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無実の証明方法

 迷宮都市バスティア。

 地下に存在する迷宮を攻略するため、冒険者達がその上に拠点を築いたことが始まりとされている。

 今では『ギルド』と呼ばれる組織に管理・運営されていた。

 目的は今も昔も変わらず迷宮最深部への到達だ。

 そこには神々の時代の武具や財宝、果ては力までが遺されていると言い伝えられている。


 そして、ここにある迷宮は既存の物と大きく異なる点があった。


 それは迷宮の難易度。

 決して出現するモンスターの強さや存在するトラップなどで難易度が高いわけではない。

 むしろ、一般的な迷宮よりは弱いと言っても良いくらいだ。

 そのような要素では無く、この迷宮は――ソロ専用の迷宮なのだ。


 迷宮の入場には『ゲート』と呼ばれる門を通る必要がある。

 見た目では何の変哲もない門だ。

 扉が無く、その先には通路が続いているだけのように見えるのだが実は違う。


 歪んでいるのだ。


 ゲートを一歩でも超えればそこは既に迷宮の第一階層。

 見えていたはずの通路は影も形もない。

 研究がある程度進んだ現在では、ゲートには太古に失われたはずの『歪』属性の魔力が込められており、地下に存在する迷宮へ進入出来るように空間自体を歪めていることが判明している。


 別の進入方法は無い。

 よって、この迷宮に挑む全ての者はゲートの通過を義務付けられ――


 それぞれ別の迷宮へと割り振られるのだ。


 たとえ2人同時に足を踏み入れても1人で迷宮を攻略しなければならなくなる。

 その要素が難易度を高め、結果的に多くの冒険者を死に至らしめてきた。

 迷宮や塔などの攻略時にはパーティを作るのが基本となって来た近年、挑戦者が目に見えて減ってしまったがギルドとしては何としても最下層まで攻略し、神代の遺物を手に入れたい。

 そこで、攻略のための人員として集められたのが――


「貴方がたのような罪を犯した者、という訳です」


 とても、懇切丁寧に講義を行なってくれた少女は「ご静聴、ありがとうございました」と言わんばかりにぺこりと頭を下げる。


 罪人と勘違いされた俺は痛みに悶えている内にここ、ギルド支部まで連れて来られていた。

 そこには既に数人の罪人らしい人間が集められており、しばらくしてギルド側の人間から説明が行われた。


 これは何のチュートリアルだ?

 そういった考えが頭をもたげるが強引に封殺する。

 ここは現実。至る所に死が蔓延っているのだ、と。


 それを実感させてくれたのは説明をしてくれた少女だ。


 説明の序盤、んなもんどうでもいいからさっさと進めろ、的な暴言で場を乱した男がいた。

 少女は男を一瞥すると小さく何かを呟いた――そして、男は溺れた。

 少女の目の前の空中に描かれた魔方陣から水球が発射され、男の頭部に命中。

 水はそのまま頭部を包みこみ、呼吸を完全に阻害してしまったのだ。

 ちなみに、溺れた男は気絶しているようだが生きてはいるようだ。

 だが、途中で少女が魔法を解除しなければ溺死していただろうことは十分に理解出来た。

 奇しくも俺のすぐ隣で起こった出来事だった。




「何かご質問があれば承ります」


 事務的な言葉に反応は無い。

 この場の全員が最初の鮮やかな殺人未遂を目撃していたのだ、冷やかしどころかざわつき一つ無い。

 しん、と静まる中で俺はゆっくりと声を発した。


「一つ、聞きたいことがある」


「……何でしょうか、レキア・ノーネーム」


 ノーネーム? ……あぁ、『No Name』ってことか。そういやレキアとしか名乗ってないしな。

 いや、そもそもなんで名前を……待て、それはどうでもいいことだ。

 ぐずぐずして擬似的溺死体験をしたくは無い。


「ここには罪人が集められているが、もしも冤罪――無実の罪を被せられた者がいた場合はどうなる? 例えば俺は罪を犯し捕まった覚えなど無い。リストにも名前は無かったし、馬車を降りるまではこの腕輪もしていなかった」


 俺に嵌められた腕輪は『呪縛の腕輪』といい、主に逃亡防止用のアイテムらしい。

 俺の腕を掴み、乱暴に立ち上がらせた男がくれた情報だ。


「――その場合はどうなる?」


 俺の一言を契機に罪人たちが騒ぎ出す。

 罪を犯したことなんて無い。何かの間違いだ。……etc

 だが、それも突如として掻き消える。

 理由はただ少女が喋り出しそうな雰囲気を察しただけ。

 なんだか、調教されてる気さえしてくる。


「ご心配なく。貴方がたがこれまでにどれほどの罪を重ねてきたか、今に分かります。そう――」


 少女が言葉を切ると、待ってましたと言わんばかりに別の部屋から何かが運ばれてくる。

 台に乗せられたそれは、黄金に輝く天秤。

 片方の皿に純白の羽根が置かれ、もう片方の皿には透き通った水のような液体が張られている。

 不思議なことにそれらは、釣り合いが取れているように同じ高さに存在していた。


「――――『カルマ』を、測定していただきます」


 少女はまるで、死刑宣告のように囁いた。

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