第七話 Who is this?
「いてッ!!何するわけ、俺のキレイな顔に傷でも付いたらどうしてくれんのぉッ!」
「おいコラ!!うるさいっちゅうたんが分からんのかぁっ、ドアホぅ!!」
岩多先生は説教を続けているが、男の子は何処吹く風で口笛を吹いている。
――ピー…ピー…
…せめて歌を吹いてほしかったなぁ。
「――大体、おみゃぁの顔はいつキレェになったんや?ブルドッグのがよっぽどキレェじゃぞ!!」
岩多先生の目が血走っている。正直いうと、かなり恐い。
どうやら岩多先生は、あたしのことを忘れてしまっているらしい。
部屋のすみっこでじっとしているから、気付きにくいんだろうか。
…まあ気付かれても説教されるだけだから、別にいいんだけど。
その時、男の子と目が合った。
――結構大きなクリクリっとした目をしているのに、印象はスポーツ少年風な爽やか系だ。
「あ!香山だぁ〜!!」
「――あの…どちら様ですか?」人の顔を覚えるのは苦手だ。
あたしの脳内メモリーに記録されているのは、親の顔と、先生の顔と――
李斗の顔、そして野純さんの顔だけ。
「どちら様って…。お前もしかして、クラスの奴の顔覚えてないだろ…?」
あたしは黙って下を向いた。どうせまた、バカにされるんだろう。
「図星!?図星だねその態度は!!」
ああ、この場から逃げ出したい。先生もいるし早…
「メチャクチャかわいぃ〜ッッ!!」
「――はぁ!?何それ、どういう意味!?っていうかあなたは誰なのよッッ!?」
思ったことをそのまま、裏返った声で叫んだ。
…かなり失礼だなぁと、言ってから反省した。
「俺はぁ、お前と同じ1‐dの遠屋 天だよ。あ、呼ぶ時はテンでいいから。君とか付けんなよッ!」
――んーと…
あたしは無言のまま考えた。
こんな人一回見たら忘れるもんじゃない。もしかしたら、覚えてるかもしれない。
…ダメだ。記憶に無いよ、こんなクラスメート。
「……」
「お〜い…」
「……」
「…お返事は?」
「…ハイ。」
遠屋く…テンはぷうっとふくれた。
「蘭、反応遅過ぎ!!どこに意識飛ばしてたん?」
ヒクリと体が反応した。あたしは、名前を呼ばれることに慣れていなかった。
「……まえ……」
「ん?何だよ?」
「……今、あたしの名前、呼んだ……?」
「呼んだよ?香山さんって呼びにくいしさぁ。あ、もしかして名前で呼ばれることに慣れてねぇの?」
何でわかったんだろう。超能力でもあるんだろうか。……謎だ。
テンは、あたしの手をつかむと、言った。
「じゃあ、周りの奴は蘭を名前じゃ呼ばねぇわけだ。俺だけ呼べるなんて光栄です、姫さま!」
「…テン…」
コホンと、岩多先生が咳をした。
「あー。邪魔みたいだからワシは授業に戻るぞ。昼までここで反省文を書いているように!」
「「…ハイ。」」
それじゃあなと言うが早いか、岩多先生は飛び出していった。