プロローグ 壊れた【殺戮人形】の最後。
新作です(*'▽')
なんか、近日なろうのランキングリニューアルされるらしいですね。
ようわからんですが、がんばります。
「……あーあ、とうとう壊れちまったか」
とある戦争の折、一人の青年が大きなため息をつきながらそう漏らした。
彼の眼前にいるのは血塗れになった一人の少女。右肩の付け根から先はなく、残された左手と口を使って器用に包帯を巻いている。彼らがいるのは、帝国軍の駐屯地。喧騒の絶えないその医務施設の中、治癒術師も出払っており、普段にも増してガランとしているような錯覚を抱かされた。
青年の言葉を聞いていなかったのか、あるいは耳にしても何も感じないのか。
少女は止血を終えると、何食わぬ表情で青年に問いかけた。
「応急処置、終了しました。アレス師団長、次の指示を下さい」
左手に剣を握り締め、敵兵から受けた返り血を拭うこともなく。
少女は自分の状態など興味がないといった様子で、立ち上がり小首を傾げていた。それを聞いて青年――アレスはまた一つ、大きなため息をつく。そして冷たい眼差しを彼女に向け、このように告げた。
「悪いが、セレナはここまでだな」
「ここまで? それはつまり、本日の任務は終了ということでしょうか」
「あー……ったく、要領を得ない奴だな。ホントに」
だが、少女――セレナは理解に至らず。
アレスはとかく面倒くさそうに、短く刈り込んだ赤い髪を掻いた。そして仕方ないと、三度目のため息をついてからセレナに言う。
極めて事務的に、一切の感情を込めず。
それこそ目の前の少女を人間として、欠片ほども扱わないような声色で。
「セレナ・リード。現時点をもって貴様の任を解き、その身柄および人権の一切を帝国軍は放棄する」
お前はもう、不要だ――と。
若干十三歳の少女に向かって、言い放ったのだった。
◆
――二年後。
「それで、件の少女というのはどこに?」
「はい。こちらの屋敷にて預かっております」
「……そうか」
戦争が終わって数ヶ月が経過した。
ガリア王国の勝利、デウス帝国の敗北で幕を下ろしたそれは、いまだ人々の暮らしに大きな傷を残している。役人の案内を受ける長い黒髪の男性――アクリオ・フリューゲルは馬車を降りつつ、郊外の街並みを見ながら息をついた。
元騎士団員である彼にとって、この光景は複雑なのだろう。
慣れない正装もあってか、ひどく居心地が悪かった。
「(……とにかく、早々に案件を片付けて帰ろう)」
そう考えつつ、アクリオは目の前に建つ半壊した屋敷へと向かう。
そして玄関の前にまでやってきて、少し肩を落とした。
「(帝国が作った殺戮人形なんて、とてもじゃないが俺の手には負えないぞ。まったく……)」
だが、いつまでも文句は言っていられない。
これも仕事だと気持ちを入れ直して、彼は扉を開いた。しばらく手入れもされていないのだろう。やや埃っぽさを覚える廊下を進み、役人に促されてアクリオはリビングに足を踏み入れた。
すると少々強い風が、吹き抜けになった屋内に飛び込んでくる。
思わず顔を腕で覆ってから、しばしの間を置いて青年はゆっくりと前を見た。
「……え…………?」
そして、そこにある少女の姿に言葉を失うのだ。
骨組みばかりになった屋敷のリビングで、木漏れ日のような日差しを受けながら彼女はソファーに腰かけている。ただただ伸びただけの金の髪は、しかし濡れたように美しい。着用しているのは、ボロボロになった帝国の軍服だ。物音に気付いてこちらを見る眼差しは左右で色が異なる。赤と青の瞳に、共通点があるとすれば生気がないということか。
だが、それにもまして目を引くのは――。
「(そうか、放棄されたとは聞いていたが……)」
――欠損した右腕。
肩から先がなく、破れた軍服から覗くのは乱暴に巻かれた包帯だ。おそらくは自分で止血などをしたのだろう。アクリオは思わず眉を寄せ、唇を噛んだ。
しかし少女はその美しい顔立ちに欠片ほども感情を見せない。
それでも青年の所作が不思議なのか、ほんの少しだけ小首を傾げていた。
「あの……」
「……え?」
そして、そんな沈黙を破ったのは意外にも少女の方から。
彼女は光のない眼でアクリオを見つめて、このように訊ねるのだ。
「…………新しい、任務ですか?」――と。
鈴の音のような声。しかしあまりにも、機械的に。
それを耳にした瞬間、青年は心臓を掴まれたような錯覚に陥った。息を呑み、目の前に座る少女に得も言われぬ感情が溢れ出す。そして、先ほどまでの自身の考えを恥じ入る。
何故ならこの少女も間違いなく、あの戦火の被害者に違いなかったのだから。
そのことを理解すると、アクリオは小さく首を左右に振っていた。
「いいや、違うよ。……セレナ・リード」
青年はかつての敵兵に歩み寄り、その前でゆっくりと片膝をつく。
ふっと、少しだけ息をついてから、彼はこう告げるのだった。
「戦争は終わったんだ。だから俺は、キミを迎えにきた」――と。
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