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ギルドと魔法使いの少女。7





.



『やさしく、ないよ。べつに』


 唐突に始まったその夢に、俺は驚いた。


 セピア色の風景に小さな少年と少女が向かい合って立っている光景。どこかで見た事があるような、ないような。そんな夢だった。


『そんなことないよー』


 少女はにこにこと破顔して、少し恥ずかしそうにしている。状況がうまく掴めない。


 ただ、これが記憶を元にした夢なのだという事は、感覚として理解できた。


『やさしくて、やさしいもん!』


『やさしいって二回いってる』


 男の子にそう指摘された少女は『えへへー』と嬉しそうに笑っている。


『いいから、はやくもってきてよ』


『うん! わかった!』



 そう言って、少女は振り返って駆け出した。その元気な後ろ姿をボンヤリと眺めていたら、不意に思い出した。



 そう言えば、これは、俺の幼少期の夢だ。


 そしてあの少女は、鈴村(スズムラ) 呉羽(クレハ)だ―――― 




   ♌ ♌ ♌




 朝。


 僅かに隙間が開いていたカーテンから差し込む日光に刺激されて、俺はゆっくりと上半身を起こした。


「ん……ふぁ~~……」


 大きく伸びをして、大きな欠伸をかましたところで、俺は後頭部を掻いた。


「……また、あの夢かよ」


 何やら中二病くさいセリフだなーとボヤけた頭で考えながら、俺は目覚める直前に見ていた夢を回想する。


 幼少期、確か保育園の時の夢。幼かった俺は、木陰で小鳥が死んでいるのを見つけ、埋めてやったのだ。その時話しかけてきたのが、スズムラ クレハ。この世界に飛ばされてきた時も、確かあんな夢を見たはずだ。


 ……そう言えば、あっちの世界じゃ俺はどうなってるんだろうか。行方不明? じゃあ、アイツは……


「ま、俺にゃ関係(かんけー)ねぇか……」


『おいリオ。起きたのならさっさと我を装備しろ』


 突然聞こえてきた声に、軽く飛び上がる。枕元のベリアルが脳内ではなく【コエ】で話しかけてきたのだ。


「はいはいちょっと待ってくれよ。その前に着替えだ」


 言いながらベッドから降りる。この白いチュニックとハーフパンツは宿屋備え付けの寝巻きだ。素早く脱いで、さっさと黒一色の装備に着替える。


 今更だが、俺は一切の防具らしき防具を装備していない。アイシャは魔法使いなので当然として、俺は一応剣士なのだ。鎧のひとつも着ていないのは変だろう。


 事実、アイシャに一度『リオンは防具は付けないんですか?』と聞かれた事がある。その時は重くなるからとか何とか、適当を言って誤魔化した。


「やっぱ、変かな?」


 ジャケットの上からベルトを装着して剣を背負う。その間にベリアルに問うと、


『今はリオの思念が届かんから、なんの話か分からん』


 と言われた。確かに仰るとおりだ。


「……よし、っと」


 最後にベリアルを首から掛けて、白いインナーの下に潜り込ませる。別に意味はないが、大きい宝石のペンダントを見せびらかすのはあまりよろしくないだろうと考えての行動だ。実際、アイシャにもベリアルについて触れられた事は一度もない。気づいてないんだろう。


