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王子が王妃を娶るには

作者: 庶民A


またしても王子の話、前作とは全く違った設定です。


拙いものですがどうぞお楽しみください


今日も今日とて、私は大臣達に詰め寄られる。


「セラ様!いい加減側室くらいお入れください!」

「しつこいぞ。私はまだ王ではない。側室など王位を継いでからでも遅くはないだろう」

「陛下もそう申されて、結局娶られたのは27になられた時ですぞ!」

「それも、王妃様がいらっしゃるまで一人として側室を入れずに!我々がどれほど気を揉んだか!」

「先王陛下も皇后様も、そのことに大分心配なされて!」

「王子にはそのように陛下の負担になどなっていただきたくないのです!」


こんな見え透いた言葉で私が頷くとでも思っているのか?要は自分達の娘を後宮に入れて保身を図りたいだけだろうが。

まあ、父上と母上が心配なさっているというのも本当だろうけれども。

それにしても・・・


「お前達は同じことしか口に出来んのか。その言葉、昨日も聞いたぞ」

「セラ様の意識を考えればこそ、同じ言葉しか出てこないのです」


正室に側室・・・な。


「・・・出かけてくる」

「王子!」

「フェーゼ、ついて来い」


部屋に控える乳兄弟でもある私付の女騎士――――フェーゼに声をかけ、五月蝿いままの大臣達を無視して部屋の扉を閉めた。

こういう時は、城下の酒場で飲むに限る。






自室で簡素な服に着替え、フェーゼを連れて外に出る。

城下でも指折りの人気酒場が私達の行きつけの店だ。

扉を開けるとドアベルがコロンと鈍く鳴って迎えてくれる。


「いらっしゃい、シシー。最近来る回数増えてない?」

「面倒ごとが多いの。リズの迷惑ってわけじゃないんだからいいじゃない」

「ま、そうだけどね。シシーもフィーも今日のオススメでいいの?」


頷くと、リゼは他の客の注文も聞きつつ厨房に消えた。

ここでは、私とフェーゼはそれぞれ“シシー”“フィー”と呼ばれ、女だてらにギルドの冒険者をやっていることになっている。

私は淡いオレンジのワンピース型軽鎧に革のブーツと短剣。

フェーゼは深い紺色の軽鎧に同系色のズボン、革のブーツにレイピア。


なぜこんな格好なのか?

王子が女装しているのか?


――――――とんでもない!! 私はれっきとした“女”だ!


父上が、男児が出来ないせいで母上以外の側室の話が出たとき、丁度おなかの中にいた私を男として育てると決意してくださりやがったせいで男と認識されてるだけで!

父上が、私が女だということを知っている人間を、母上と、乳母のオリゼと、フェーゼと、王宮筆頭医のリラン医師だけに留めたから、ほとんどの人間が男だと思っているだけで!


私を男だと思っているのだから仕方ないとはいえ、女に女をあてがってどうする!

