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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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 珍しい花々に囲まれた、華やかな茶会。

 参加しているのも見事な花だった。

 招かれた二人と無理矢理参加した一人、そして乱入した一人。

 主催者を入れて五人の花。

 しかし徒花(あだばな)になるのが確定しているユゲットは、主役の花であるレベッカが(うと)ましくて仕方が無かった。


 だがユゲットは自分が動くと益々立場が悪くなるのも理解していたので、今日の茶会にシモーヌを連れて来たのだ。

 その為にシモーヌ以上に使()()()ロラの乱入は、この上ない幸運だと声を掛けた。


 主催者に了解を得ず同伴者を連れて行くのも、勝手に参加人数を増やすのも、社交界では規則違反だが、今までそれを咎められた事は無い。

 当然、今回もそれが通ると、通って当たり前だとユゲットは思っていた。



「まぁ、フルマンティ公爵令嬢は男爵令嬢との方が気が合いますのね。それでは今日のお茶会はこれで終わりにしましょう」

 だから、レベッカが茶会の閉会を宣言した時には、口をポカンと開けてしまった。


「リズ、片付けの為のメイドを呼んでちょうだい。テレーズ様、どうかサロンの方へいらして」

 レベッカは本当に終わりにするつもりのようで、笑顔でテレーズを別館のサロンへ誘った。


 ケーキ等の生菓子はまだ出されておらず、最初から用意されている焼き菓子が置いてあるだけ。まだ一杯目のお茶に口を付けただけの、本当に始まったばかりの茶会なのに。

「え? 何を言っているの? 席を増やせば良いだけでしょう」

 ユゲットは席を立とうとしているレベッカに、怒りを滲ませた声で抗議をした。



「一度は大目に見て差し上げました」

 レベッカの視線が、ユゲットの隣に座るシモーヌを見る。

「二度目はさすがに(かん)()出来ませんわ」

 今度は視線も合わせずに言い捨てると、レベッカは席を立った。

 見送る気も無いという、完全な拒絶の意思表示。


「何様のつもりよ!」

 レベッカを引き止める声をあげたのは、招かれてもいないシモーヌだった。

 振り返ったレベッカは、格下を見る、蔑みを含んだ冷たい視線でシモーヌを見た。


「王太子殿下の寵愛を受ける者ですが、それが何か?」

 自信満々に答えたレベッカには、愛されている者の自信が溢れている。

 しかしディオンとレベッカが一緒にいる所を見た事が無いシモーヌは、負けじとレベッカを睨み返した。




 アンとリズを従えて、レベッカはテレーズと共に温室を出て行った。

 呼ばれた別館の使用人達は一瞬迷ったが、残っていたガストンが視線で片付けるように(うなが)すと、三人から遠い所から片付け始める。


 ティーセットがワゴンに載せられる。手をつけて貰えなかった焼き菓子も下げられた。

 銀の蓋(クローシュ)を開ける事すらされなかった生菓子は、使用人達の今日のおやつになるのだろうか。


 下げられた焼き菓子をロラの後ろに居た本館の使用人達が、恨めしそうに見つめていた。久しぶりにまともな匂いのする食物を見たのだから、しょうがない。

 まだ例の()()は続いていた。



「それでは、俺はディオン殿下を出迎えなきゃいけないので、これで失礼しますよ」

 別館の使用人が全員退去したのを確認して、ガストンが残った三人へ声を掛けた。

 茫然と使用人達が片付けをするのを眺めていたユゲットは、ガストンの言葉に正気を取り戻した。


「ディオン様がいらっしゃるの?!」

 喜びを隠さないユゲットへ、ガストンの視線は冷たい。

「席が四つの時点で気付くべきだったね」

 確かに、ユゲットは当日に無断でシモーヌを連れて来たのに、椅子は初めから四つ用意されていた。


 ガストンに言われるまで、ただ単に四人掛けのテーブルだからなのだと思っていたのだが、温室に態々(わざわざ)茶席を用意するのに空席を作るはずがなかった。

 シモーヌはディオンの席を奪ったのだ。



「知らなかったのよ」

 ユゲットは震える声で言い訳を口にした。

「だから?」

 青ざめたユゲットを見下ろすガストンの表情は変わらない。


 まだすげ替えの利く単なる婚約者と、既に閨を共にした公妾では、王太子の子を身ごもっている可能性のある後者の方が立場は上である。

 そうでなくても、ディオンがレベッカよりユゲットを優遇する事など有り得ない。


 何か他に(もっと)もらしい弁解はないかと、ユゲットはシモーヌを見た。自分を庇う発言を期待して。

 しかしシモーヌはユゲットを見ていなかった。

 その瞳は、遙か彼方を見つめている。

 頬を上気させたシモーヌの視線を、ユゲットは(おもむろ)辿(たど)る。


 そこには、怪訝な表情で歩いて来るディオンが居た。




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