9話「大声を出せばいいというものではない」
「お姉たまぁ、あたしぃ、今日は釣りごっこがしたいのぉ」
「はぁ!? 何だそれっ」
「ぼくはかけっこがいい~。走るの大好きだからさ~、走りまくりたいよ~」
今日も子どもたちの相手をしている。
「ちょっとぉ! 余計なこと言わないでよぉ!」
「何だよ偉そうに!」
「も~、喧嘩しちゃ駄目だよ~。やめてよ~。ぼくそういうの嫌いだよ~」
「釣りするのぉ!」
「落ち着いてよ~、落ち着いてよ~、落ち着いてって~」
子どもたちはその幼さゆえに時に険悪になることもある。意見が違った時なんかはその代表例である。ただ、それでもなんだかんだでまた楽しく遊べるというのが、彼ら彼女らの良いところでもあるのだ。険悪になってしまう時があったとしても、喧嘩したとしても、それでもまた友達に戻ることができる。それは無垢な心を持っているからこそだろう。
そんな子どもたちを見つめていると柔らかく優しい気持ちになることができる。
「落ち着いてよ~、話し合おうよ~」
「……んもぉ、分かったわよぉ」
「俺かけっこか鬼ごっこ」
「今日は絶対釣りよぉ」
「両方するっていうのはどうかな~」
「まぁいいけどぉ」
「時間は均一にしてくれよ」
「うんうん~。それがいいね~。そうしたらみ~んながやりたい遊びできるし~、平和的解決だね~」
子どもだけではなく大人もこんな風に関係を築けたならどんなに良いだろう。
時に非を認め。
時に謝り。
話し合いながら前向きな関係を作ってゆけたなら。
――そんなことを思っていた、その時。
「ちょっといい?」
誰かに急に声をかけられて。
「久しぶりね、性悪女」
振り返るとそこには見覚えのある顔――アレンティーナが立っていた。
「貴女は」
「ダットが愛する女・アレンティーナよ」
まさか彼女が私の前に現れてくるなんて想定外だ。
どこまでも逃げ回るものと思っていたのだが。
「……何の用ですか」
「子どもの世話して点数稼ぎしてるんですってね、相変わらずこざかしい女ね」
「点数稼ぎ? 意味が分かりません」
「聞いたわよ。あんた、王子殿下にすり寄ってるんですってね。高貴な人を手に入れるために近所の子どもたちを利用するなんて悪女の極みね、ホントこざかしい」
何を言っているのか。
私は子どもを利用してなどいない。
「子どもを利用なんてしていませんし、点数稼ぎもしていません。殿下と知り合いになったことは事実ですが、私から動いたわけでもないですし、そうなったのはたまたまです」
「嘘はいーのよ! ぜーんぶ真実知ってるから!」
「……恐らくですが、貴女が真実と思っているものは真実ではないと思います」
「真実は真実よ。あたしが言えばそれが真実なの。分かるでしょう?」
「すみませんがまったくもって理解できません」
すると突然掴みかかってくる。
「分かりなさいよ!!」
アレンティーナは鬼のような形相で襲いかかってきた。
「あたしが言ったことを否定するなんて、どういうつもり!? ふざけないで!! ダットに捨てられた女の分際で!!」
「えええ……」
「ダットに捨てられたんでしょ!? 婚約破棄されたんでしょ!? それって女としての価値がないからじゃないの!! それなのにそんな偉そうな物言いして!? あり得ないでしょ、そんな態度!!」
いや、もう、意味不明の極み……。
「そうです、以外の言葉を発するのは禁止よ!! あたしが言ったことを否定することは認めないわ!! たった一度だとしても、よ!! 分かった!? 分かったの? ねえ! ねえ!! 分かっているの!?」
「落ち着いてください」
「うっさい!! 黙れ!! 口ごたえするな、ごみ女が!!」
「子どもたちが怖がるので大声を出すのはやめてくださいませんか」
「じゃあ認めろ!! あたしが言ったこと全部認めろ!! 子どもの世話して点数稼ぎしてること! 性悪なこと! ダットに捨てられた価値なし女なこと! 全部事実じゃない!? そうでしょう!? そうと言いなさい! 否定は絶対に許さない! 認めるまで静かになんてしてあげないわ! 静かにしてほしいなら全部認めなさい!! 認めなさいよ!! すぐに!!」
彼女は必死に叫ぶけれど、私は首を横に振る。
事実でないことを事実であると認めることは私にはできない。




