1.帝国軍の罪。
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「キミの身元を引き受けるリーデングロス家は戦後、福祉活動に積極的な家系であり孤児院の経営もしている。お世辞にも裕福とはいえないが、きっと路頭に迷うよりはマシだ」
「………………」
馬車に乗って移動する最中、アクリオはセレナに説明する。
しかし少女は呼吸すらしていないのでは、と思うほど身動ぎ一つしなかった。まったくもって反応を示さない彼女に、アクリオは複雑な表情を浮かべる。
「(殺戮人形としての教育……いいや、これはもはや洗脳だな)」
そして、傍らのセレナを改めてよく観るのだった。
「(戦況悪化に伴い、帝国軍は幼い子供に教育を施した。特殊な魔法で身体能力を強化し、戦場へと送り込んだ……か)」
それが『殺戮人形』と呼ばれる存在であり、セレナもその一人。つまり大人の都合で今後の人生をめちゃくちゃにされた少年少女たち、ということであった。あまりにも非人道的行為だとして、内外問わずに非難の的とされ、結果的に帝国の崩壊を早めた一因でもある。
彼らの大半が戦死したとのことであったが、隣の少女のように生き残りもいた。
アクリオの仕事は戦争孤児など、身寄りのない子供の保護にある。
「(……本当に、罪深いな)」
最初こそ手に負えないだろう、と考えていた。
しかしセレナを見る限り、おそらくは命令がなければ多くの行動は起こせないことが分かってくる。端的に言えば、彼らは『大人』という存在に恐ろしいほど従順だった。
いったい、どのような教育を施せばこうなるのか。
計画を最初に立案し、セレナたちを【人形】と呼称した者の邪悪さが滲み出ていた。
「……なぁ、セレナ」
「はい」
アクリオはそう思いながらも、セレナに訊ねる。
「せっかく戦争が終わったんだ。……なにか、やりたいことはないか?」
「…………やりたいこと……?」
すると少女は彼を見て、無表情なまま小首を傾げた。
おそらく、今まで耳にしたことのない問いだったのだろう。表情こそ変化しないが、長い沈黙がそのことを如実に示していた。アクリオはあえて急かさず、彼女の答えを待つ。
返ってくる言葉は分かり切っていた。
それでも、セレナ自身が思考して言葉にするのが重要だと考えたのだ。
「申し訳ございません。分かりません」
「……そっか」
そして、予想通りの答えに青年は笑顔で応える。
「いつか、見つかると良いな」――と。
◆
「本日付で配属されましたセレナ・リード、と申します」
「いや、配属じゃないからな……?」
「あらあら、礼儀正しいお嬢さんですね」
リーデングロス家に到着し、呼び鈴を鳴らす。
すると家主であるリーデングロス婦人が姿を現すのだが、セレナは開口一番そのように名乗って背筋を伸ばして敬礼した。アクリオは思わずそう指摘したのだが、婦人は柔らかく微笑んで少女の手を取る。そして、身動ぎ一つしないセレナの頭を撫でながら言った。
「わたしは、クレア。クレア・リーデングロスよ。……よろしくね?」
おっとりとした雰囲気を漂わせながら。
「はい。よろしくお願いいたします」
「……やれやれ」
アクリオはクレアに対して真顔で答えるセレナに、肩を竦めるのだった。