全くもって貴族達の行動は腹立たしい。が、この苛立ちを母上命の父上に当てるわけにも行かない。

それに王家に男児のいない今に私が女だと知れたら・・・国に暴動が起きることなどたやすく想像がつく。

面倒なことだとため息をついてから、やってくる料理へと思いをめぐらせる。


このメニューは月の導き亭にしかない。客の顔を見て出すものを決める変則的なものだからだ。

その日の客の気分を推し量って何を出すのか変えてくるのだが、リズのチョイスは絶妙で外れたことがない。

奥に引っ込んだリズがまず持ってきたのは、度が強めの薬草酒と甘党にさえ甘いと言わせるチェリカの実のはちみつ漬けだった。


「はい、ジェッタ酒とチェリカ。ちゃんと歩いて帰れるくらいにしといてね」

「分かってるわよ。フィー、今日も聞き役よろしく」

「ふふ、了解してます」


フェーゼの笑い声を合図に、私は酒を一気にあおった。



店に来てから二時間。

意識はしっかりあるものの、程よく酔った私は愚痴り相手をフェーゼからリズに変えて話し込んでいた。


「だからさ、私はお見合いなんてする気がないのよ」

「そうね。シシーはまだ街の外を走り回ってギルドに獣肉を卸せるほどだもんね」

「それにさ。私はさ。結婚するにしたって男の人がいいわけよ。何が悲しくって女の子とお見合いしなきゃいけないのさ」

「そうね。ふつう結婚するなら異性と、って思うわよね」

「そりゃ女の子はかわいいと思うよ?甘やかしてあげたいよ?笑顔にしてあげたいよ?でもそれはまた別でしょう?」

「そうね。女の子を愛でることと好きな人と一緒にいるのは違うことだわ」


言いたいことを言うだけだし酔っ払っている自覚もある。

だから、こんな私の相手をわざわざしてくれるフェーゼとリズはやっぱり私の親友だ。


「もう、私結婚するならリズがいい」

「あらありがと」

「シシー、私ではだめなの?」

「フィーは好きな人いるでしょ。上司のジェラルドさん」

「え、そーなの?フィー、そうなの!?」

「な、し・・・じゃ、え、そ」

「『何で知っているの、じゃなくてえっとそんなことはない』」

「なんでわかるんですか!」

「「はい、フィー敬語直して」」

「あうぅ・・・」


真っ赤になって硬直したフィー、とっても可愛い。

ジェラルドさんも「王宮護衛騎士団長」なんて大層な役職についてる割には本当にヘタレ。

フェーゼにちゃんと告白すればいいのに。全く何年両片思いやってるんだか。


「それにしてもシシー。結婚するなら男の人、じゃないの?」

「リズならいーの。リズだもん」

「・・・・・・じゃ、私が男なら丁度良かったのね」

「まーね。でも、リズだったら男でも女でもいいよ。どっちでもきっと惚れてたし」

「・・・実は私は男でしたー、とかだったら?」

「リズが?・・・出会った頃だったら、どうだろ。今はそれでも気にしないかな?なに、本当は男なの?」


ニヤニヤ笑いながら尋ねると、リズはにっこり綺麗に笑って、さあね、と答えた。

結局その話題はそのまま流れて、そこから二時間ほど管を巻いてから私達は王宮へと帰った。

のだが。





「まだ月の導き亭は閉まっているのか?」

「はい。・・・本日はどうなさいますか?」

「・・・行く」


私達が最後に行った日を境に、月の導き亭は店を閉めてしまったようだった。

新たに気を抜ける場所を探さないことには、大臣達の顔を見るのも面倒になってくる。

朝食を共にした父上が変に上機嫌で私のほうを向いてニヤニヤしていたのが気になったが、一通り執務を終えてからいつものように変装して城下にくり出す。

もっとも、その足は前に比べると格段に重かったけれど。


閉まったままのリズの店を見てから街の外に出る。

ここら辺は街道から森へと少し入っただけで食肉になる小動物がちょろちょろと出てくる。だからそれを十匹ほど狩って街に帰り、そしてギルドで売る。

そうやって手に入れた分が、私が城下で使う金だ。

王宮の人間に言えばいくらでもとは言わないが小遣いとして渡してくれるだろう。

けれど、わざわざ国庫を使ってまで遊びたいとは思わない。

私が稼いだくらいで十分なのだ。

そうしてどこの店に入ろうかとぶらぶら覗き回り、そうしているうちに結局リズの店に来てしまった。


「・・・リズ」

「・・・本当に、急でしたね」

「私達何も言われてない。リズ、言うつもりもなかったのかな?」

「いやそんなことないけど」

「慰めなんて・・・」

「そうですよ。リズは・・・私にも、シシーにも、なにも・・・」

「ていうか店は閉まってないし。明日からはまた開けるからさ。どーぞご贔屓に」

「って、リズ!?」


口を挟んでくる聞き覚えのある声に気づいて振り返る。

いたのは金髪碧眼の美少年。リズに似ているがリズではない。

・・・弟、だろうか?


