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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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たられば




 せめてジョエルとロラが建物の中に入れていれば。

 ウッドヴィル伯爵邸に帰るまで、レベッカに会っていなければ。

 ロラが大人しく馬車で待っていて、ジョエルだけが婚約式に参加していれば。


 ロラが衆人環視の中で、ボロ布と化したドレス姿を晒す事は無かっただろう。


 元々腰周りはふんわりとしているので、破けたのは(くび)れた胴回りから上の部分だ。

 腕は肩口と袖口だけが繋がっている。

 胸の部分は一番負荷が掛かったのか、下着が丸見えだった。


「ナイトドレスではなくて良かったですね」

 レベッカの口から出た第一声は、驚きからか少し的外れな内容だった。

 だがある意味正解でもある。

 ナイトドレスだと、背中や胸元が大きく開いている意匠が基本で、下着を着けていない事も多い。


 しかし初夜の晩にレベッカに裸の胸を見せつけていたロラならば、あまり気にしないかもしれない、とレベッカは思い直す。

「いえ、ナイトドレスなら露出が増えるだけで、むしろ支障無かったかしら?」

 自信があるみたいだし、とレベッカは自分の発言を訂正した。



 教会の人の厚意で、ロラは教会に寄付された服を借りる事が出来た。

 当然きらびやかなドレスなどは置いていない。そういう服は寄付されても布と装飾に分解され、表地の高級な布やリボンなどの装飾は売られ、地布は孤児の服に作り直されるからだ。


 ロラが着替えに行っている間に、レベッカはジョエルへ声を掛けに行く。

「お久しぶりですね、ジョエル様」

 ジョエル一人になった為に、お披露目会(パーティー)会場へ入る事が出来たようだ。ロラは着替え終わっても入る事は出来ない為、会場外へジョエルが呼ばれる事になっている。



「な! お前! なぜ俺達が入れないんだ?! この招待状は偽物なのか!?」

 ロラのドレスが破けた事で混乱し、興奮しているジョエルは周りからの視線も気にせずに、レベッカを怒鳴りつけた。

 傍に立つ人物が誰かにも気付いていない。

 尤も、少し離れて他の貴族と話をしているので、視野の狭いジョエルには無理かもしれないが……。


「招待状にない人物を連れて来ておいて、入れると思っている方がおかしいのですが……」

 招待状を確認しろ、とレベッカはジョエルの手に握られている招待状へ視線をやる。

「ウッドヴィル伯爵夫妻、となっているだろうが!」

 グシャグシャになった招待状を広げレベッカの眼前に突き付けたジョエルは、なぜか勝ち誇った顔をしている。


「ジョエル様、貴女の妻は誰ですか?」

 レベッカは温度の無い目で問い掛ける。

「そんなもん、ロラに決まって……」

 そこまで叫んで、ジョエルは口元を手で抑えた。そのまま周りを(うかが)うように視線をさ迷わせる。

 だが最初から喧嘩腰で大声を出しているジョエルの行動は、周りの招待客の注目の的だった。



「どうせお前だって俺以外の人間を連れているんだろうが!」

 先程よりは若干声を抑えながら、ジョエルはレベッカを非難した。

 自分がロラを連れているのが認められないのなら、レベッカも自分以外と居るのはおかしいと。


 このような場に、エスコート無しで参加するのは、成人貴族としては恥である。

 主催側として参加していたとしても、クロヴィスの他に兄弟のいないレベッカは、誰かと一緒に参加しているはずなのだ。


「私は法で認められている方と一緒なだけですから、このまま国王陛下にもご挨拶に行けますわよ」

 レベッカは少し後ろに控えて他の貴族と話をしているディオンへ視線を送った。

 レベッカの動向に神経を尖らせているディオンは、すぐにその視線に気付く。


「話は終わったのか?」

 貴族との会話を終わらせて、ディオンがレベッカの横へと歩いて来る。

 別館建設の時に話だけは聞いていたが、実際に一緒に居る所を見ていなかったジョエルは、レベッカが公妾になった事を信じていなかった。



「お、うたい、し、殿下……?」

 ポカンと情けない表情で口を開けているジョエルは、挨拶する事も忘れてディオンを見つめていた。

 学校でも学年が違った為に、遠目でチラリと見た事があるくらいだった。

 王家主催の新年会で、貴族の義務として挨拶をした事はあるが、言葉を交わした事は無い。


 その遙か天上の存在であるはずの王太子が、自分に利用され惨めに平民に蹂躙されるはずだった妻の横に立っている。

 しかも自然とレベッカの腰に回された腕は、その関係が親密であると証明していた。


「ジョエル様、紹介がおそくなりましたけど、私の愛人です。ご存知とは思いますけど、ディオン・アルフォンス・デュフォール王太子殿下ですわ」

 ディオンに身体を寄せて寄り添うレベッカの姿は、嘘を言っているようには見えなかった。




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