第一話 メール
それは確か2ヵ月前のことだった――
《蘭、助けて!俺殺される!!》
李斗からそんなメールが来た。
あたしは何事だろうと思った。
李斗は気が強く、誰にも負けないという絶対的自信を持っている。
その李斗が助けを求めてくるとは、一体何があったんだろう。
とりあえずあたしは返信をしておいた。
《わぉ、李斗があたしに助けを求めるなんて以外だね。何があったの?》
5分とたたないうちにメールが返ってきた。
《蘭の近くに誰かいる?電話したいけど聞かれたら嫌な話だから…》
あたしの後ろには弟の未来太が算数の宿題と戦っていた。
《今未来太が後ろで算数やってるよ。いつ親が入ってきてもおかしくないし((汗》
あたしの母さんは悪い人ではなかったが、最近妙にあたしの部屋を覗くようになってきた。
《じゃあ俺の家にきて!!母さん仕事でいないから!!》
――あれ?
あたしは違和感を覚えた。
李斗は自分の母親を“母さん”とは呼ばず、“珠子さん”と呼んでいた。
それは珠子さんが李斗の本当の母親ではないからなのだが。
李斗の母親、宮満さんは、6年前に病気で亡くなった。
しばらくは父親と暮らしていたらしいのだが、父親が行方不明になり、妹である珠子さんが預かることになったんだとか。本当かどうかよくわからないが。
あたしはハッと我に返った。
――今はこんな事をしてる場合じゃない。早く李斗の家に行かなくちゃ
あたしは帽子をかぶると、ダッと駆け出した。