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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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ふくらむ幸せ




 小鳥のさえずりが聞こえてくる爽やかな朝。

 広いベッドで一人目を覚ましたレベッカは、大きな伸びをして身体も目覚めさせる。

 昨日はディオンは城へ帰って行った。


 王太子であるディオンは、ほぼ毎日レベッカの居るウッドヴィル伯爵邸別館を訪れてはいるが、泊まるのは週に一度だけだった。

 それでも王太子という身分を考えたら、かなり多いだろう。


 淋しくない、と言ったら嘘になる。

 しかしそれを口にすると、単なる我儘になってしまうと知っているレベッカは、ディオンを心配させないように元気に過ごす事を心掛けていた。



「おはようございます」

 リズは部屋に入って来ると共にレベッカが起きている事に気付き、朝の挨拶をしてきた。

 早朝に入室するメイド達は、主人が寝ている可能性を考慮して、ノックをせずに入って来る。

 ベッドから遠い所からカーテンを開けていき、そこで一度退出をする。


 ディオンが来ている時は、ベッドの天蓋(キャノピー)を閉めてあるので、うっかりメイドにあられもない姿を目撃される心配は無い。

 二人だけの甘々な空間を、邪魔される事も無い。


 今リズは、朝の支度の為のお湯やタオルを持って来たところだった。

 もしレベッカが起きていなければ、声掛けをして起こすのがリズの仕事だった。



「おはよう、リズ」

 レベッカは笑顔で挨拶を返す。

 クロヴィスとテレーズの婚約式から、一ケ月が経過していた。

「レベッカ様、どうかなさいましたか?」

 突然リズがレベッカの頬に手を伸ばしてきた。


 普通のメイドがやったのなら、とんでもなく不敬な行為である。

 しかし普段からレベッカの化粧を担当しているリズの行動に、レベッカも抵抗なくそれを受け入れる。

「どうもしないし、夢見も悪く無かったわ。どうかした?」

 問われたレベッカの方が戸惑い、聞き返す。


「お肌の、いえ、顔色が少し悪いような……?」

 リズ自身も何がどうというのではなく、何となくいつもと違う気がした、という程度だった。

 しかしそこは騎士の勘とでもいうのだろうか。

 リズはレベッカに洗顔などの起床準備はさせたが、ベッドからは出させなかった。




「ご懐妊です」

 リズに呼ばれた女性医師が診察を終えて告げたのは、レベッカの妊娠だった。

 レベッカの手を握り、診察の為の魔力を全身に流した医師は、満面の笑みをしている。

「この段階で気付くのは珍しいですね。普通は後一月位経ってからですよ」

 感心する医師に、レベッカは苦笑を返す。


「気付いたのは私ではなく、リズです」

 その場に居た医師、アン、ガストンの視線がリズに集まる。

「や、何ってわけじゃなくて、何かが違うなって思って」

 リズもはっきりとした理由があった訳では無かったので、それを正直に答える。


「何にせよ、とてもおめでたい事ですわ」

 医師は笑顔でそういうと、手元に魔法で診断書を作成した。

 改ざんできない、信頼性が法で確立されている診断書である。


「まだ提出するのは早いかもしれませんが、一応お渡ししておきますね」

 王家の後継者を妊娠した場合、王宮に届け出る必要があった。

 ぬか喜びさせない為に、提出するのは安定期に入ってからになるだろう。


「ありがとうございます」

 それでもレベッカは診断書を受け取り、そっと胸に抱きしめた。

 まだ実感が湧かないが、ディオンとの愛の結晶が自分の中に芽生えた証明だった。




 その後、いつものようにレベッカの元を訪れたディオンが懐妊の話を聞き、しばらく固まった後に号泣をし、レベッカを驚かせた。

 その日は帰りたくないと駄々を()ね、外泊の手続きをしていないからと、ブレソールに引き摺られて帰って行った。


 一緒に来ていた側近達も含め、当然この事は緘口令が敷かれた。

 屋敷内の使用人は元々王太子の忠実な部下なので、それほど心配はされていない。

 側近達も、話した後の事を理解出来る程度には優秀なので、大丈夫だった。


 一番心配なのは、浮かれたディオンだった。

 言葉にする事はなくても、行動で周りにばれてしまう可能性が高い。

「子供用品とか、まだ用意しないでくださいね」

 馬車の中で、にやけっぱなしのディオンへ、側近が注意する。


 王城へ着き、馬車を降りた瞬間に、ブレソールから同じような注意を受けたディオンは、自然とにやけていた顔を引き締める。

「さすがに暗殺は無いだろうが……護衛を増やすか」

 ディオンの言葉に、ブレソールは無言で頷いた。




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