表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/58

幼馴染と婚約者




 レベッカとクロヴィスの兄妹は、王太子であるディオンとは所謂(いわゆる)幼馴染という関係だ。

 厳密には、クロヴィスはディオンの側近候補、というものだった。

 幼い頃のクロヴィスは、ディオンと側近候補達とのお茶会で、立派な伯爵になる為の勉強に集中したいから側近になるのは無理! と宣言してしまう、ちょっと空気の読めない子供だった。


 剣術よりも座学が得意な、こまっしゃくれた子供だったのだ。

 クロヴィスの言動が初めて見るものだったからか、ディオンはクロヴィスに興味津々だった。


「それほど大切なのならば、一度お前の領地を見に行ってやろう」

 ディオンもクロヴィスに負けず劣らず、かなり()()な子供だったので、周りの大人がハラハラするほど、二人は火花をちらしていたそうだ。



 本当にジャイルズ伯爵領を訪問したディオンは、屋敷で出迎えたエルフェ家の面々を見て、急に大人しくなった。

 正確には、クロヴィスの妹のレベッカを見て。

 人が恋に落ちる瞬間を初めて見た、と未だにクロヴィスはこの時の事を話題にする。


 幼いながらも身分というものを理解していたクロヴィスは、ディオンをレベッカから遠ざけようと頑張っていた。

 しかし三年も過ぎると容認するようになり、五年過ぎると協力するようになった。


 ディオンとクロヴィスが十二歳、レベッカが十歳になった時。

 例の婚約者候補達の実家のせいで関係が絶たれた。

 しかしその後も、クロヴィスは学校でディオンと行動を共にしていたようだった。


 側近候補を辞退したのだから側に寄るな、と文句を言った侯爵家次男が側近候補から外されたのは、一部では有名な話らしい。

「私には友人を選ぶ権利も無いのかな?」

 と、笑って言ったディオンがとても恐ろしかった、と後日クロヴィスがレベッカに告げ口したのを、ディオン本人は知らない。




 数枚試着して、全部買おう! とクロヴィスが言い、レベッカが止めようとしていた時だった。

「あら、この店はいつからこのような下賎な者達も買えるようになったのかしら。今度から、私達はお店を変えた方が良いようね」

 突然高飛車な声が室内に響いた。

 ここはこの店の一番奥に在る貴賓室であり、招かれた者以外は入れないはずなのに。


 声の方向へ振り向いたクロヴィスとレベッカの視線の先には、ふわふわの髪を緩く纏めた可憐な雰囲気の令嬢が居た。

 見た目だけなら儚げで守りたくなるが、先程の発言を(かんが)みると、見た目通りの性格では無いのだろう。



「これはこれは、王太子殿下の婚約者候補のジスカール侯爵令嬢ではないですか」

 クロヴィスが軽く頭を下げながら挨拶をする。候補を強調しているのは気のせいでは無い。

 レベッカは迷ったが、頭は下げずに見つめ返した。


 まだ正式に発表はされていないが、レベッカはディオンの公妾である。

 レベッカが頭を下げるべきなのは、国王夫妻と王太子であるディオン、そしてディオンの正妻になった者だけである。

 あくまでも婚約者候補でしかない相手は、例え爵位がレベッカより上であっても、(かしず)く必要は無いのだ。


 いつまでも頭を下げないレベッカに、侯爵令嬢は怪訝な顔をする。

「まさか自分の立場も解らない馬鹿なのかしら」

 貴族らしい遠回しな物言いもせず、侯爵令嬢はレベッカを見下す。


「こういう事を避ける為に、今日は貸切にしたはずなのに」

 クロヴィスがあからさまに溜め息を吐き出した。視線を今まで対応してくれていた店員へと動かす。

「確認してまいります」

 顔色を悪くした店員が言うのが早いか、店頭から男が二人歩いて来た。



「何が本日は貸切です、だ」

「ジスカール侯爵であり、王太子殿下の婚約者であるお嬢様がいるアルカン家に逆らうとはな!」

 護衛二人の声が大きいのは、(わざ)とだろう。

 今までも王太子の婚約者だと()()()、無理を通してきたのが見て取れる。


「婚約者、ですか? 私の認識ではまだ候補でしたが」

 部屋の壁際で控えていたブレソールが、部屋の入口で護衛二人を遮るように前へ出た。

 驚いた護衛が声を発するより先に、ガストンの手が護衛の喉元にあった。そこには短剣が握られている。

「お静かに」

 護衛は短剣よりも、ガストンの顔に驚いているようだった。



「何をしているの! アルカン家に逆らうの?! 私は王太子殿下の婚約者よ!」

 侯爵令嬢がガストンを怒鳴りつける。

 ガストンは殊更(ことさら)ゆっくりと振り返った。

「殿下の婚約者が決まったとは、知りませんでした」

 いつもレベッカに見せている、人好きのする笑顔ではなく、温度の無い冷たい笑顔。


「え?」

 驚きの声を発して、侯爵令嬢は固まった。

 その顔は血の気を失い、身体は小さくカタカタと震えている。

 今までの傲慢で高飛車な態度は、微塵もない。


 後日、王太子ディオンの婚約者候補が一人減っていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