自称サバサバ義姉が面倒なので、呪われ公爵と婚約します
「私ってサバサバしているじゃないですかぁ。だから、デリアちゃんにもこの際、はっきり言おうと思ってぇ」
「なんでしょう、お姉様」
私は必死に笑顔を作っていた。さぞ引き攣った笑顔だろうが、相手は気づいていない。義姉は優雅にお茶を飲みながら、私の欠点を並べ始めた。
「デリアちゃんは、なんか暗いしぃ。読書好きとか言って頭良さそうにしているのも嫌味っぽいしぃ。笑わないしぃ。貴族の殿方にも無愛想で、本当感じ悪いからぁ」
「失礼ですね、お姉様」
「私ってサバサバしているからぁ。思っていることが口に出ちゃうんだわぁ」
単なる無神経とサバサバしている性格との差がわからなくなってきた。義姉の細い目やそばかすだらけの頬を見ながら、なんとか笑顔を保つ。
本当は嫌味の一つでも言い返したい。我が家まで押しかけ、自称サバサバの元、悪口三昧じゃないの。自称サバサバ、サバサバ、サバサバ、サバサバ……。耳にタコができそう。
そうは言っても我慢するしかない。兄の嫁だし、没落しかけた我が男爵家を支援してくれたのも彼女だ。根は悪くない。もしかしたら本当にサバサバしているだけだとも考えられるが、面と向かって悪口を言われる私の身にもなって欲しい。
「しかもデリアちゃんって、もう二十五歳なのに縁談もまとまっていないなんて。可哀想。行き遅れって笑われているなんて」
「お姉様、同情は嬉しいのですが、今は読書と手芸を楽しみながら行き遅れライフを楽しんでいますし」
「そんなデリアちゃんに縁談を持ってきてあげたわ」
この義姉、全く人の話を聞いていない。勝手に縁談の話まで進めていた。
「ちょっと、待って。お姉様、私は趣味に忙しく、結婚するつもりはないのですが」
「可哀想なデリアちゃんだわ。強がらなくていいのよ。私が最高の縁談相手を紹介してあげるから」
最高の縁談相手といっても悪い噂の男だ。屋敷に引きこもり、カエルの姿に変えられているという噂。魔女の怒りを買ったとかいう噂もあり、貴族界隈では「呪われ公爵」と呼ばれていた。素性も顔も知らないが、義姉は「デリアちゃんにピッタリ!」と太鼓判。
言い返そうかと思ったが、面倒になってきた。結婚したら面倒な義姉と合わなくて済むかもしれないし、友達のマーガレット・バリサリー令嬢も結婚生活が楽しいと言っていた。なにより面倒な妹から離れられてよかったという。
「わかりましたわ、お姉様」
動機が自称サバサバ義姉が面倒だったからとは口が裂けても言えないが、縁談を受けいれることにした。
もっとも本当に呪われているかは気になるもの。最近は魔女と少年が戦うファンタジー小説も読んだばかりだし、一回ぐらいは義姉の顔をたてて会いに行ってもいいか。
噂通りの屋敷だ。一応貴族らしく豪勢な屋敷だが、周りは木々に覆われ、カラスの鳴き声も響く。しかも裏手には墓地まである。
「なんか嫌な予感……」
天気も曇ってきたし、本当に呪われた公爵がいるのかしら。
「でも自称サバサバしている義姉よりはマシか。可愛いカエルだったら愛でてあげましょう」
もう行き遅れ令嬢として物笑いのネタにされているし、怖いものはないわ。
そしてメイドに客室に案内され、噂の呪われ公爵に会ってみたが……。
「俺は漆黒の血に染まった呪われ公爵、クレイグ・エーメリー」
「は?」
呪われれ公爵はカエルではなかった。むしろ変なポーズをつけ、キメ顔をしていた。右手には包帯も巻いていたがどうみても怪我をしていない。健康そのものって感じ。それにわざとらしく目の周りにクマも。まさか、化粧で塗ってる?
「もしかして、中二病……?」
「そんなこと言うな!」
子犬のようにギャンギャンと言い返してきたが、この公爵、前世の「設定」とか異様に細かく、私は思わず吹き出してしまった。何この面白い人。面白い男?
「公爵さま、その深い設定を詳しく教えてくださらない? 私も小説が好きなんです。特にファンタジー小説が」
「な、なぬ!」
「こんなに笑ったの久しぶりよ。いつもは屋敷にこもって本ばっかり読んでいたから」
「そうか。それはつらいな……。俺だって血濡れた漆黒の結界作りに忙しく……」
「本当、面白いお方! ふふふ」
なぜか公爵と会うたびの笑いが絶えず、結局、私このまま縁談を受けることに。呪われていたという噂も「設定」に尾鰭がついただけらしく、さらに笑ってしまう。
ちなみに公爵はその後、作家に転向し、重存分ファンタジー世界を作り出しているという。もっとも、そのおかげで彼の中二病は治癒に向かい、今では純愛小説も手掛けている上、隠れイケメン小説家なんて囁かれている。
「全く、デリアちゃんがそんなイケメン小説家と結婚したなんて……。私、サバサバしているから言っちゃうけど、そういう人に限って浮気性なんじゃない?」
相変わらず義姉は押しかけてきて心配、いや、余計なお世話をしてくるが、そんな予兆は一切ない。毎日、私達は笑顔で暮らしている。
まあ、万が一義姉のいう通りになっても大丈夫。夫の「黒歴史ノート」は全部私の管理下だ。いざという時、切り札にするつもり。




