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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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可愛い我が……




 王家の私室である応接室では、一人だけ腰を折る国王が居た。

 別に謝っているわけでも、挨拶しているわけでも無い。

 乳母車に乗った孫に髭を掴まれ、動けなくなっているだけである。


 しょうがない、とでも言うように笑った第二側妃は、国王の髭を掴んでいる孫をそっと抱き上げ、そのまま国王へと渡す。

 焦りながらも受け取った国王は、自分を見あげている大きな水色の瞳と目が合い、にやけた笑いを浮かべた。


「だらしない顔をしないでください」

 ディオンが自分の事を棚上げして、父親を注意する。

 もしかしたら、我が子に接する時に同じ顔になっている事に気付いていないだけかもしれないが。


「この子の名は?」

 孫から視線を外さず、息子(ディオン)の言う事は無視して、国王は知りたい事を質問する。

 親馬鹿ならぬ、立派な爺馬鹿である。

 そのような国王を見て、こういう事は地位とか血筋とか関係無いのだな、と実家の父を思い出しながらレベッカは一人納得していた。




 夜会の会場には、招待客ほぼ全てが揃っていた。後は王家の入場を待つばかりである。

 入り口に近い場所には準貴族が。次いで男爵、子爵と奥に行くほど階位が高くなる。

 会場に入るのは階位が低い順なので効率が悪いのだが、貴族とはそういうものである。


 夜会の始まりを告げるラッパの音が響く。

 王家主催の夜会でのみ鳴らされるラッパは、参加者の多さを物語っていた。

 大きな音で告知しないと、会場の隅に居る貴族にまで王家の入場を知らせる事が出来ないのだ。


 隅にいる者ほど(くらい)が低い。気付かずに笑い声でも立てようものなら、一発で首が飛ぶだろう。物理的に。

 騎士爵や準男爵が王族を笑う、とはそういう事なのだ。



 男爵令嬢のロラは、三年ぶりに公の場へ顔を出していた。

 一回りも二回りも大きくなったロラに、すぐに気付く者はいない。

 今も遠巻きにヒソヒソと話しているが、声を掛けて来る者はいなかった。


「話し合いがあるって言うから来たけど、肝心のジョエルはどこに居るのよ」

 ロラはシャンパンを片手に愚痴る。

 このシャンパンは全員に配られたものであり、自分で選んだのではない。

 何やら祝い事が有るらしく、乾杯用だと給仕が配っていたものだった。



「ダヴェンポート国王陛下、王妃陛下のご入場です」

 係の者の声が国王夫妻の入場を告げる。次に第一側妃、第二側妃、公妾が呼ばれる。

「ディオン・アルフォンス・デュフォール王太子殿下。レベッカ・ブーケ=ウッドヴィル伯爵夫人のご入場です」

 最後にディオンとレベッカが呼ばれた。


 ディオンとレベッカが揃って入場し、その後ろには王家が用意した豪奢な乳母車に乗った二人の子供が、アンと共に入場する。

 リズとガストンは、先に会場内で護りを固めていた。

 一段上から眺める会場内は、全員が(こうべ)を垂れ敬意を示している。


(おもて)を上げよ」

 国王が威厳のこもった声を出す。

 裏で孫に翻弄されていた好々(こうこう)()とは別人のようだ。

「本日は嬉しい知らせが有る! 王太子に後継者が生まれたのだ!」

 国王の発言に、会場内から「おぉ!」とどよめきが上がった。



 アンの魔法で、乳母車の中が空中に映し出される。

 赤子なのに端正だと判る顔立ち。白金の髪に水色の瞳は、神々しく感じるほどだ。

 その赤子の画像の下に、文字が浮かび上がった。


『レオナール・フェリクス・デュフォール』

 文字と同じ名前を国王が発表する。

 これでディオンとレベッカの子供が、正式に王家の子として認められたのだ。

 レベッカは公妾だが国母になる事が決定したも同然だった。




 会場がお祝いの雰囲気に包まれる中、不機嫌な人間が居た。

 ディオンの婚約者であるユゲットと父であるフルマンティ公爵である。

 そして密かに王妃の座を狙っているシモーヌ。

 シモーヌはフルマンティ公爵令息の婚約者だが、公爵の妻で満足する気は無かった。


「まだお前にも機会は有るはずだ。陛下は妻を三人娶って公妾までいるのだ」

 好色な血筋だと言いたいのか、フルマンティ公爵は壇上に立つ王家の面々を見て笑う。

「ウエディングドレスはもう用意してありますわ」

 ユゲットも同じように笑う。


 本当はレベッカを流産させ、それを理由に婚姻を強行するつもりだったのだが、そもそもレベッカの住む別館に入る事すら出来なかった。

 レベッカの夫にも()()()しておいたが、それも失敗している。



 それでも、とユゲットはほくそ笑む。

 今日はディオンに個別に呼ばれていたから。

 何やら話し合いたい事が有ると、夜会の招待状とは別に、ユゲット個人に招待状が届いたのだ。

 ユゲットとディオンの間での話し合いなど、結婚式の事しか無いはずである。


 予定よりは遅かったけれど、無事に王太子妃になれるのだと、壇上のディオンを見つめる。

 そしてこれからはその位置には自分が立つのだと、ユゲットはレベッカを哀れに思う。

「ごめんなさいね、公妾さん」

 誰にも聞こえないように呟くと、ユゲットは心からの笑みを浮かべた。




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