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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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伯爵夫人




 その日は朝から、ウッドヴィル伯爵邸()()は大騒ぎだった。

「素敵です! 奥様!」

 ロラにドレスを着せたメイドが褒める。

「これならば一番目立ちますね!」

 ロラの髪を派手に結い上げたメイドが、ひと仕事終わったと笑顔見せる。


 茶髪に茶色い瞳のロラは、巻いた髪を高く結い、派手な髪飾りをするのが常だった。

 そして原色で露出が高く身体の線が出るドレスを着て、如何に男性の視線を集めるかを誇りに思っていたロラ。

 その視線に()が込められるほど、それを喜びに感じていた。


 そのように少し特殊な思考を持っていたロラだが、本日のドレスは違った。

 淡い水色で露出が少なく、ふわりとした可愛らしい意匠のドレスなのである。

 それには理由があった。


 このドレスは、ジョエルが婚約式の為に用意した物だった。但し、相手はロラではなく、偽装結婚の相手レベッカである。

 約一年半前の事だった。



 当時、レベッカの希望を聞いて決められた意匠と、請求予定金額が書かれた書類がブーケ家に届いた時、ロラとジョエルは一緒に確認をした。

 その金額は、予想よりも遥かに高いものだった。


 当然だろう。

 一生に一度だけの、婚約式で着るドレスだ。素材も良い物を使う。

 結婚式では更に高価なドレスを着るのだが、それは花嫁の実家が用意するものなので、ジョエルが気にする必要は無い。


 今まで自分が贈られたドレスよりも高価なドレスに、ロラは書類を床にぶちまけた。

「何で私のドレスより高級なのよ! お飾りのくせに生意気なのよ!」

 書類を破かんばかりの勢いのロラに、ジョエルはある提案をした。


「そのドレス、一度ロラ用に作った物をレベッカ用に直せば良いんだよ。結婚したら、荷物から取り上げれば良い」

 それよりも良いドレスを買ってやる……と言えるほど、ジョエルにお金の余裕はなかった。



 本日ロラが着たのは、そんないわく付きのドレスだった。

 参加するのがレベッカの兄の婚約式だから、対抗意識が湧いたのもあった。


 小さなドレスを大きく直す事は、基本的に出来ない。

 それを踏まえて、レベッカが婚約式で着たドレスを着て「アンタの為のドレスじゃなかったのよ」と言ってやりたかったのだ。


 微妙に似合っていない自覚もあった。

 髪型もドレスと合っていない。

 ブーケ家のメイドは、臨機応変で結い方を変えられるほど優秀では無かったから。

 それでも、たとえ他人の婚約式でも、婚約式という場でジョエルの隣で婚約式用のドレスを着たい女心が(まさ)った。




 婚約式の会場である教会に着いたロラは、馬車を降りてジョエルにエスコートされて歩いた。

 ロラにとっては約二年ぶりの表舞台である。


 レベッカに自分の存在がバレないようにと、ウッドヴィル伯爵邸に隠れていた婚約までの期間と、婚約期間一年。

 そして結婚してから今までは、なぜか誰からも茶会や夜会に招待されなかったから。



 ジョエルは受付に招待状を渡した。

 ロラは伯爵夫人として、堂々とジョエルの隣に立つ。

 そう。

 ロラは自分が伯爵夫人として扱われると、信じて疑っていなかった。


 それは、ユゲットがロラを看做す夫人と勘違いして、伯爵夫人と呼んでしまった事も一因だった。

 そして()()()()()()()招待状も、伯爵夫妻となっている、と。


 だから、受付係が招待状を確認して、ジョエルを見て、ロラを見てから発した言葉が信じられなかった。



「レベッカ様は本日親族側で参加される予定だと聞いておりますが、こちらの方はどなたですか?」

 淡々と告げる受付係は、厄介な者を見る目をしていた。

 常識が無い者を見下す目、と言った方が良いかもしれない。


「私はジョエルの正妻よ」

 ロラが宣言すると、受付係は「少々お待ちください」と言って席を外してしまった。

 警備らしい兵士と案内係らしい男が入口を塞いでいるので、無理矢理教会内に踏み込む事は出来そうもなかった。




 そして、あの悲劇が起きる。

 何故か突然破けたドレス。

 貸し出された修道服に着替えて戻っても、入れない会場。

 更にジョエルだけ先に入っている様子だ。


 怒りが頂点に達し、今までの二年間も含め溜まりに溜まった不満を乗せて、ロラは力一杯叫んでいた。

「だーかーらー! 私は、この中にいるジョエルの妻なの! つーまーよ、妻。伯爵夫人。解る?」


 いつの間にか戻って来た受付係は、周りの兵士に何かを指示していた。

 そして拘束されるロラ。

「身分詐称で連行します」

 警備兵は容赦なくロラを後ろ手で拘束し、堅牢な馬車へと放り込む。


 そのような馬車がなぜ教会前に置いてあったのか。

 馬車の車体にある紋章が貴族の物ではなく、この国の物であるとか。

 色々とおかしな点はあるのだが、焦っているロラは一切疑問に思わなかった。




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