて一回で成功した!」


 後ろで、アイシャが喜んでいるのが聞こえた。んな場合じゃねぇだろ!


「喜ぶのはあとだ! まだいるぞ!」


「は、はいっ!」


 俺は駆け出しながら、少しだけモヤモヤした。どうして、成功しただけであんなに喜べるんだ? 確かに魔法を一回で成功させられたのは初めてかもしれないけど、そんな事は魔法使いにとっては当たり前の事だろうに。


 それを、自分のレベルが低いと言ってるようなもんなのに、あんな素直に喜べるなんて……


 ――『アイシャの純粋さが羨ましいのか?』


 ――……うるせぇ。


 ベリアルが操作するのに任せてオークを(ほふ)りながら、俺の中でのモヤモヤは徐々に大きくなっていった。自分でも、どうしてこんなに苛立っているのかわからない。



 後ろでアイシャがファンブルした気配を感じながら、俺は八つ当たり気味に最後のオークを真っ二つにした。




.

 アイシャにモヤモヤする理央。次回はちょっとシリアス?




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