15話「心揺れる日々」
それからの数日間はずっと心ここに在らずだった。
こんなに心痛むのはいつ以来だろう。
穏やかな温もりに触れて忘れていた。
幸福の脆さ。
幸福の儚さ。
その本当の意味を。
幸せの価値に、気づいているつもりで真の意味では気づけていなかった――私はどこまでも甘い人間だった。
私は普通の人間だ。だからこういう時彼を支えることができない。そんな位置にいられる立場の人間ではないから。平時にはああやって穏やかに笑い合えているのに何かがあった時には離れたところから無事を祈ることしかできない、その事実がいやに胸に突き刺さる。
すぐに駆けつけて声をかけたい。
大丈夫、と。
支える、と。
真っ直ぐにそう言いたい。
……でもそんなものは叶わない夢だ。
状況を問い合わせることはしてみた。
すると丁寧に対応してはもらえて。
彼と私が少々仲良しになっているということは城の人も知っていた様子で、無視はされなかったけれど、当たり前だが面会することは不可能で。
このままもうずっと会えないのかな……、なんて、後ろ向きな思考が脳内を満たす。
こんな状態ではいけない。こういう時こそ前向きであらなければ。そう思うのに、理想的な思考でいることは信じられないくらい難しくて。思考を自分の意思で操作するということは難しいことなのだと強く実感する。
そんな状態で迎えた平凡なある朝、自宅の郵便受けに一通の手紙が届いた。
「届いてたぞ」
「手紙? ありがとう。ええと……」
送り主の名を見て、驚く。
「えっ!!」
――それはラムティクからの手紙だったのだ。
そのことに気づいた瞬間、胸の鼓動が急激に加速する。
バクバクと鳴る心臓。
鳩尾が熱を持つ。
気を緩めると胃を吐き出してしまいそう。
『マリエさんへ』
書き出しはシンプルだった。
『もうご存知かもしれませんが、先日仕事中に襲撃があり、現在入院しています。心配お掛けしていましたら申し訳ありません』
一文一文読み進めていく。
『ですが無事です。生きていますし、大した怪我ではありません。しばらくは入院して治療を受けることとなるかと思われますが、騒がれているほどの負傷ではありません』
徐々に心がほどけて。
『また、近々退院できるかと思われます。日はまだ決まっていませんが退院しましたらいつかまたお会いできると嬉しいなと思っています』
涙が溢れた。
彼は生きている――!
たった一つ。
それだけのことが今はこんなにも嬉しい。
『先日の件につきましても、よければぜひ、後日お返事聞かせてくださいね。(せっかちですみません)前向きなお答えをいただけるといいな、と夢を抱きつつ……今はのんびりしています』
魂が蘇ってくるかのようだ。
かつて確かに在った幸福感という温もりが心臓を満たしてくる。
『ラムティクより』
ああ、こんなに、こんなに嬉しくて幸せなことはない……。




