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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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32/58

ドレス




 婚約式当日。

 エルフェ家の両親と共に、レベッカは幸せそうな兄とその婚約者を見つめていた。


 クロヴィスは昔、屋敷にディオンが遊びに来る度に、あれこれと理由を付けて追い返そうとしたり、レベッカを街へ行かせたりと、何かと邪魔をしていた。

 それが単なる嫌がらせではなく、レベッカを守る為なのだと知るのは、ディオンに婚約者候補が出来た時だった。


 伯爵位では王太子に嫁げないのだと、レベッカはその時初めて知った。

 どれだけ想い合っていても、自由に結婚出来ないのが貴族というものなのだと。

 両想いなのに失恋という、おかしな経験をさせたく無かったので、妹思いの兄は邪魔をしていたのだ。


「レベッカが幸せになるまで、僕も結婚しない!」

 わずか十二歳のクロヴィスは両親へ宣言し、実際に今まで婚約者もいなかった。

 それを許していた両親も、貴族としてはかなりの変わり者だろう。



 レベッカは隣に立つディオンへ、そっと頭を凭れさせた。

 家族席に王太子が居る事で招待された貴族達が困惑しているが、知った事では無い。

 レベッカの中では、ディオンがレベッカの愛人なのでここに居て当たり前だったから。


 実際に有効な魔法契約は、ジョエルと交わした『レベッカは愛人を作る事』であり、王家の都合上レベッカがディオンの公妾となっているだけである。

 単なる王宮へ提出された書類より、魔法契約の方が上なのだ。


 そもそもレベッカの愛人として参加しなければ、たかが一伯爵の後継者の婚約式に王太子が招かれる事は無い。

 クロヴィスは幼馴染ではあるが、側近では無いのだから。




 神前での契約が終わり、婚約が成立した。

 クロヴィスは照れたように笑い、テレーズは涙を浮かべて喜んでいる。

 王太子の婚約者の座より、伯爵の嫡男を選んだテレーズは、実は恋に生きる情熱的な性格なのかもしれない。


 結婚式ほど豪華ではないが、簡単なお披露目会(パーティー)がこの後開かれる。

 教会の横にある、その為に建てられた館は若い女性が好みそうな、可愛らしい雰囲気のものだ。


 結婚式では無いので、テレーズのドレスはクロヴィスの瞳の色である明るい青が基で、緑と金の刺繍がされている豪華なものだ。

 対してクロヴィスは、テレーズの瞳の緑とドレスの青布が程よく使われた正装で、二人が並ぶと調和する意匠である。



「素敵なドレスです」

 レベッカがテレーズを見ながらうっとりと呟く。

 きつい顔立ちのテレーズには、ハッキリとした色合いの豪華なドレスが良く似合う。

 全体的に淡い印象のレベッカとは、対照的にも見える。


「リーは水色は嫌?」

 ディオンが淡い水色の瞳を不安そうに揺らしながら聞いてくる。

 今日のレベッカのドレスは水色だった。

「いいえ。大好きです」

 レベッカは満面の笑みで答える。

 嘘では無い。


 何せジョエルとの婚約式の時のドレスも、水色だったくらいだ。

 ジョエルは髪がオレンジがかった金髪で、瞳が茶色なのでドレスには向いていない色だったのもあるが、好きな色を選んだら水色のドレスになっていた。



 そういえばあのドレスはどこへ仕舞っただろうか。

 ジョエルからの贈り物なので、嫁ぐ際に荷物に入れた記憶はある。

 そういえばジョエルからの贈り物は、殆どが手元に残らない花やお菓子ばかりだったのは、ロラが嫉妬するからだったのかもしれない。


 つい最近の事なのに、遙か昔の事のように懐かしく思い出しているレベッカの耳に、その思い出の中の人物の声が聞こえてきた。


「だから招待状ならここにあるだろうが! いつまで待たせるんだ!」

 婚約式を欠席したジョエルが教会の入口で、案内係と揉めていた。

 その横には、水色のドレスを着たロラ。

「あら……」

 見覚えのあるそのドレスは、たった今、懐かしく思い出していたドレスだった。



「妙に無駄な縫い代や立体縫い(ダーツ)が多いと思ったら、一度愛人用に作ったドレスを私用に仕立て直していたのね」

 全体的にロラよりもレベッカの方が小柄なので出来た強引な方法だ。

 それにしても、レベッカに似合う意匠のドレスである。体型も雰囲気も、残念なくらいロラには似合っていない。


 婚約式用のドレスなので、それなりの金額のドレスではある。

 だからこそ後々ロラが着られるように、変な画策をしたのだろう。

 しかし十七歳のレベッカ用のドレスを、現在二十二歳のロラが着るのは無理があり、痛々しい。

 多少飾りを減らしているようだが、それでもかなり無理がある。


「お似合いの夫婦だな」

 皮肉を込めて、ディオンが言う。

 騒ぎを聞きつけたのか、レベッカの両親も傍に来た。

「あら? あのドレス、レベッカが婚約式に着ていた物とそっくりね」

 さすが母親である。すぐにロラが着ている物がレベッカのドレスだと気が付いた。


「はい。あれは私のドレスですね」

 レベッカが自分の物だと認めた瞬間、ロラのドレスが弾けた。

 正確にはレベッカの体型に合わせた形になった為に縫い目から破けたのだが、それが解ったのはアンくらいだろう。


 そう。

 ロラは魔法契約『お互いの財産は完全に別にする事』の制裁を受けていた。




ブクマ、★★★★★高評価ありがとうございます!

(≧▽≦)とても励みになっております!!

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