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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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夜会の前に




 子供を産んで半年経ち、レベッカの体型はすっかり元に戻っていた。

 いや、胸が前よりも大きくなっているが、むしろディオンにとっては嬉しい誤差である。

 あまり身体の線を強調しない大人しめなドレスを着ているにも拘らず、レベッカはジョエルの結婚式の時よりも遥かに妖艶に、遥かに美しくなっていた。


 人妻の色気なのか、愛される自信なのか、家族が増えた幸せなのか、とにかく何かが溢れ出ている。

 我が子を抱いた姿は、神聖さまで醸し出しているように見え、使用人達を(とりこ)にした。



「あ~うちのレベッカ様が美し過ぎる~」

 エントランスでディオンにエスコートされるレベッカを見たリズは、涙を流さんばかりに喜んでいる。

「言ってる事には同意するが、しっかりしろリズ。今日のお前は子爵令嬢だ」

 横にいるガストンに注意され、リズは背筋を伸ばした。


 本日、リズとガストンは会場内でも警護出来るように、子爵令嬢と伯爵令息として参加する。

 アンはジョエルとの話し合いの為の準備で別行動だった。

 魔法契約を交わした例の契約書が見直される可能性がある為である。


 他にも乳母と、赤子の世話をする二人のメイドが同行する。

 夜会を途中で抜けるにしろ、ずっとレベッカが抱いたままでいるのは現実的ではない。

 泣いてグズる前に、先に退場する予定になっている。


 後継者である赤子の護衛には、ブレソールが選ばれていた。

 近衛兵団の団長であるブレソールが就くなら、安心といえる。しかも彼は名ばかりの団長ではなく、実力の伴った団長である。

 騎士団時代、単騎でドラゴンを倒したという逸話が残っているが、真偽は謎だ。



 夜会にはかなり早い時間にウッドヴィル伯爵邸をレベッカとディオンと子供、リズとガストン、そして使用人達が出発する。

 それを本館の窓から見ていたジョエルは、慌てて執事を呼んだ。

「おい、夜会は何時からだ?!」

 一番最後に入場するはずの王族が城へ向かえば、不安になるのも当然だった。


「夕方の六時と書いてございますが」

 執事は招待状を差し出す。こういう時は口頭で言っても納得しないので、見せた方が早いと長年の経験で知っている。

「ならアイツらはなぜ、こんなに早くに出発したんだ?」

 自身の妻とはいえ、王太子と行動を共にしている者を「アイツ」呼ばわりである。


「先に国王陛下やお妃様達にお披露目するからではないでしょうか」

 誰を、とは言わない。

 同日に生まれたのに、かたや未来の国王、かたや不義の子である。

 ジョエルにとっては思い出したくない事だろう。


「そうか、まぁ良い。ならまだ時間はあるな」

 そう言ったジョエルは、用意を始めずに手近なソファへと座った。

「酒持ってこい」

「しかし……」

「どうせ向こうに着けば酒を飲むんだ」

 レベッカにお願いなど素面(シラフ)で出来るか、とジョエルは言い捨てた。




 王城へ着いたレベッカは、ディオンの腕の中でスヤスヤと眠る我が子を見つめる。

 馬車の揺れの中でも一度も起きず、ディオンに頬をつつかれたり頭を撫でられたりしても、熟睡していた。

 安全の為にディオンは一度我が子を馬車内からリズへと渡す。隣には、しっかりとガストンが護っている


 それでも起きない我が子を見て、レベッカは少し困ったように笑う。

「さすが大物と褒めるところなのかしら」

 危機意識が低いのかも、と少し心配にもなった。

 先にディオンが馬車を降り、レベッカへと手を差し出す。


 レベッカが完全に馬車から降りると、後ろから使用人の馬車が到着する。

 停まった瞬間に使用人が出て来て、乳母車を下ろし、毛布やクッションを手際よく設置していく。

「お待たせいたしました」

「ありがとう」

 咄嗟に出そうになった待ってないわよ、という言葉を飲み込んで、レベッカはお礼を口にした。



「まあまあ、ディオンとレベッカの子だわ」

 誰よりも先に乳母車に駆け寄って来たのは、ディオンの実母である第二側妃だった。

 この妃だけは、幼いレベッカとも面識が有った。

「瞳の色も髪の色も、二人を混ぜたみたいに綺麗ね」

 第二側妃の言葉に乳母車の中を覗き込むと、いつの間に起きたのか、大きな瞳で()()を見つめていた。


「この状況に泣きもぐずりもせぬのか」

 国王も乳母車へ近付き、顔を寄せる。

 小さな手が動き、威厳の為に伸ばしていた髭を掴んだ。

「あいたたた」

 髭を引っ張られてしまうが、赤子に慣れていない国王はどうしていいか解らないようで、腰を曲げた姿勢で固まる。


 そこで焦ったのはレベッカだけで、ディオンも王の妃達も、リズやガストン、果ては付いてきた使用人達まで(なご)み、笑顔で見守っていた。




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