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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 

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特定配達便




 レベッカが取り出したペンダントは、リズが出したハンカチの上に置かれていた。

 ギルド長と秘書は、それを手に取らずに顔を近付ける事でじっくりと見る。

「王室の紋章……」

 呟いたのは、どちらだったか。


「アル……ディオン殿下に直接貰ったので、盗んだとかでは無いですよ」

 レベッカが言うと、ギルドの二人は焦ったように手と首を振る。

「そこは疑っていません! 確かに届け出はされております! ただ、もう十年近く前に手続きをしたので、今更……」

 そこまで口にして、ギルド長は慌てて口を(つぐ)んだ。


 今更来るとは思わなかった、とはさすがに不敬に当たるので言えないだろう。

「そうですよね。私も、自分で吃驚(びっくり)してます」

 レベッカが明るく笑った。



 レベッカの言う「アル」とは、本名ディオン・アルフォンス・デュフォールと言い、ダヴェンポート王室に籍を置く、立派な王族である。

 更に言えば、王位継承権第一位であり、王太子でもあった。


 レベッカとディオンの交流があったのは、レベッカが十歳、ディオンが十二歳の頃までであった。

 ディオンが貴族の学校に入学する直前、婚約者候補が選出されたのを機に、交流が絶たれた。


 候補に上がった公侯爵家から、候補に上がれもしない伯爵家の令嬢と交流するのはおかしいと、物言いが付いたからだった。

 それから八年経っているが、候補から正式に婚約者になった令嬢はまだいない。




「あの、送りたいのはこれなのですが」

 レベッカはリズから鞄を受け取り、そこから取り出した書類をテーブルの上に置いた。

 それは、昨晩交わされた魔法契約書である。

 配達ギルドの上級職員は、就職する際に守秘義務の契約を必ず行う為、情報漏洩の心配は無い。


「はい。大丈夫です。他にお手紙など同封致しますか?」

 ギルド長に聞かれ、レベッカは鞄から封書を取り出した。

 宛名は『親愛なるアルフォンス様』となっている。

 かなり私的な手紙のようである。


「では、こちらの書類と手紙を、ディオン・アルフォンス・デュフォール王太子殿下へお届けいたします」

 ベルベットの貼られた浅い書類箱に魔法契約書と手紙を載せて、ギルド長が立ち上がる。それを秘書に渡した。

 秘書は一礼をしてすぐに退室する。最優先で配達される事だろう。



「それでは、よろしくお願いします」

 ソファの後ろに立っていたアンが挨拶をしてから移動し、レベッカへ手を差し出す。

 そこは護衛ではないのか? とギルド長はレベッカへ差し出された手を見つめたが、小さく首を振る。

 もし自分だったら、怖くて手を差し出せないだろう、と。


 世間一般では冷酷で女性に興味が無いと言われており、まだ婚約者もいない王太子。

 しかし八年も前に、一人の令嬢の為に特定配達便の手続きをしていた。

 特定配達便利用の為に使われるペンダントは、銀の台座に水色の宝石だった。


 因みに王太子の髪色は見事な銀髪で、瞳は淡い水色である。

 その色味と態度の冷たさに、若い令嬢の間では「氷王子」と密かに呼ばれている。

 氷王子の知られざる独占欲に、ギルド長は背筋が寒くなった。




 レベッカ達が部屋から出ると、例の受付嬢が常連らしき男性達に、涙ながらに何かを訴えていた。

「酷くないですか? 顔に傷が残ったら、お嫁に行けなくなっちゃう」

 その額には、大きな布が貼られていた。

「自業自得ですね」

 アンがボソリと呟く。


「結婚って言えばぁ、私の友達ロラって言うんですけど、昨日仕えるお家の当主が結婚したんですぅ。貴族にありがちな政略結婚で、可哀想だって言ってましたぁ」

 受付嬢の視線がチラリとレベッカを見た。

 不自然に語尾をのばす話し方は、甘えているつもりなのだろうか。実際に話し相手の男達は「そうなのか」とか言いながらデレデレしているが。


「最初から誰だか判っていての嫌がらせか~」

 妙に明るくガストンが言う。

 笑顔なのにその目が一切笑っていないのが、彼が見た目通りの人間では無いと証明していた。




ブクマ、高評価★★★★★ありがとうございます(>_<)

評価が増えてて、小躍りしてます!

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