 ――『で? なんの話だ?』


 ――もういいよ、別に。どうでもいい話だ。


 思念会話をしていると、控えめにドアが三度、ノックされた。


「どちらさまー?」


「あ、アイシャです……だよ」


「……やっぱ、敬語に戻すか?」


 苦笑しながら扉を開けると、アイシャが照れくさそうに頬をかいていた。


 余談だが、二回ノックは便所、正式なノックは三回らしい。本当にどうでもいい話だ。


「敬語……の方が喋りやすいですね、やっぱり……」


 ――『愛玩動物みたいだの』


 ――だ・ま・れ。


「まぁ、好きな方でいいよ。んで? 何の用?」


「あっ、いえ、起きてるかなー……と思いまして」


 俺が促すと、アイシャはやはり照れくさそうにして、少しもじもじしていた。


「起こしに来てくれたのか。そりゃどうも。ま、起きてたけど」


 一言多い、と俺はよく言われていたが、自分でもそう思う。


「そうみたいですね」


 俺の皮肉るようなセリフにも、アイシャはニコリと笑って対応する。エムっ気があるのか、単純に人が良いのか……たぶん、


 ――『両方だろう』


 ――だよな。


 思念で不名誉な事を言われているとは露ほどにも思ってなさそうなアイシャが、「それじゃあ朝ごはんに行きましょうっ」と元気に言った。




 今日の朝食メニュー。目玉焼きとソーセージとインゲンに似た野菜の炒め物とご飯に味噌汁。


 宿屋【ブルックリン】で味噌汁をズズーッと啜るたびに、俺は思う。


 この世界にも白米や味噌汁があったのか、と。


 ただし――


「――具材はグロテスク、か……」


「?? ほおひまひた?」


「いや……なんでも」


 調理されたはずなのになぜか蠢いているワカメ風のナニカや何の獣のモノか分からない目玉を見つめて、俺はため息を吐いた。


 もうそろそろ、慣れたけどさぁ……もう少し見た目をどうにかしてくれよ、見た目を。


 どうやらこの世界の人間……というか種族たちは、ゲテモノ料理に抵抗がない様子だ。というかゲテモノだとすら思っていないのかもしれない。


 ええい、ままよと勇気を振り絞って、俺は目玉を咀嚼する。ぐにゃっともコリっともつかない変な感触が、ちょっと美味しく感じられてきた。自分が怖い。


 黙々と食べるアイシャと一口ずつ勇気を振り絞る俺の二人は、なぜか同時に食い終わった。アイシャの食べるスピードが遅いからだが。


「御馳走様でした。……今日は、オークを倒しに行くんですよね?」


「ああ」


 俺たちは昨日、受付嬢さんに昇級試験を申し出て、オーク退治を命じられた。何でも下手すれば野宿もありえるとかで、昨日はあと一時間もすれば日が傾き出すという事で素直に宿屋へ退散した。


 勿論、昨日のうちに準備は済ませてある。


 回復ポーション×10。魔力ポーション×5。解毒草にその他もろもろアイテム……。


 さらにアイシャの杖も新調して、準備は万端だ。ついでにお金はすっからかんだ。


「……今日のクエストを失敗したら、宿にも泊まれませんね」


「そん(とき)ゃゴブリンでも狩るさ」


 楽観的と言われるかもしれないが、実際、俺の場合はそれがまかり通る。むろん、ベリアルのおかげだが。


 宿屋のおばさんにごちそうさまと告げてから外に出る。今日は雲ひとつないいい天気だった。


「じゃあ、C級目指してオーク退治に出掛けますか」


 まるでピクニックにでも行くみたいに、俺はそう軽々と告げた。


 ギルド登録から一週間足らず。それでもう昇級試験だなんて拙速な気もする。もっとゆったり行ってもいいんじゃないかとも思う。


 だが、俺は、どこか物足りなさを感じていた。有り余る感じ。体力が温存されすぎて、逆にダルい。


 だから、アイシャには悪いがちょっと急ぎ足で上を目指そうと思う。少なくとも、心地よい疲労感を得られるぐらいのレベルに、俺は早く行きたかった。


「贅沢な悩みだ」


 思わずポツリと呟いた言葉に、アイシャが首を傾げる。何でもございません、っと。


「ほら、行くか」


「はい! 頑張りましょう!」


 そしてやっぱりピクニックにでも行くみたいに、俺とアイシャは城門を目指した。




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 毎度、同じ様な引きになっている気がします。ひとえに私の文才のなさが原因ですね。




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