表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/58

人を呪わば穴二つ




「お前もユゲット妃殿下なの?」

「城に勤める若い男は、ほとんどそうだって聞いた事ある」

「マジか……」

「娼婦と違って病気の心配は無いし、妊娠にも気を使わなくて良いし」

「婚約者にバレる可能性も無いし、好条件だよな」

無料(タダ)だし」


 ある日、レオナールが訓練の為に鍛錬場へ向かっていると、若い兵士達が集まって話をしていた。

 どうやら休憩時間のようで、気を抜いており、レオナールが近寄っても気付かない。

 当然レオナールが一人のわけはなく……。


「お前達のような愚か者から露見するのだな」

 レオナールの指南役であるブレソールが腕組みをして、(くるま)()になっていた兵士達を見下ろした。


「ヒィッ! 近衛兵団長!」

 最初に気付いた兵士が悲鳴と共に立ち上がり、直立不動の姿勢を取ると、他の兵士もそれに(なら)った。

「酒の席でなかっただけまだマシか。減俸三ヶ月。お前達が近衛所属だったら、解雇(クビ)だったぞ」

 ブレソールの台詞に、若い兵士達は顔面蒼白になっていた。



「ブレソール、今のお話、父上の正妃の事だよね?」

 兵士達が去った後、レオナールが沈んだ表情で口を開いた。

 八歳になったレオナールは、自身の母親が公妾である事も、その立場も理解していた。


「お仕事だって、ほとんど母上がしてるのに」

 王城に住むようになったレベッカは、王太子妃の執務の七割は担当していた。

 王妃達とも良好な関係を保っており、レベッカを公妾だと(あなど)る者はいない。

 王太子妃以外は。



「この前はリオネルに、お前は伯爵位に落ちるんだって言ってたんだよ」

 リオネルとはレベッカの産んだ第二子の事で、王位を継ぐ可能性はほぼ無い。

 しかしレベッカの夫であるジョエルの持つ伯爵位を継ぐ事は無いし、将来的には大公を賜るだろう。


「ブランシュにも、シャルロットにも、いつも意地悪な事を言うんだ」

 ブランシュは第三子、シャルロットは第四子であり、二人とも女児である。

 王妃達の間では、この二人にドレスを贈るのが目下(もっか)の流行りである。

 それが気に入らないのか、ユゲットは他人の目の無い所で子供達に心無い言葉を浴びせているようだ。


「父上や母上に告げ口したら城から追い出すって言われたけど、いつまで我慢したら良いんだろう……」

 レオナールはグッとこぶしを握りしめ、下を向いた。

 声が震えているのは、泣くのを我慢しているのか、怒りを我慢しているのか。

 どちらにしても八歳の子供がする必要の無い我慢である。




 レベッカは悩んでいた。

 最近子供達の様子がおかしいのだ。

 ふとした瞬間に黙りこみ、暗い表情を見せる。どうしたのか聞いても、答えない。

 子供達に付いている使用人に確認しても、誰もが何も知らないと声を揃えた。


 何か嫌がらせでもされているのだろうか。だが、年齢の近い子供との交流がまだ無いブランシュやシャルロットまで、情緒不安定になっている。

 兄達の不安が(でん)()したにしても、落ち込みようが激し過ぎる。


 最近変わった事といえば、子供達の行動範囲が広がった事だった。

 その為に、お付の使用人も増えている。

 その辺に何か関係があるのか、と本格的に調べようと思い立つ。

 そのような時だった。ブレソールからレオナールの話を聞いたのは。


 寝耳に水、どころでは無い。

 自分を攻撃されるのならば良い。

 幼い子供達を攻撃するなど、常識として有り得ない。

「絶対に許さないわよ」

 レベッカは、ユゲットに報復する事を心に誓った。




 本格的に動き出そうと、レベッカはアンとガストン、リズとブレソールに相談をした。

 レベッカが何かを直接する事は難しいので、どうしても協力者が必要だから。


「王太子妃を追い出すのなんて簡単ですよ」

 リズがあっけらかんと言う。

「殿下の渡りが無い事は有名ですし、妊娠しないのをいい事に、若い男を閨に引っ張り込んでいますしね!」

 それはレベッカも知っていた。


 婚姻してから三年が経つ寸前、白い結婚を理由に離縁されないように、ユゲットは純潔を捧げたらしい、と。

 王家、しかも王太子妃に()()が適応されるのかは疑問だが、不安要素は一つでも潰しておきたかったのだろう。

 レベッカは逆効果だと思ったが、ユゲットは違ったようだ。


 しかも一度一線を越えたらどうでも良くなったのか、それからのユゲットは、かなり自由な様子だとも。

 若くて見目の良い使用人の()()()()を引き受けているらしい。

 王城や王宮では有名な、公然の秘密だった。




 王太子妃が妊娠したと王宮が大騒ぎになったのは、それから一ヶ月もしない時だった。

 相手は文官で、伯爵の次男で爵位を持たない男だった。

 子爵令嬢と結婚し婿入りしたが、後継者が出来ずに夫婦共々婚家を追い出された男だという。


「これで私の方に原因が無かった事は証明されました!」

 王太子妃と不義密通した事を咎められているのに、男は嬉しそうに笑っている。

「私の妻は、フルマンティ公爵の命令でウッドヴィル伯爵邸へ給仕係(パーラーメイド)として出向し、不妊になったのです!」


 話を聞いていたレベッカは、結婚したばかりだと泣いていた実行犯を思い出す。

 その夫がユゲットの相手に選ばれたのは、偶然では無いだろう。


「……王太子妃は、お前に下賜しよう」

 晴れやかな顔でディオンが宣言する。

 爵位も無い既婚者の文官へ、ユゲットは下賜される事が決まった。





例の毒は、魔法契約に縛られていないので、アンの魔法でどうにでもなるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