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ギルドと魔法使いの少女。6





.



「……シッ!」


 横薙ぎに払った俺の長剣が四匹目のゴブリンを仕留め、


「……〈ファイアーボール〉!」


 本日三度目の詠唱でようやく成功したアイシャの火球が杖の先から放たれ、最後のゴブリンを焼き払った。



 アイシャとパーティーを組んでから四日目。一昨日(おととい)ギルド証を受け取ってから、三つ目の依頼を俺たちはクリアしたところだった。



「リオン、お疲れっ」


 敬語抜きで話す事にもずいぶん慣れてきたアイシャが、軽く息を整えながら近付いてくる。


「あいお疲れ。ま、ゴブリン狩りにも慣れてきたなー」


「うん、そうだね。私も詠唱失敗(ファンブル)の回数が減ってきた気がするし!」


「そりゃ杖を買ったからだろ。エノキの杖だけど」


 アイシャが持つ木の杖を指さしながら言ってやると、「あははー」と朗らかな笑いが返ってきた。……俺のイヤミにも慣れてきてやがるな。


 通常、魔法使いは杖を装備する。それは魔法の扱いを安定させる意味合いがあるのだそうだ。具体的なロジックは知らない。


 つまり、出会った時のアイシャは魔法使いとして不完全な状態だった訳だ。その理由を聞いたら『実は、生活費に困って売り払っちゃいまし……売り払っちゃって』と言っていた。とんだ阿呆である。


 とはいえ、実際にアイシャの魔法は安定してきている。俺の、というかベリアルの魔力の影響が強くなっているのか、逆にアイシャが適応してきているのかは分からない。


 対する俺も、戦闘のコツやカンが(つちか)われ、こなれてきていた。ベリアルいわく――『飲み込みが早い』との事で、まぁそこは器用貧乏ゆえの習得は早く上達は遅いってやつだ。あくまで俺の自論だけど。


「そろそろC級の依頼が受けたいね?」


 依頼の達成が順調だからか、アイシャはそんな発言までするようになっていた。同感だが、お前はいっつもファンブルしてるだけだろうが。


 ま、今はそれは言わないでおこう。


「確か、今回ので四つ依頼をクリアしたよな」


「うん。……私はいちおう五つだけど」


「んじゃ昇級試験が受けれるってわけか」


 確か、DからCへ上がる昇級試験はD級の依頼を四つ以上達成する事、だったはずだ。


「あれ? そんなに簡単だっけ?」


「ああ。DからCに上がるのは簡単なんだよ。その代わり、B級とかA級に上がるのは大変らしい」


 受付嬢さんに質問したところ、A級に上がるにはB級の依頼を三十以上クリアしなくちゃいけないらしい。もしくは、A級に見合う成果を上げるか。


 ――『戦闘力だけを見ればリオはA級にも行けるはずだがな』


 ――将来的に、だろ? 今はまだよくてB級だ。


 俺の肉体は半人半魔、いわゆるハーフデビルというやつで、半分ノービス半分悪魔……というか魔族だ。肉体レベルで言えばかなり上位、魔力もかなり高いらしい。


 でも、俺はそんなハイスペックな体を使いこなせてない。今のところ魔法は扱えないし、精々ゴブリンの攻撃を腕で弾いて一刀両断できるレベルだ。


 まだまだ、俺はこの世界で上位に行ける存在じゃないって事。


 ――『それはリオ次第だと思うがな……』


 呆れたようにベリアルが呟くのには、訳がある。といっても大した事じゃないが、簡単にいえば俺がアイシャと一緒に冒険者をするのが楽しくなってきているって話だ。


「ま、とりあえず街に帰るか」


「はい! ……じゃなくて……」


「まだ敬語は抜けきらねぇな」


「えへへ……」


 年下って事もあって、アイシャは俺とため口で話すのは抵抗があるらしい。四日も一緒にいるから流石に抵抗も少なくなってるっぽいけど、やはり本当は敬語の方が楽なんだろう。


 ま、俺はこっちのが気楽だから貫かせるけどな。タメ語。



 進行方向にいるゴブリンを【索敵(サーチ)】で避けながら、俺たちは【始まりの街】と呼ばれるスタチアに戻っていった。




   ♌ ♌ ♌




 スタチアが始まりの街と呼ばれるのは、以下のような理由かららしい。


 ひとつ。周辺の魔物が弱く、駆け出し冒険者に優しい。


 ふたつ。ギルド直轄の街であり、冒険者登録が出来る街のひとつだから。


 みっつ。物価が安く、売っている商品も万人に扱えるものが多いから。


 ベリアルはこれを見越してスタチアの近くに俺を召喚したのだと言うが、本当かどうかは分からない。


 話を戻すと、これらの理由からスタチアにいる冒険者は駆け出しばかりで、逆に言えばある程度の力を付けた冒険者は別の街に拠点を移すのだそうだ。


「――だから、半年もこの街にいる人って少ないんですよねぇ。その分、ギルド登録の時から知ってるアイシャちゃんには思い入れが強くって」


「はあ、なるほどねぇ」


 少し長い受付嬢さんの思い出話は、要点だけを纏めると半年もこの街に滞在しているアイシャが俺という心強い(?)パートナーを見つけた事は嬉しいが、反面ちょっとだけ寂しい。って事らしい。


「あのぉ……もういいですか? すっごい恥ずかしい……」


 ある意味では恥を晒されていたアイシャは、赤面して俯いていた。そして顔を手で隠していた。ま、半年も始まりの街にいるイコール半年しても駆け出しレベル、って事だもんな。そりゃ恥ずかしいわ。


「それで受付嬢さん。昇級試験を受けたいんですけど」


「ああ! そうでしたそうでした! そういう話でしたね!」


 まったく、C級に上がりたいと言った途端に泣き出して思い出話を始めるなんて、受付嬢さん(このひと)も変わった人だ。


「えー、気を取り直して。C級昇格のためには、ある依頼を受けて頂きます!」


 コホン、と咳払いで態度を改めた受付嬢さんが、ニッコリと微笑みながら解説を始める。


「昇級試験の依頼は『スタチアの森深部に生息するオークの討伐・目標数一体』……ですね!」


「オーク……」


「オークというのは、ゴブリンを大きくしたような魔物です。力が強く耐久力も高いので油断していると危ないですよ?」


 説明はありがたいけど、注意を促すときも笑顔なのは怖いんだが。


 ――『オーク程度ならば問題なかろ。一体ならばリオだけで事足りる』


 ――ま、そうだろうな。


 この世界のオークは見た事も無いが、ゲームではよく見る魔物だ。強さはゲームによりけりだけど、ゴブリンの強化版ならばそう強くは無いだろう。


「よし、んじゃあ行くか」


「あっ、リオン様?」


 アイシャに声を掛けて行こうとしたら、受付嬢さんに呼び止められた。


「なんですか?」


「本当に気を付けてくださいね?」


 珍しく、受付嬢さんの表情は真剣だった。



「最悪、一晩野宿することも視野に入れて、準備をしてください。それくらい、ゴブリンとオークとでは大きく違いますから」




.

 前回、小段落が一段落とか抜かしましたが、まだでした。アホですね。

 あと二、三話で本当に一段落かと。

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