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2.出会い。

一日二話投稿できたらいいな(*'▽')という希望。

応援よろしくです。








「ここがセレナさんの寝室ですよ。手狭ですけど、自由に使ってくださいね」

「分かりました。格別の心遣い、深く感謝いたします」

「(……堅いな)」



 一通りの挨拶を済ませて、セレナとアクリオが通されたのは質素な一室。だが質素とはいうものの、平均的な宿の部屋と大差ない。身元を預かってもらう側としては、かなりの厚遇だと思われた。もっとも青年の傍らに立つ少女は、冷遇されても文句は言わないだろうが。

 とにもかくにも、物事の再起を図るには最適な環境だろうと思われた。



「それでは、わたしは仕事に戻りますね。何かあったら、お声がけください」

「はい」



 そうして、クレア婦人が去ろうとした時。



「あ! クレアさん、諸々の手続きでご相談が……」

「あら、そうでしたね。では先にそちらを済ませましょうか」

「よろしくお願いします。……それじゃ、クレアは休んでいてくれ」



 アクリオが途端に何かを思い出した様子で、そう言った。

 セレナを一人にすることには不安を覚えた青年だが、しかし彼女だからこそ下手なことはしないだろうとも考える。

 それでも申し訳なさそうに告げると、やはり少女は無表情のまま答えるのだ。



「はい。問題ありません」







「……それで、アクリオさん。本当の要件は何かしら?」

「あぁ、やっぱり見透かされましたか」

「それなりの付き合いですから」



 部屋を離れて、アクリオはクレア婦人と共に客間へ。

 ソファーにどちらともなく腰かけると、穏やかな声色で婦人がそう訊ねた。従業員が用意してくれた紅茶を手に取りながら、青年は思わず苦笑する。

 とりあえず一口して、彼は気持ちを切り替えるように咳払いをした。

 そして、真剣な表情になって言う。



「改めて、本当に良かったのですか?」

「あら、良かったとは何のことでしょうか」

「とぼけなくても大丈夫です。セレナの受け入れについて、従業員のみなさんから了承は得られたのですか?」

「………………」



 本題に入ると、さすがのクレア婦人も顔色を変えた。

 そのことを認めてから、アクリオは確かめるように状況を整理する。



「事前にも連絡しましたが、彼女は帝国軍によって育てられた……兵士です。戦争が終わったとはいえ、帝国側の人間に好意的でない者も多いですから」

「つまり、わたしの部下の中にもセレナさんに悪意を向ける者がいるのでは、ということですね?」

「語弊を怖れなければ、そういうことになります」



 すると今度は婦人が紅茶を一口。

 そんな僅かな沈黙があって、しかしすぐに優しい笑顔を浮かべるのだった。



「大丈夫ですよ。ねぇ、みなさん?」

「……え」



 そしてクレア婦人が周囲を見ると、そこには同じく笑顔の従業員の姿。

 彼らはみな一様に、アクリオの不安を一蹴するような雰囲気だった。そのことに彼が思わず唖然としていると、代表して一人の女性が宣言する。



「敵国とか元兵士だとか、そんなの関係ありません! アタシたちは困っている子供たちを助けたいから、ここにいるんです!!」

「そ、そうなのか……?」

「はい! もちろんです!!」



 褐色肌の元気いっぱいの彼女は、強く拳を握って言った。

 それを見て、ついつい気圧される青年。そんな彼の姿にクレア婦人は、口元を隠して小さく笑うのだった。だが、すぐに声のトーンを落として言う。



「ただ、交換条件というわけではありませんが……」

「……交換条件?」



 ここにきて難しい表情になった相手に、アクリオは背筋を伸ばした。

 そして、クレアは申し訳なさそうにこう口にするのだ。



「少々、お薬を融通していただきたく思いまして」――と。







「………………」



 一人部屋に残ったセレナは、アクリオの『指示通り』ベッドに身を横たえていた。眠気こそなかったが、身体的疲労は否定できない。だとすれば、少しでも体力を温存しておくのが得策だ。

 もっとも、青年はそのようなことを考えてもいなかっただろうが。



「………………」

「もしもーし?」

「………………」

「もしもーし!!」

「………………」

「うぅーっ! ねぇ、起きてよお姉さん!!」



 ――そんな折である。

 幼い少女の声が、セレナの耳元で響くのだった。

 だがセレナはあくまで『任務遂行中』であり、無反応を貫く。すると、



「むむぅ…………おー! きー! てー!!」



 いよいよ堪忍袋の緒が切れたか。

 幼い少女は、彼女の身体を思い切り揺するのだった。



「……任務続行に、支障あり」

「あ、やっと起きたぁ!」



 そうなると、さすがのセレナもしっかり休めない。

 問題を取り除こうと目を開けると、そこにいたのは――。



「貴女は……?」



 ――無邪気に笑う、一人の幼い女の子だった。



「えへへ、はじめまして! ぼくはミオ! よろしくね!!」



 


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