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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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21/58




 落成式という名のお披露目が終わり、主だった貴族にはレベッカがディオンの公妾であると認知された。

 正妃がいないのに公妾とは、と眉を(しか)める貴族もいたが、後継者の事を考えると例え公妾でも、王太子がその気になってくれた事の方が重要だった。


 この国には第二王子はいない。

 国王には正妃に側妃、公妾までいたが、王子は一人しか生まれなかった。

 王女は第八までいるのに。

 一番最後に生まれたのがディオンであり、姉である八人の王女は既に全員が他国へ嫁いでいる。


 なぜ他国なのか。

 一人しかいない王子を亡き者にして、王女の産んだ子を国王に! という悲劇が起こらないように、という国の総意だった。

 基本的にこの国は平和で、王家……いや、直系男児至上主義である。




 時は少し戻り、ウッドヴィル伯爵邸本館。ジョエルとロラが生活している屋敷である。

 こちらでも、全ての出入口を王太子直属の近衛隊に()()()()いた。

 使用人も建物の外に出る場合はその目的と行き先を近衛兵に説明し、許可が出なければ一歩も外には出られない徹底ぶりだった。


「ちょっと! なんで外に出れないのよ!」

 当然不満を訴える者が出る。

 特に屋敷の窓から外を見ていたロラは、豪華な馬車が別館に向かうのを見て自分も行こうと着飾っていたので、その怒りは相当なものだった。


「自分の屋敷の敷地内に行くのに、何でアンタ達の許可が必要なわけ?!」

 ある意味正解で、ある意味不正解である。

「いつからここは、ケニントン男爵の所有になったのです?」

 近衛兵が無表情で応える。

 そう。ロラはあくまでジョエルの愛人であり、ブーケ家とは無縁なのだから。



 仮に公妾契約が成立していればロラの言う事は正しい事であり、王太子に危害が及ばなければ、近衛兵達にその行動を止める権利は無い。

 公妾の夫の愛人は、看做(みな)す夫人として扱われるからだ。


 しかし現状、ロラは単なる客であり、ウッドヴィル伯爵夫人として扱われるべきはレベッカのままである。

 その為、個人の屋敷内であっても同じ客の立場ならば、男爵令嬢より王太子の近衛兵の方が権力は上となる。


「私の記憶違いならば申し訳ないが、この方はブーケ家とは無関係では?」

 近衛兵はロラ本人ではなく、後ろに従っているメイドに視線を合わせた。

 伯爵邸で働く使用人である。当然爵位は伯爵より下。近衛兵よりも上という事は無い。

 嘘を()けば、それだけで罪に問われる可能性が高い。


「この方は旦那様の親しいご友人でいらっしゃいます」

 メイドが必死に考えて出した答えはこれだった。

 新婚である主人(ジョエル)に愛人がいる、と、そのような体裁が悪い事を使用人の口から言う事は出来ず、かといって伯爵夫人だとの嘘も()けない。


 ロラは裏切られたように感じたのか、手を振りあげた。

 メイドの頬を打つ前に、後ろから足音が聞こえてくる。

「何をしている?」

 正装を身に着けたジョエルだった。



「ジョエル!」

 振り向いたロラは、喜色満面の笑顔を浮かべた。

 側まで駆け寄り、その腕に抱きつき身体を預ける。

「この人達が私の事を外に出してくれないのよ!」

 ロラが扉の外に立つ近衛兵二人を指差す。

 扉を塞ぐように立つ二人は、間違いなくジョエルよりも強いだろう。


「私達は別館で開催されるパーティーへ参加するだけだ。通してくれ」

 ジョエルは腕に絡まるロラをそのままに、一歩踏み出した。

 しかし道を開けると思った近衛兵は、変わらず道を塞いでいる。

 目を合わせない為にカフスボタンを調節する振りをしていたジョエルは、足を止めて視点を上げた。


 まるで害虫でも見るような視線と目が合い、ビクリと身体が震える。

 今すぐにでも叩き潰されそうな、そのような錯覚を起こしてしまうほどの、嫌悪が含まれた視線。


「招待状はお持ちですか? 国の重鎮も招待されておりますので、()()()()()()()()招待状の無い方は入れません」

 それは、書類上はレベッカの夫であるジョエルも例外では無い、と告げている。

「これを置いていけば良いのだろう!?」

 ジョエルは腕に掴まっていたロラの腕を払い落とした。

「は?」

 ロラの顔が醜く歪む。


 ()()と呼ばれた屈辱か、人前で腕を払い落とされた羞恥か、それとも両方か。

 屋敷の中では何年も、レベッカが来てからも変わらず女主人として扱われていたロラにとっては、耐えられない程の侮辱(ぶじょく)だった。




誤字報告ありがとうございます!

この話、まるっと傍点の修正がされていませんでした(^_^;)

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