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8.血盟


 怪物が進んだ方角から、目的地の位置は大体の予測ができた。クレーターの中心部だろう。偵察衛星の画像でも、その近くに東京紅蓮隊のアジトがあった。

 隕石が衝突すると隕石本体は砕け、圧力と熱で溶けて拡散する一方、地殻の反動で中心に盛り上がった部分ができる。これを中央丘というが、埼玉クレーターには中央丘の真ん中に直径二メートルほどの貫通孔があるらしい。

 周辺の放射線量が基準値を超えているため専門家は立ち入っていないが、前例のない現象に関心を持った海外の宇宙惑星科学の研究者がドローンによる調査を行った。しかし、通信障害やドローンの故障が続発し、深さが三十メートル以上ある、ということの他は何もわかっていないという。

 だが、怪物の存在を前提にするならば、そいつが侵入時に開けた突入孔という可能性がある。


 中央丘の周辺には樹木がなく、直径が百メートルほどの空き地になっていた。

 その上空にCH−47“チヌーク”がホバリングしていた。

 私と鬼柳が灌木に隠れて状況を見ていると、チヌークの後部ハッチが開き、SATらしき濃紺の隊服の者たちが姿を見せた。

 高度を下げているので、ラペリングで降りるようだ。彼らはロープを投げ降ろし、素早く懸垂下降を始めた。


 最初の隊員が降り立つ寸前、中央丘の真ん中から異形の者たちが湧き出てきた。

 もはや人間らしい輪郭を喪失した者たちが、四つん這いのまま転がるように走り出した。地面に引きずるくらい長い尻尾を生やした者さえいた。

 怪物を受け入れ、奇形と化した紅蓮隊の生き残りだ。穴から吹き出したのは十匹ほどだった。

 先頭の一匹が隊員に襲いかかると、あっという間に残りの者たちがロープをよじ登り、チヌークの後部ハッチになだれ込んでいった。

 “タタタ!”という短機関銃MP5の発砲音が繰り返し響いたが、襲撃の勢いは止まらない。

 私たちは飛び出し、SAT隊員が襲われて転がりまわっているところに駆けつけようとした。

 だが、縦穴の中から、節くれだった長大な前腕が伸び、かぎ爪が地面に喰い込んだ。

 あの怪物が巨体を持ち上げ、姿を現した。

 鬼柳は穴から上半身を出した怪物に発砲しつつ、躊躇なく距離を詰めていった。

 私はSAT隊員の腕に噛み付く、かつて人間だったモノを渾身の力で蹴り上げ、四五口径の銃弾を何発も撃ち込んだ。体勢を立て直した隊員もプローンポジションで連射する。

 まず“一匹”始末した。

 目を上げると、空き地の外れでチヌークが雑木林に突っ込むのが見えた。爆音とともに炎が上がった。

 SAT隊員はそちらに駆け出した。私は振り返った。


 視界に飛び込んできたのは、鬼柳が抑え込まれ身動きもできず這いつくばった姿と、その背後で背中を丸め、荒い息遣いでよだれを垂らし、腰を持ち上げた怪物の姿だった。

 怪物はうめき声を上げると、勢いよく腰を沈め、尻尾の先端を鬼柳の肛門に突き刺した。

 鬼柳は声を上げなかった。

 鬼柳は土下座の姿勢から歯を食いしばって顔を上げた。血走った目と目が合った。

「おどれ、逃がすかボケ!」と鬼柳は吠えると、コンバットナイフをおのれの腹に突き立てた。

 鬼柳のやいばは直腸に潜り込んだ怪物の尻尾を貫いたに違いない。耳をつんざく悲鳴を上げた。

 怪物は逃れようと暴れたが、鬼柳は大地と一体化したかのごとく怪物を串刺しにして、びくともしなかった。

「龍司!来い!」

 鬼柳は微笑んだ。

 私は構えたコルトガバメントを左手に持ち替え、右手にもう一丁握ると、怪物の頭に両の拳を突き立て全弾撃ち尽くした。


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