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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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二兎追うものは




 初めて会ったのは、学校の入学式だった。

 他の令嬢に比べて豊満な身体をしていたロラは、恥ずかしそうに背中を丸めて歩いていた。それも貴族令嬢らしくなく、悪目立ちしているのだが、本人は気付いていない。

 数人の男子生徒がロラを見てニヤニヤと笑って何か話している横を、偶然ジョエルが通りかかった。


 そのままロラの横をジョエルが通り過ぎようとした時。

 男子生徒の中の一人がロラの方へ駆け寄り、(つまず)いた振りをして後ろからロラへと抱きつこうとした。

 手が大きく広げられ、胸を鷲掴みにするつもりなのが判る。


 別に庇おうとしたわけでは無かった。

 ただ男子生徒が広げた腕が、ジョエルにぶつかっただけ。

 ジョエルはぶつかった腕を咄嗟に掴み、そのせいで男子生徒はロラに抱きつけなかった。

「人を殴っておいて謝罪もしないのか」

 ジョエルの恫喝に、男子生徒は(ひる)んで逃げて行った。


 ただ単にジョエルが短気だっただけなのだが、結果的にロラはジョエルに助けられた形になった。



 それがきっかけとなり、ジョエルとロラは瞬く間に親密になっていった。

 男爵令嬢だったロラには婚約者もおらず、お互いに無関心で不干渉だったジョエルの両親は、ジョエルの婚約者を無理に決める事はしなかった。

 厳格だった祖父も既に他界しており、自分達のような冷えきった結婚生活を送らせたくない親心も多少はあったのかもしれない。


 それでもウッドヴィル伯爵を継ぐ者の伝統として、当主の妻は伯爵令嬢以上にする事、という制約だけは、爵位を継いだ時に既に遺書として書いていた。

 それをジョエルが知るのは、両親が突然の事故で亡くなった後だった。


 元々仲が良い家族だったわけでもなく、ただ淡々と葬儀が終わり、爵位継承の手続きが終わる。

 まだ学生のジョエルには後見人として叔父が付き、遺言書が公開されて伯爵令嬢と婚姻しなければならない事を知らされた。

 その頃には、ロラとは退()()きならない関係になっていた。



「うちの娘と結婚すれば良いよ」

 叔父に言われ紹介されたのは、茶髪にソバカスだらけでのっぺりとした顔の地味な女だった。

 十八歳になっても婚約者もいない伯爵令嬢など、見た目だけの問題では無いのだろう。

 それくらい、まだ学生のジョエルにも理解出来た。


 しかし婚約者を見つけようにも、ロラとの関係は学校では有名になりすぎていた。

 卒業時にも婚約者はおらず、卒業から既に三年が経ち、叔父からは「伯爵令嬢と結婚しないと正式な伯爵とは言えないよ」と、暗に娘との結婚を迫られていた。


 その頃だった。友人に「女学院を卒業した世間知らずな伯爵令嬢がいる」と教えられたのは。


 どこで知り合ったのか、その頃のジョエルには愚痴を言う友人がいた。

 その友人はロラの事も知っており、伯爵邸に住まわせ存在を隠すよう色々と計画を練ってくれた。


 令嬢本人より、親である伯爵を説得した方が早い、と助言してくれたのもその友人だった。

 誠実さを出す為に、一切手を出さないようにも忠告された。

 友人の言う通りにすると何事も上手くいったため、素直に計画に従っていた。



 結婚式前日。

 契約書の内容もその友人の助言を受け、作成した。

「白い結婚にする必要は無いだろ」

 ジョエルが文句を言うと、友人は声を潜めて言った。

「ロラ嬢の為の建前だよ。嫉妬深いって言ってたろ?」

 友人の言葉に、ジョエルも確かに、と頷く。


「どうせ単なる紙切れさ。約束を破っても別に罪にはならない」

 悪魔の囁きだった。

 友人に言われて、ジョエルもその気になっていた。

 相手が約束を破った時にだけ、契約書は使えば良いと。




 数年後。ジョエルは夜会会場でレベッカを守る近衛兵の中にその友人を見付け、声を掛けようとした。

 しかし当時のような軽い雰囲気はなく、身分も侯爵家嫡男だと知る。しかもジョエルの知っている名前とは全然違っていた。


 ジッと眺めていたからだろうか。

 相手の方が気付き、近付いて来た。

 やはりあの友人だったのか。身分を隠しての遊興だったのか、と笑顔で迎えたジョエルへ、侯爵家嫡男は冷たい視線を向ける。

「何か用か? 不愉快なのだが」

 明らかな軽蔑を含んだ物言いに、ジョエルは固まる。



「トーマスなど用意しなければ良かったのに」

 頭を下げ、人違いだと謝ろうとしたジョエルの耳元で、()()が囁いた。

「え?」

 顔を上げたジョエルの、驚きに見開いた瞳に映ったのは、皮肉げな笑い方をするあの友人だった。


「馬鹿な事を計画しなければ、公妾契約出来ただろうに」

 言われて思い出す。

 レベッカ付きにしたメイドの二人は、この男の紹介だったと。

 その一人が魔法契約を実行出来るなど、偶然のはずがない。


「どうせクズなお前の事だ。レベッカ様の純潔も奪うつもりだったのだろう? そんな事、考えるだけでもうちの腹黒殿下は許さないよ。ご愁傷さま」

 近衛兵はレベッカの元へと歩いて行く。

 その背中を、ジョエルはただ呆然と見送っていた。




 終




最後までお読みいただき、ありがとうございました!

本当はもっとレベッカ本人に色々させようと思っていたのですが、世間知らずな箱入り令嬢には無理でした(^_^;)


なぜ、ディオンがレベッカの結婚を黙って見守っていたのか?

最後にお解りいただけたでしょうか?


ディオン、腹黒です。(*^^*)


あと少しだけ、蛇足としてその後のお話を投稿します。


誤字報告ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
王太子殿下の采配見事でした。 身分を気にせずただレベッカを娶っていれば愚王だし、かといって好きな女性を諦めて王族としての役割りに服するは凡王。 愛する人を周囲が何も言えない程の立場にして召し上げ後継も…
ざまぁというより見えてる地雷というよりは地雷で舗装された道を全力疾走した勇者()でしたかジョエル君 
ジョエル被害者だった…
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