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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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初志貫徹




 朝、太陽の光を感じて目覚めた……つもりだったレベッカは、思った以上に部屋の中が明るくて驚いた。

 驚いて身体を起こそうとして、自由が利かない事に更に驚く。

「おはよう」

 焦っているレベッカの耳に、甘い声が響く。


 少しの笑いを含んだその声は、すぐ傍から聞こえた。

 それはそうだろう。

 レベッカは、ディオンに後ろから抱きしめられているのだから。

「お、おはよう、ございます」

 レベッカを拘束しているのは、他でもないディオンの腕だった。



 ベッドの中で、恥ずかしがるレベッカと、手離したくないディオンが攻防していると、遠慮の無い声が掛けられた。

「おはようございます。湯浴みになさいますか? お食事になさいますか?」

 水の入った水差しと、温かくしたタオルを載せたワゴンを押したアンである。


「もう少し新婚への気遣いを……」

 ディオンがレベッカを抱きしめたまま文句を言おうとすると、驚くほど冷たい視線が落ちてきた。


「レベッカ様は昨日のパーティーでは殆どお食事もなさっておらず、水分も湯浴み後に飲まれた果実水が最後です。その上昨夜は大量の汗を掻かれているのですよ。体調を崩されたらどうするつもりですか」

 立て板に水。よどみなく綴られる言葉には、反論の余地が無い。

 さすがのディオンも、はい、すみません、と素直になるしかない。



「まずは水分を摂りましょう」

 ディオンの腕からレベッカを解放したアンは、有無を言わさずその身体を起こした。

 レベッカが羞恥を感じる前に、大きなタオルを身体に掛けて隠し、その手に水の入ったコップを渡す。


「殿下はどうなさいますか?」

 アンがディオンへと顔を向け、質問をした。

 至れり尽くせりのレベッカへとは違い、ディオンへは完全に義務での声掛けである。

「貰おうか」

 苦笑しながら身体を起こしたディオンに、水の入ったコップが渡された。



 本来なら怒られても仕方が無いアンの態度だが、レベッカを気遣うものだからかお咎めは無い。

 そもそもレベッカを第一に考え、全てにおいて優先するように命令したのはディオンである。


 水を飲んだ後、レベッカは大人しくアンに身体を拭かれていた。

 先程まで照れて身体を隠そうとしていたのが嘘のように、素直に裸を晒している。

 アンが一緒ならば自分に裸を見られるのも大丈夫なのか、とディオンは少し複雑な気持ちでレベッカを眺めていた。


「ご自分で拭きますか? お拭きしますか?」

 アンが温かいタオルをディオンに差し出した。質問形式を取っているが、態度では自分で拭け、と言っている。

「リーを頼む」

 大人しくタオルを受け取ったディオンは、自分の身体を拭き始めた。




 三日に上げず、王太子が公妾の元へ通っているらしい。


 レベッカが公妾となって一ヶ月。

 既に社交界ではその話題で持ちきりだった。

 王宮にある王太子用の執務室とほぼ同等の執務室が、ウッドヴィル伯爵邸別館には用意されていた。持ち出し禁止の機密書類以外はここで処理される事が多い。

 その理由が、レベッカと午後の休憩を一緒に取りたいからだ、という事を知る者は少なくない。


 王宮の執務室で緊急と重要の書類を片付けたディオンは、出勤するかのようにウッドヴィル伯爵邸別館へ向かっていた。

 馬車の中で書類を確認しながら、朝食の席で母である王妃に言われた話を思い出して、口の端を持ち上げる。


「貴方は好きな人と添い遂げられて幸せね」

 幼い頃からレベッカに執着していたディオンを知っている母親は、呆れと哀れみと少しの羨望が込められた視線を息子に向けた。



 ディオンの母は正妃ではなく、第二側妃である。

 正妃と第一側妃が王女を二人ずつ産んだところで側妃に召し上げられた。

 親に決められた婚約者はいたが、義理での交流しかない政略相手だったので、側妃に上がる事も素直に受け入れた。


 母も一人女児を産んだところで、更に公妾が一人増えた。

 更に公妾に一人、第一側妃に一人、女児が生まれたところで、ディオンが生まれた。

 これ以上女児が増えても困ると、国王は子作り目的の閨事は止めてしまった。



 恋を知らずに嫁ぎ、子を産み、それなりに幸せに過ごしていた母親は、ディオンの行動を黙認しているが理解はしていない。

 幸い、他の妃達との仲が良好である為に、変な横槍も入っていない。


「今度、正式に婚約者になったフルマンティ公爵令嬢とレベッカちゃんと、私達でお茶会をしなくてはね」

 もう一つ言われた事を思い出し、ディオンの顔が曇った。

 母親の言う「私達」とは、王の妃全員の事だろう。

 レベッカにとっては姑にあたる。


 百面相をしているディオンを見て、馬車に同乗している側近達は、珍しいものを見たと目を丸くしていた。




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