甘すぎです
落成式が終わり、招待客を見送ったレベッカとディオンは、仲良く私室へと向かった。
その二人の背中を、クロヴィスとテレーズの二人が見送る。
後ろにはガストンも居た。
アンとリズは、レベッカの部屋で準備をしているか、隣の部屋で控えているのだろう。
別館の使用人として新たに雇われた使用人達は、宴会場の片付けで忙しく動き回っている。
「ガストンは、既にここの間取りが頭に入っているのだとか?」
クロヴィスが後ろに立つガストンを見上げる。
「お、案内しましょうか?」
ガストンが悪戯っ子のように笑うと、クロヴィスも同じように笑い返す。
「レベッカ様のお部屋の前は駄目ですよ」
テレーズが注意をする。邸内を歩き回る事自体は止めないらしい。
「あぁ、あの部屋は防音と防御が半端ないので、前を通るくらいなら問題無いです」
ガストンがケロッと言うのに、クロヴィスとテレーズは顔を見合せて苦笑いした。
ここの建物は便宜上別館と呼んでいるが、中身は本館よりも余程金が掛かっている。
但し本館のように主人の部屋と女主人の部屋が別にあって、真ん中に寝室があるわけではない。
あくまでもこの邸宅の主人はレベッカであり、そこへディオンが泊まりに来るのである。
ディオンの為の書斎や執務室はあるが、寝室は無い。
来客用の部屋はあるが、長期滞在には向いていない造りだった。
しかもレベッカの生活空間とは離れた所に在り、一度階段を降りて下の階へ行き、違う階段を登らないと行き来出来ない。
住人居住空間と来客の入れる空間が、完全に隔絶されていた。
「ここまで徹底していると、いっそ清々しいな」
ガストンとテレーズと共に別館の中を見て回ったクロヴィスは、主の居ない来客用の応接室へと足を踏み入れた。
「本当にディオン様はレベッカ様が大好きなのですね」
テレーズが自然にクロヴィスの隣に座ると、ガストンは一度目を見開いてから笑った。
「遠慮が無くなりましたね」
今までは対面に座っていたクロヴィスとテレーズだったが、婚約者として認められた途端に隣に座っている。
その距離の近さに、今までも人目の無い所ではそうだったのだろうと想像出来た。
「婚約者相手に何を遠慮する必要が?」
クロヴィスが隣に座るテレーズの肩を抱き寄せる。
「言い直しますね。周りへの配慮が無くなりましたね」
ガストンが二人の向かいのソファへと座る。
今はレベッカがいない為、護衛ではなく一個人としてこの場にいるのだ。
「リクー卿も早く婚約者を決めればよろしいのに。伯爵の次男でも王太子殿下の側近であれば引く手数多でしょう?」
テレーズが遠慮無くクロヴィスに凭れながら言うのに、ガストンは不満そうな表情へと変わる。
「騎士爵も有るし、結婚を申し込んでるんですけどねぇ。色良い返事が来なくてね。やはり相手のが高給取りだからですかね」
突然のガストンの告白に、テレーズの瞳が輝く。
「お相手は誰ですの?!」
テレーズの問いに困ったように笑ってから、ガストンは立ち上がる。
「今日はお泊まりになるんですよね? お部屋にご案内します」
答える気は無いらしい。
「部屋は二つ? それとも一つにします?」
ガストンの意趣返しに、テレーズは顔を赤くし、クロヴィスは考え込む。
「嘘ですよ。シャトレ侯爵に殺されちゃいます」
俺が、と言った後に豪快に笑ったガストンは扉に向かって歩き出す。
後を追おうと腰を浮かせたテレーズは、腕を引かれてよろめく。そのままクロヴィスの膝の上に座ってしまった。
驚いて立ち上がろうとするテレーズの腰に腕を回し、クロヴィスは悪戯が成功した子供のように笑う。
「婚約期間は最短の半年にしましょうね、婚約者殿」
耳元で囁いてから、クロヴィスはテレーズの頬へくちづけた。
自分の兄が出来たての婚約者と甘々な雰囲気になっている頃、レベッカは一人ベッドの上で緊張していた。
先に湯浴みを済ませ、薄布と言って遜色無い夜着をまとってベッドに座っている。
「このまま待つのが正解? いえ、布団の中に入って横になるべき?」
初めての経験に、挙動不審に陥っていた。
ディオンは今、部屋にある簡易浴室を使用している。
レベッカは二人でも充分入れそうなくらい大きい湯殿の方を使って、リズとアンに磨きあげられていた。
「二人にどうすれば良いのか聞いておけば良かったわ」
可愛く結ばれた胸元のリボンを整えながら呟く。
若干透ける素材で出来た夜着は、前をリボンで三ヶ所結ぶだけの可愛い意匠で、初夜に相応しい可憐さと妖艶さが絶妙に同居している。
レベッカは知らないが、これを選んだのはディオンである。
そして当のディオンは、ベッドの上であれこれ悩んでソワソワしているレベッカが可愛くて、浴室の扉の陰からこっそりと観察していた。
この後、朝日が昇る前に寝かせてあげられるかな? 等と不埒な事を考えながら。
R15なので、ここまでです(笑)




