第十話 曝睡少年
「…おーい!テーン!」
どんなに呼んでも。
「悪いけど非常時だから許してくれよっ!」
《パシッッ》
力自慢の男子が思いっきり平手打ちをしても。
「「「意識無いねぇ…。」」」
みんなで不吉な言葉をハモってしまった。
非常時と言うだけあって、シカトも休業中だ。さすがに話しはしないけど、みんなと同じ空間にいることができた。
「さすがに呼吸はしてるよなぁ…?」
「つかさぁ、なんで倒れてるわけ?殴られてねぇから、貧血かなんかか?」
「保健室連れていった方がいいんじゃない?」
「呼吸はしてるんじゃない?お腹動いてんじゃん。」「次、英語じゃん。平澤先生優しいから、早退とかパパッとやってくれるっしょ。」
「そっか!次は恵海ちゃんの授業かぁ!!絶対大丈夫だし!!」
みんなが口々に騒ぎだす。
そこへ平澤先生が入ってきた。騒いでいたから気付かなかったけど、もうとっくに鐘は鳴ってたんだ。
「授業始めるから、席に着いてね〜。」
平澤先生、いくら知らないとはいえ危機感無さすぎです。
「ちょっと恵海ちゃんそれどころじゃないって!」
「遠屋が倒れたんだよッ!意識不明の重体なんだよぉッ!!」
「イヤ、意識不明っていうより寝たまま起きないっていうほうが正しいんじゃないかな〜?」
「「「えぇッッ!?」」」
みんなが振り返ると(今までは平澤先生に訴えるために前を向いていたのだ)、クラス一の学力を誇る森洞が脈を測っているところだった。
「特に何も異常が無い。一発バキッと殴れば起きると思うけど、僕としてはこのまま休ませたほうがいいと思うよ。」
そう言いながら、指をバキバキと鳴らしている。殴る気満々なんじゃないだろうか?
みんなが沈黙していると、ずっと唸っていた平澤先生が、ぽんと手を叩いた。
「それじゃあ遠屋君には早退してもらうってことで。ちょっと待ってね…。」
すぅっと息を吸って。
「はぁっ!!」
ヒュッと手を伸ばし。
――ひたっ
テンの鼻をつまんだ。
――数秒経過。
テンは。
「…ぅげほっ」
いささか苦しそうに起きてきた。
平澤先生は、そんなテンににっこりと微笑みかけた。
そして。
「おはよう、遠屋君。君さ、顔色が悪いから早退してね〜。」
と言うと、いつの間にかまとめられているカバンを渡して、教室から出してしまった。
…あっという間の出来事だった。
「…恵海ちゃん。早退届け書かせなくてよかったの?」
女の子が、心配そうに尋ねる。
平澤先生の返答は。
「うわ〜。忘れてたわぁ。ま、いっか。偽造しちゃえば。」
――教師とは思えません。
あたし達は、みんな揃って口をあんぐりと開けていた。