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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 
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契約書




「異議有り!」

 声を上げたのは、レベッカではなく、後ろに控えていたアンだった。

「契約書には、お互いの生活には干渉しない、とあります。それならば、レベッカ様はご自分で愛人を決める権利が有ります」

 確かにアンの言う通り、お互いの生活には干渉しない、という項目があった。


 契約内容は、簡単に言えば『ジョエルとレベッカは白い結婚である事』『お互いの生活には干渉しない事』『レベッカは愛人を作る事』『後継者はロラが産んだ子になる事』だった。


「レベッカ様の生活の保証もお願いします。食事も出さない、部屋の掃除もしない、などの嫌がらせをされたら困りますので」

 アンの視線がベッドの上のロラを捉える。彼女が女主人として振る舞うのがありありと想像できたから。


「あと、お互いの財産は完全に別にする事も、追加してください。当然レベッカ様の持参金や輿入れの際の持参品はレベッカ様の物です」

 アンの強い口調に、ジョエルの眉間に皺が寄る。

「その項目を追加してください」

 ジョエルが否定を口にする前に、レベッカもアンに同意する。


 苦虫を噛み潰したような顔になったジョエルは、渋々項目を追加した。契約を書き終わった後、レベッカを睨むように見る。

「では、早々に愛人を連れて来い。一ケ月以内に決めなければ、トーマスを愛人に決定するからな」

 ペンをテーブルに置いたジョエルは、ソファの背もたれに寄り掛かり、足を組む。


「相手を選ばせてやるのは、俺のせめてもの温情だ」

 意味不明である。

 しかし、そこで異を唱えて本当にトーマスに襲われた場合、損をするのはレベッカだけなので、アンもリズも、当人のレベッカも口を閉ざした。



 契約書に署名をし、それぞれ複写を保管する。原本は神殿へ提出して、破棄出来ないようにするのが定番である。

「それじゃあ契約書(それ)はこっちで神殿に出しておく」

 二人の署名入りの原本へ、ジョエルが手を伸ばす。


「あ、大丈夫ですから」

 ジョエルがテーブルから持ち上げようとした誓約書を、リズが上からバシンと音を立てて抑えた。

「あ?」

 怪訝な表情と不機嫌な声でジョエルがリズを威嚇するが、当のリズは何処(どこ)吹く風。ニヤリと笑顔を浮かべ、ジョエルの手を契約書から振り払った。


「我、神の代行として、この契約を締結する者なり。契約を履行すれば良し、反故とすれば制裁を」

 リズの後ろでアンが何やら唱えると、誓約書が光り輝き、フワリと宙へ浮く。

 そのまま光の粒となり消えてしまった。



「な!? 何をしている!」

 ジョエルが声を荒らげるが、リズは何事も無かったかのようにレベッカの後ろへと控える。

 その横で、アンが首を傾げた。

「神殿に提出するつもりだったのですよね? それならば、更に上の魔法契約にして神殿に届けただけですが、何か問題でも?」

 アンの説明に、ジョエルの顔色が変わる。


 そもそもジョエルは、契約書を神殿に提出するつもりは無かった。

 仮に神殿に提出しても、特に制約は無い。

 貴族としての信用が落ちる程度であり、それも神殿に高額の寄付をすれば握りつぶせる。


 レベッカが契約を破った時にのみ、契約書(それ)を盾にして有利に立ち回ろうとしていただけだった。

 それなのに、魔法契約にされてしまったのだから、ジョエルが焦るのも当然だった。



 魔法契約は神殿契約と違い、誤魔化しも破棄も出来ない。

 もしもジョエルの命令でトーマスがレベッカを襲ったら、トーマスだけでなく契約を交わしたジョエルにも、災いが降りかかるだろう。

 ロラがレベッカの宝石を勝手に身に付けただけでも、何が起こるのか解らない。


 レベッカを戸籍上だけの妻にして、持参金も取り上げ屋敷に軟禁し、更にトーマスに襲わせ、逃げる事も出来なくするはずだったのに。

 ジョエルは自分の計画に(かげ)り感じたが、否定するように首を振る。

 あのレベッカが、自分で愛人を見付けられるはずが無いのだから、と。




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