「・・・きみ、だれ?」

「やっだなあシシーってば、この短期間でリズ様の声を聞き忘れたとでも?」

「馬鹿なことを言わないでください。リズは女性ですし、君は男でしょう」

「だからリズだってば。シシーとフィーの親友であるリズは、実は男だったのデス」


にやっと笑うその笑顔はまさしくリズのもの。

でもその服装は、体は、どう見ても男のものだ。


「ど、して・・・?」

「いやさ、シシーはずぅっと私・・・おれ?のこと、女だと思ってたっしょ?」

「酒場の看板娘でしたしね。女性以外の何だと思えと?」

「でもさ、女だと思われてるうちは親友にしかなれないと思って、諦めてた。いまさら男に戻っても、拒絶されたりしたらどうしようもないってね。でも、違った」

「もしかして、この前の?」

「そ。アレを聞いたから、俺、勇気出して親父に反抗してみようかなって思ってさ。それで、無事男に戻りました」


おどけて言うものだから、フェーゼと一緒につい噴出してしまった。

出てくる言葉も、一つ一つの仕草も、全部リズのものだ。

そう思った途端よく分からない少年がリズと重なって、この少年がリズなんだと素直に思えてしまった。

なんだかほっとして、嬉しくなってくる。

そのまま二人でくすくす笑っていると、顔を赤らめたリズが一つ咳払いをしてからにやりと笑った。


「つきましては、シシー」

「何、リズ」

「俺と、結婚を前提として、交際していただけませんか?」

「・・・え?」


目が、丸くなった。

笑いが引っ込んで、フェーゼと二人でカチリと固まる。


「俺の父親は元宮廷楽師団団長ガラン・ディー。母親は元王宮護衛騎士団長の娘とはいえ庶民だけど、現王陛下直属の密偵総長兼城下での情報操作及び取纏め役ジェシカ・ディー。そして、俺はどっちつかずで両方の修行をさせられてる、変装だけなら密偵のだれにも負けない、本名リズラルト・ディー」

「リズ、ラルト・・・?」

「最初は普通の女の子だと思ってた。そのままのシシーを好きになって、でももし俺が男だって言っても好きでいてくれる娘なら、余計にこんな裏の事情には関わってほしくなかった。でも、シシーはただの平凡な女の子じゃなかった」

「リズ、貴方は・・・」

「俺はシシーが好きなんだ。フィーがなんと言おうと変わらない。だから、シシー・・・セラファムド・ディルカ・ガウェイン王女殿下。俺と、結婚してください」


気を抜いている上に混乱している状態で、入ってきた情報が処理しきれない。

リズが、男だって言うのは理解。

本名がリズラルトだったのも理解。

で、実は父親も母親も只者じゃなくて、特に母親なんか今でも只者じゃなくて。

で・・・私に、プロポーズ、して、いて・・・。


「・・・む、無理。私は男として、生きていかなきゃ」

「それならたぶん大丈夫。母さんと協力して情報操作するから、俺が(リズ)として後宮に入ればいい。必要なときは俺がシシーの振りして対応するから」

「でも、それだとリズに負担が・・・」

「大丈夫。一人ずつだったら重いかもしれないけど、二人で背負ったらいい。俺は、シシーと一緒にいたい」


どうしよう、とついフェーゼを見る。

そしたら呆れたように、受けても反発は少ないだろうと言ってくれた。


「かの剣聖デラック・ファンの孫娘を正室に、というのであれば貴族も仕方なしとはいえ引くでしょう。側室をという声は絶えないでしょうが」

「だろうね。じいちゃんの名前、売れまくってたらしいし。今でも馬鹿みたいに強いし元気だし、俺に稽古付けに来るし。現役の頑固爺だよ。名前くらい使ったらいい。だから・・・」


リズは真剣な顔をして、すごく優しい目をして。


「これからのシシーの人生に、俺を、隣にいさせてくれ」


そう言って、笑ってくれて。


差し出された手に、私は自分の手をゆっくりと重ねた。



実はジェシカさんから聞いて王子達の動向を把握していた王様。

そして王様もリズを「部下の子供」として可愛がっていたりします。


踊らされているのは貴族、それからシシーにフィー。

王妃様も「女の子の息子が出来るのね~」とか喜んでいたりします。

続く・・・か、も?


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