表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 
8/58

真の制裁




 魔法契約の本当の恐ろしさが判明するのは、夕食の準備をしていた時だった。

 昼は料理人達が倒れて用意出来なかった為、店で買った物を食べたから気付かなかったのだ。

 因みにロラは、気分が悪いと食事を拒否していた。



「料理長、何を作ってるんですか?」

 下拵えをする使用人が、怪訝な顔で料理長に問い掛けた。鼻を押さえているので、声がくぐもっている。

 通常では絶対に有り得ない事である。

「何って、夕食に出すシチューに決まってるだろ!」

 怒りを(あら)わに料理長は怒鳴りつけるが、使用人は引かなかった。


「それ、腐った臭いがします」

 その言葉に同意するように、顔色の悪い何人もの人間が頷く。

「は? 何を言ってるんだ?」

 そこで異を唱えたのは、魚のムニエルを作っていた料理人だった。

「あの……それも、臭いですよ」

 横から別の使用人がおずおずと口を挟み、ムニエルを指差した。



 怒った料理長は執事を呼びつけて、下働きをしている使用人全てを解雇するようにと、顔を真っ赤にして叫んでいる。

 それに同意するように怒っている料理人達と、解雇すると言われ青い顔をしている者。

 そこには明確な線があった。


「解雇する理由を聞いても?」

 執事は努めて冷静に問い掛けた。

「こいつらは、俺の、いや俺達料理人の作った料理が臭いって言いやがったんだ!」

 怒り心頭に発している料理長は、執事に食って掛かった。


「臭いですよ」

 執事は静かに、しかしきっぱりと言い放った。


「は?」

「厨房に入った瞬間から、腐った臭いがしております。何か腐った食材が置いてあるのかと思ったのですが、まさか料理の臭いだったとは」

 執事は鍋の蓋を開け、すぐに閉じた。


「味見はしたのですか?」

 執事に問われ、料理人達は顔を見合わせた後、全員が首を振る。

 自分達の腕に、絶対的な自信があったのだろう。作り慣れた料理だから、味見は必要無いと。


 執事は置いてあった小さいスプーンで鍋の中身を掬った。すぐに蓋を閉める事を忘れない。

 ほんの少量を口に含み、すぐにポケットからハンカチを出して口元へ持っていき、ペッと吐き出した。



「自分達でも食べてみると良いでしょう」

 執事はそれだけを言うと、厨房を出て行った。

 下級使用人達は、解雇される心配は無くなった。しかし身を寄せ合って、何やらコソコソと話している。


 執事に「臭い」と指摘された料理人達は、急いで料理の味見をした。

「うっ」

「不味い」

「臭い」

「腐ってる?!」

 味見をした者全員が、料理を吐き出した。


「匂いは普通なのに……」

 どうやら料理人達は、自分達の料理の臭いが判らないようだ。

 しかし、味は正確に判るらしく、顔を青くしている。

 一人の料理人が皆の顔を見回して言った。

「奥様の命令で()()()()の料理を作った者達では?」

 お飾り様とはレベッカの事で、ロラを奥様と呼ぶ為に付けられた蔑称だった。



「そういえば、ロラ様が何を食べても腐ってる、と文句を言ってたな」

 騒ぎを聞いて厨房を覗いていた給仕がポツリと呟く。

 朝、原因不明で倒れた者と同じ顔ぶれが、おかしな事になっていた。


 命令した者と、実行した者。

 無関係とは思えなかった。


 使用人達は、魔法契約の事など知る(よし)もない。

 ()()の命令に従っただけなのに、と納得がいかなかった。

 だが納得しようがしまいが、関係無い。

 (くだん)の料理人達が調理した食材は、全て腐臭を放ち、腐敗味になる事が判明した。


 しかし、彼等が解雇される事は無かった。

 原因がロラだったせいもあるが、ある意味支障が無かったからだ。

 ロラは全て、何を食べても腐った味に感じるようになり、ジョエルは何も感じなくなったから。


 一見ジョエルの方がましに見えるが、実はそうでも無い。

 味の変化が判らないという事は、毒にも気付けないという事である。

 そうでなくても、普通なら食べられないほど濃い味付けでも、気付かずに食べてしまう。


 毎日毎食、内臓に負担の掛かる食事を食べ続ければどうなるか。

 食事をするのが、恐ろしくなる。

 そしてそれを確認する術は、ジョエルには、無い。




今回は前話とセットで読んで欲しかったので、特別更新です(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ざまあ史上最速の展開が繰り広げられている
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