12話「じゃんけんから始めよう」
「今日は王子殿下も一緒に遊ぶことになったわ」
いつも遊んでいる子どもたちの前に立ってそんな言葉を発する。
「ご本人の意思もあるから過剰に気を遣う必要はないけれど、酷い無礼はないように一応気をつけて。特に、怪我させるのは駄目よ」
ラムティクが「一度マリエさんやお子さんたちと一緒に遊んでみたい」と言ってきたので、私はそれを受け入れた。
私に親しみを持ち、私を助けてくれる、そんな彼の希望だったからなるべく応えたいと思ったのだ。
「ええーっ。本当に王子さまなのー!? すっごぉーい! 王子さまなんて絵本以外で初めて見たーっ」
「案外普通の男の人なのね」
「お姉たまの方がぁ、好きだけどぉ……でもぉ、お姉たまの大切な人ってことならぁ、こっちとしてもぉ、できる限り大切にしなくちゃってぇ……そうは思うかもぉ、接し方ちゃんとしよぉっと」
王子という高貴な人が一般人のいる地域へ出るということもあり、さすがに護衛兼従者はついてきている。ただそれも一人だけである。本来であればもう少し多い数になるところなのだろうが。しかし彼はそれを望んでいなかった。護衛兼従者をぞろぞろ引き連れていては子どもたちを変に緊張させてしまう、そう考えている彼は大勢を連れ歩くことを良く思っていなかったのだ。そういう本人の意向もあって、護衛兼従者は一人だけとなったようである。
「マリエさん、何をすれば良いですか?」
「そうですね……ではじゃんけん大会などはどうでしょうか」
「じゃんけん?」
「はい。ご存知ないですか? こうやって、手を出して、形を作って――」
「いえいえそれは分かっていますよ」
「すみません……」
「こちらこそ分かりづらいことを言ってしまい申し訳ないです」
「ではじゃんけん大会で問題ないですか?」
「はい!」
第一の遊びはじゃんけん大会となった。
「じゃんけんかぁ~、珍しいのに決まったなぁ~」
「殿下が参加なさる以上遊びづらい遊びにすることはできないもの、理解してちょうだい」
「大丈夫だよ~、お姉さん~、ちゃ~んと理解してるよ~」
「ありがとう」
これはあくまで導入。
まずは簡単な遊びから始める。
そうすればラムティクも馴染みやすいはずだ。
「王子さまかっこいい~」
「お姉たま派だけどぉ、お姉たまの大切な人のことをぉ、傷つけるようなことはしたくないからぁ、頑張って接待するわぁ」
「おいお前! 接待って! 言い方!」
「でんでんででん、でん、ででん、でんでん。でんでんでんか、で、ででんでんか、っ、でんでんでんっででんでででんか。かっかっかかっか、でんかか、でんかっ。でんでんででん、でん、ででん、でんでん」
「お前さっきから何言ってんだ? だいじょぶか? ……いろんな意味で」
ああ、でも、この穏やかな時間が本当に好きだ。
心からそう思った。
純真な子どもたちと一緒に遊べる時間。
理解ある優しい人と共に在れる時間。
その二人が重なり合って流れている今この時は本当に幸せで、これ以上の時間なんてきっとないと強く思う。
「「「じゃーんけん……ぽん!」」」
穏やかな時の流れはあっという間だ。
そして幸せな儚く脆い。
だからこそ、ただひたすらに真っ直ぐに、そのありがたさを見つめ続けなくてはならない。
目を逸らしてはならない。
失ってから気づいても遅いから。
「ま、負けたーっ」
「負けた負けた負けた」
「王子さまつよーい」
「じゃんけんはあまり強くないので今回はたまたまです」
今在るものを大切にしよう。
崩れてしまわないように。
失われてしまわないように。
できる限り、この手で護り続けよう。
「「「じゃーんけーん、ぽい!」」」
幸せを感じれば感じるほどにそう思う。
「また負けたーっ」
「二連続負けぇ……ちょっとぉ、悲しいわぁ……」
「でんでんででん、でん、ででん、でんでん、でんでんででん、でん、ででん、でんでんでんでんで、でん、でん、ででん、でんでん、かっかか、でんでんででんでんででんでんでん」
「王子さまじゃんけん強すぎー」
「ま、まさか。また勝てるとは。こんなこと滅多にありませんよ」
ラムティクはじゃんけん大会を楽しんでくれているようだ。
「王子さまもしかしてイカサマ師!? かっこいい!!」
「イカサマ師……面白いことを言いますね」
……たまにハラハラするけれど。
「もう! そんなこと、言ったら駄目でしょ? 失礼じゃない!」
「マリエさんマリエさん、いいんですよ、怒らないでください」
「すみません……」
「楽しいですよ。柔軟な発想も含めて若さですから。意外なアイデアが出てくるのは面白いです」




