もうひとつの幸せ?
センシティブな内容で、不快な表現があります。ご注意ください。
レベッカが後継者を身ごもっている事は、お腹が膨らみ始めた頃に王宮へ届け出がされた。
それは当然国王や王妃達も知る事になり、婚約者であるユゲットも、その父親であるフルマンティ公爵も知る事となった。
そうなると話に出るのは、ユゲットとの婚姻である。
ユゲットはディオンと同い年で、レベッカの二つ上、テレーズの一つ上になる。
ディオンの婚約者候補を外れクロヴィスの婚約者になったテレーズは、もうすぐ結婚をする。
婚約期間半年という、上位貴族が守るべき最低限の期間で婚姻するようだ。
ユゲットは、焦りを感じていた。
十二歳の頃から王太子の婚約者候補で、皆から羨望の眼差しを受けてきた。
一時期財力で勝るペリーヌに負けていたが、それならば第二妃になり、先に後継者を産めば良いと楽観視していた。
それなのに、正妃すらいないのに、公妾を持つなど常識知らずな行動を王太子がするとは、誰に予想が出来ただろうか。
仲の良い幼馴染がいた事は、ユゲットも知っていた。
しかしその関係は、婚約者候補が決まった時に終わっていたはずだった。
側妃にもなれない伯爵の娘。
陞爵の予定も無い伯爵の娘など、歯牙にもかけないと皆思っていた。
フルマンティ公爵だけはずっと監視を付けていたようだが、婚約者候補が決まってから一切の交流が無いのを確認していた。
兄のクロヴィスを通じての、手紙のやり取りさえ無かったのに。
婚約者候補から正式に婚約者になったあの落成式の日から、ユゲットを見る皆の目が変化した。
予定では、羨望から畏敬に変わるはずだったのに。
実際には、羨望から憐憫へと変化した。
「最近、結婚式の招待状が多いわね」
机の上に置かれた招待状を見て、ユゲットは嫌そうに言い捨てる。
理由は判っているので、別に誰かの返事を期待したものでは無い。
その理由とは……王太子の子供と歳の近い子供を産むためである。
その為に結婚を早めた貴族が多くなり、今頃教会は調整に悲鳴を上げている事だろう。
招待状にある名前を見て、ユゲットは溜め息を吐いた。
通常、ユゲットの所にこれ程多くの招待状は届かないはずなのだ。
ユゲット個人が仲の良い友人からの、片手に余る程度のはずなのに。
机の上には、数十通の招待状。
理由は明白。王太子の婚約者宛として届いた物が多いのである。
本来ならば王太子の方へだけ出せば良い招待状を、ユゲットにも送って来ているのだ。王太子がユゲットをエスコートしないと判断しているから。
「後継者が生まれたら、私が正妃よ……」
ユゲットは積まれた招待状の山に手を置き、触れた分を渾身の力で握り潰した。
「子供が生まれる前に天に召されるなど、いくらでもある事だろう?」
フルマンティ公爵は、金貨の詰まった袋を前にニヤリと笑う。
一時の気まぐれの相手など、目の前から居なくなってしまえば忘れるだろう、と。
王太子といえど、人間である。
初恋などという幻想の相手が急に目の前に現れたので、正常な判断が出来なくなり愚かな選択をしただけなのだ。
本当はもっと穏便に済ます予定だった。避妊薬を食事に混ぜ、一年妊娠しなければ王太子も現実を見るだろう、と思っていた。
しかし手の者はウッドヴィル伯爵邸の本館には勤められても、別館には近寄る事さえ出来なかった。
そして懐妊の連絡が王宮に来た。
しかも後継者であると。
「娘の結婚式の準備もしなきゃいけないから、なるべく早く頼むよ」
フルマンティ公爵は、相手の返事も待たずに席を立つ。
相手は今や風前の灯火となった伯爵で、目の前の金貨は喉から手が出るほど欲しいはず。
「子が産めない女など、何も価値が無いからな。面倒を見てやるからと、改めて王太子と公妾の契約を結べば良い」
高笑いをしながら、フルマンティ公爵は部屋を出て行った。
部屋には一人、金貨の詰まった袋を見つめるジョエルがいた。
貴族には、三年間白い結婚、または子が出来なかったら、それを理由に離縁する事が出来るという法律があった。
例外は契約の結ばれた白い結婚である。
それもあり、公妾は一度公表したら解除出来ない。
飽きたからと簡単に捨てられては、婚家への負担だけが残るからだ。
後継者を不注意で流産したレベッカなど、王太子は許さないだろう。
そもそも妊娠してみっともなく変化した女など、愛想が尽きているはずである。
視界に入れるのも嫌になっているだろう。
金を使うのも。
それならば、頓挫していた公妾契約も滞りなく進むかもしれない。
ジョエルは目の前の袋を手に取り立ち上がった。
クズです。思考回路も、何もかも
身近にこういう事を平気で言う人間がいると、殺意が湧きます(実体験)




