第五話 1限目
あたしのお腹には見事な痣ができてしまった。
そして、あたしはその次の日から『野純 由羽の彼氏を強引に奪おうとした』コトになっていて、仲が良かった友達全員からシカトされるか、悪口を言われるかのどつちかになってしまった。
最初はあたしも悪口を言われるたびに否定していた。
あたしはそんなことしてないって、何回も言った。
けれど、――けれどみんなの心にその言葉が届くことは無く、イジメは今日まで続いている、というわけだ。
――それは授業中だって例外ではない。
ゴォーン…ゴォーン…
鐘が鳴った。
あたしの私立志杜山学園は仏教を重んじており、チャイムは隣のお寺の鐘が代わりをつとめている。
校長に言わせれば『生徒達が仏教に親しみをもち、チャイムにかかる費用を削減できる画期的な案』らしいのだが、鐘のおかげで仏教に親しみを持った生徒などいないのではないか、とあたしは思う。
…
1限目は歴史だった。屋上にいたあたしは小走りで教室に向かった。
まだ先生が来ていないのを確かめてから、ガラリとドアを開けた。
――ザバァァ……
上から水が降ってきた。もちろんかわせなかったので、ビショビショになってしまった。
「「「「バカじゃねぇ?」」」」
クラスメイトは一斉にそう言うと、ゲラゲラ笑いだした。――んー…どうしよっかなぁ……
その時歴史の岩多先生が教室に入ってきた。
びしょぬれのあたしに向かってあんぐりと口を開く。
「何しとんのや香川!」
関西出身の岩多先生はグチグチとお説教を始めた。――あたしに向かって。
「お前はここに何しに来とんのや!毎度毎度そんな格好で!ちっとは恥を知れ、恥を!」
――違う、あたしじゃなくて皆を怒ってよ。
「ちょっと、来い!」
あたしは岩多先生に手を引かれ、教室を出た。