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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
蛇足(ざまぁのその後)

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あとつぎ

センシティブな内容が含まれます。

ご注意ください。




「子供を産んでやるんだから、私に尽くしなさい」

 例の文官に下賜されたユゲットは、文官の妻が元々はディヴリー家の使用人だった事もあり、傍若無人に振舞っていた。

 妻の元給仕係(パーラーメイド)があの毒の影響なのか、未だに妊娠出来ていなかったのも大きい。


 文官は平民ではあるが、仕事に支障が無いように一代限りの準男爵の位を持っていた。

 文官の実家からの独立援助金と妻の持参金、ユゲットの父フルマンティ公爵からの慰謝料を含んだ退職金が妻に払われた事もあり、一介の文官にしては裕福な生活をしていた……はずなのに、ユゲットが来た事により、あっという間に困窮していく。


 公爵令嬢として育ち、その後は王太子妃となり自由奔放に生きてきたユゲットの辞書には、我慢の二文字は無い。

 使用人だけで百人以上いる公爵邸と同じ生活を求めるユゲットに、文官ロイクもその妻ポーラも辟易していた。



 ユゲットの我儘を叶える為には、ポーラがユゲットの世話をするしか無かった。

 三人しかいないメイドに通常業務以上の事をさせると、屋敷内の業務が滞ってしまうからだ。

 我儘など聞かなければ良いと普通なら思うだろう。

 しかしユゲットは子供を盾にするのだ。


「これを買ってくれなければ、私は階段からうっかり落ちちゃうかも」

「あ~、今のお説教で急に食欲が無くなったわ。明日まで何も食べられないかもね」

「そういえばあの薬、まだ実家にあるかも」


 絶対に実行に移さない事は理解しているのだが、万が一が無いとは言えない。

 ユゲットの腹の中にいるのは、ロイクの子供なのだ。




 しかし人間には我慢の限界というものがある。とうとう堪忍袋の緒が切れたポーラは、ユゲットに注意をした。

「ユゲットさん、貴女は妾で妻は私なの。自分の事は自分でしてください!」

 出産まで後一月といったところだろうか。

 この場合の自分の事とは、日常生活に必要の無いユゲットの我儘の事を指していた。


「は? 誰に向かって口を利いているの?」

 案の定、ユゲットは反抗する。

「妻だから何? 子供を産めない正妻なんて用無しでしょう?」

 おそらく王城で散々自分が言われたであろう台詞を、ユゲットはポーラにぶつけた。


「わ、私は! アンタの命令であの薬をお茶に入れただけなのに、なんで私まで不妊になるの?! しかもアンタだけロイクの子を妊娠するなんて!」

 ポーラは泣き崩れ、ユゲットはそれをただ何も言わずに見下ろしていた。



「……何があった?」

 部屋の中の騒ぎに気付いた使用人に呼ばれたのか、ロイクが部屋へと訪れた。

 床に(うずくま)り泣いているポーラと、ソファに偉そうに座っているユゲットを見て、ロイクは顔を歪める。


 ソファに座るユゲットは豪華なドレスを着て、華やかに髪を結い上げて派手な化粧をしていた。

 対してポーラは、動きやすく飾りの少ない簡素なワンピースを着ている。

 これではどちらが女主人か判らない。

 あと一ヶ月。子供さえ生まれれば、こんな女は使用人に落としてやる。

 ロイクはそう考えていた。




 その日の夜。突然の陣痛がユゲットを襲った。

 予定日は一月先である。

 王太子妃は毎月定期健診があったので、産み月を間違うはずが無い。


 通常の出産よりも長く苦しんで、ユゲットは産声を上げない肉の塊を産んだ。

 死産とは違う。

 ソレは、性別も無い人の形をした()()だった。



「これは……魂も命も無い、いわばゴーレムです」

 人型(ゴーレム)を取り上げた魔法医師は、戸惑いを隠せない。

「受精卵を核に受肉しただけなので、人間とは言えないでしょう。呼吸もしていないし、心臓も有りません」

 それでもゴーレムを産湯で洗う。

 ゴーレムはユゲットの面影があるように見える。


「それでは、ロイクの子では無いの?!」

 ポーラが問うと、魔法医師は頷く。

 ゴーレムの体はユゲットの血肉を利用して作られたものであり、普通の胎児とは基本的に別物だという。そもそも心臓が無いので、血が巡っていない。体を保っているのは、魔力だ。

「妊娠中には判らなかったのか!?」

 ロイクが怒りを露わにする。

 それはそうだろう。

 ユゲットは子供を盾に我儘放題だったのだから。


 魔法医師は首を横に振る。

「魔法での健診は、胎児の体内の魔力の流れで成長しているかを確認するものです。生まれるまでは判別が難しいでしょう」

 そもそも、人間の体内でゴーレムが育っているなど、誰が想像するだろうか。




 翌日。フルマンティ公爵が呼ばれた。

 突然の呼び出しに応じたのは、ユゲットが出産したと聞いたからだろう。

「ユゲットが子供を産んだと聞いたが?」

 挨拶もそこそこに、横柄な態度でフルマンティ公爵が話を切り出した。


 ロイクは無言で籠をローテーブルの上に置いた。

 籠の中にユゲットに似た赤子が入っているのを見て、フルマンティ公爵は立ち上がる。

「娘の産んだ子供を!」

 布に包まれて籠に入れられた赤子は、まるで人形のように扱われていた。



()()は、ユゲット嬢の()()であり、当家は関係ありません。どうか娘さん共々、お引き取りください」

 ロイクの淡々とした様子に初めは激昂していたフルマンティ公爵も、籠の中の赤子が微動だにしない事に気付き、怪訝な表情になる。


 魔法医師が昨夜ロイク達にした説明を、フルマンティ公爵にする。

 話が進むにつれ、フルマンティ公爵の顔から血の気が引いていく。

「ゴーレムを産んだなど、そんな話が表に出れば……」


 フルマンティ公爵は、今までユゲットが使った金銭以上の支払いをする約束をし、ユゲットとゴーレムを連れてディヴリー家へと帰って行った。




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