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結婚したら、夫に愛人がいました。  作者: 仲村 嘉高
 
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幸せな結婚式




「おめでとう!」

「おめでとうございます」

「幸せになってね」

「美男美女でお似合いの夫婦ですわ」

「これで伯爵家も安泰ですな」


 王都にある大きな教会で、盛大な結婚式が行われていた。

 若くしてウッドヴィル伯爵を継ぐ事になったジョエル・ブーケと、ジャイルズ伯爵の長女レベッカ・エルフェの結婚式である。

 一年の婚約期間の間もとても仲が良く、社交界でも有名な二人。

 交際期間などなく婚約したのだが、貴族には珍しく政略ではなく恋愛結婚だった。



「ウッドヴィル伯爵が一目惚れして、口説き落としたのだったか」

「あまりにも熱心に通うので、レベッカ嬢よりも先に父親のジャイルズ伯爵が了承したとの噂が立っていたな」

 客席から聞こえる噂話も、二人に好意的なものばかりだった。


 惚れられて、請われての、恋愛結婚。

 レベッカの結婚生活は、夢と希望に溢れた、とても幸せなものになるはずだった。

 レベッカの家族であるエルフェ家の人々も、笑顔で参列していた招待客も、無論レベッカ本人も、そう思っていた。



 新婦がヴァージンロードを父親と共に歩き、新郎の元へと辿り着く。

 教会で大司祭の前で誓いを述べ、結婚証書に署名をする。

 新婦のヴェールが上げられ、幸せそうに微笑む美しい顏が露わになった。

 少し顔を持ち上げた新婦が目を閉じると、新郎からの誓いのくちづけが落とされる。


 それが唇ではなく額であったが、新郎が他人に二人のくちづけを見せたく無いほど新婦を大切にしているのだろう、と(おおむ)ね好意的に受け止められた。

 レベッカ自身も予想と違い一瞬驚いたが、初めてのくちづけだから、二人きりの時にしたいのかな? と、良い方向へと解釈した。




 結婚式、披露パーティーと順調に進み、レベッカにとっては新居となるウッドヴィル伯爵邸から帰る客を二人で見送る。

 普通は結婚前から新婦が一緒に住むものだが、レベッカは結婚式当日まで実家で過ごしていた。


「私との結婚でご両親と早く引き離してしまうのだから、少しでも長く実家で過ごして欲しい」

 ジョエルの言葉に、レベッカは勿論、ジャイルズ伯爵夫妻も感動し、喜んだ。


 婚約期間中も、結婚するまではきちんとしたい、とジョエルは誠実な態度を取り、レベッカがウッドヴィル伯爵邸に泊まる事は無かった。

 むしろジョエルがジャイルズ伯爵邸に顔を出す事が多かった。


 だからエルフェ家がレベッカと共に来客用の部屋に通されても、レベッカが花嫁の控え室へ直接連れて行かれても、誰も何も言わなかった。

 母親だけは「結婚式当日までお客様扱いなのかしら」と一瞬疑問に思ったが、既にレベッカの荷物は運び込まれているはずだし、後日、レベッカの部屋を見せてもらえば良いだろう、と敢えて何も言わなかった。


 来客を全て見送りし、レベッカの両親も家路へついた。

 走り去って行く馬車を見送り、レベッカは淋しさを感じつつも、嬉しさの方が(まさ)っていた。

 今日からはジョエルの妻であり、レベッカ・ブーケとなり、ウッドヴィル伯爵夫人である。


 優しい夫との新婚生活を思い、幸せな気分でレベッカは隣に立つジョエルを見上げた。

 一瞬、息が止まる。

 ヒュッと喉が鳴ったのが、自分でも判った。

 そこには、今まで見た事も無い程冷たい目をし、無表情でレベッカを見下ろすジョエルの顔があった。




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