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Noah’s enhancement  作者: コウ
2.「宝石市の闇」
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ⅩⅧ: Contact

 ノア達は無事に朝食を食べ終わり、現在はホールにいた。


 彼らが朝食を食べ終わった時、ちょうど時刻は七時になり、船が動き出していた。


 船内では多くの人がホールでゆったりとした時間を過ごしている。

 特に揺れる船内のホールに隣接しているバーでは多くの若い年代の男女が入り浸り、新たな出会いを求めて気に入った同士で歓談をしている。

 そのバーのカウンター前には丸い形状のテーブルが多く設置されていて、立ち飲み形式になっている。


 そのバーに主催の男を見つけたノア達は少し距離を取り、彼の様子を見守ることにした。


 現在バーの入口近くにアーティ(ノア)と、バーノン、マークス(マリアン)がおり、チャーリーとウィリー(ウィリアム)はホールのメインステージで歌っている歌手の声に聞き入っている人々に紛れている。


「……ふん、全然動かないじゃない……このカクテル美味しくないし!」


 アーティが不機嫌そうにそう言い放つと、バーノンが微笑みながら「では、新しいカクテルをお持ちします」とテーブルを離れようとする。


 しかし、アーティはそれも嫌だという顔でムッとしている。


 それを見たマークスが婚約者をなだめようとした時、


「すみません、こちらをどうぞ。美しいお嬢さん」と男の声が三人の前から聞こえ、テーブルの上に一杯のカクテルがいつの間にか置かれていた。


「……貴方は……?」


 そう言って、アーティが驚いてその声の主の顔を見ると、その男は先ほどまで遠くにいた観察対象であった。


(……ヤバいな……僕の顔を知らないにせよ、あっちから接触してくるとは……男だとバレたら厄介だし……)


 ノアは声の高さに気を付けながら、顔を少し下げて発言することにした。


 話しかけてきた男は微笑んで「おっと……申し訳ない。つい貴方の美しさに夢中になってしまいました……私はボールドウィンです。宝石商を生業にしています」と自己紹介をした。

「……そうなのね、私はアーティよ……カクテルをどうもありがとう、ボールドウィン卿」

「……いえ、貴方にはこのカクテルがお似合いですから!」

 

 バーノンがその言葉を聞いて、ふとそのカクテルを見る。

 それは「エンジェルキッス」という名前のカクテルである。

 カクテルにはそれぞれ花言葉と同じように、隠した想いを伝えることができる「カクテル言葉」というのが決まっている。

 「エンジェルキッス」は「あなたに見惚れて」という言葉が隠されている。

 ということは、ノアに対して「あなたに見惚れました」と言っているようなものである。

 バーノンがそれに気づいて一瞬にして殺気を出し始めた。


(この男……まさかご主人様に手を出そうとしているのか? お前のような虫けらごときが?)


 バーノンは遠回しに「ここから早く去れ」という圧をかけるように言葉を投げかけた。

「……申し訳ございません、ボールドウィン卿。お嬢様はカクテルをあまりお飲みになりませんので、こちらは私が飲ませていただきます」

 バーノンの殺気に気づいたものの、ボールドウィンは怯まずに微笑み続けている。

「……おや、アーティ様の側使いは優秀なのですね。しかし、己が立場をわきまえていないようです。少し教育が必要なのではないでしょうか?」

 アーティはそれまで顔を下げていたが、この発言を聞き逃さず、しっかりと顔を上げてボールドウィンを睨みつけた。

 勝手に部外者である男に自分の執事が侮辱されたのに加え、躾と管理ができていないと自分のことも馬鹿にされたと感じて、我を忘れて怒りに身を任せた。


「……黙りなさい!! 今知り合ったばかりの部外者の意見など必要ないわ!! 私の執事は優秀なのよ!! ふざけたことを言わないで頂戴!!

それに遠回しに私のことも馬鹿にしたわね…? 貴方の顔なんて二度と見たくないわ!!」


 アーティはしっかりとボールドウィン卿と目を合わせながら、そう言い放つとテーブルから一人離れ、甲板へ走り出した。

 バーノンはその行動に対する驚きを隠さないまま、アーティを追いかけて行った。




 それまで黙っていたマークスは二人が去ってからボールドウィンに向かって口を開く。

「……君、私の婚約者に向かってなんて失礼な事を言うんだ……」

 腕を組んで、威圧しながらそう告げるマークスに、ボールドウィン卿は神妙な顔をして向き直った。

「……そのようなつもりではなかったのですがね……貴方は彼女の婚約者なのですか?」

「あぁ、そうだ。黙って見ていれば勝手な事を……」

「それは失礼致しました。して……ご相談なのですが」

「なんだ?」

 ボールドウィンは少し興奮したように自身の髪をかき上げ、顔を赤らめる。


「はぁ……失礼を承知の上でお願いします……彼女にまた接触できるように働きかけてくれませんか……?」


 その表情にマークスは今までの体験や記憶から推測できる彼の性癖に気づき、それに気持ち悪さを覚える。その際に一瞬だけ動揺を表情に出してしまったが、すぐに真顔に戻すことに成功した。


(……コイツ正真正銘の「ドM」だわ……前にこの手の客に執着されたことがあるけど、ソイツよりヤバそうね……異常な執着心も感じるし……ノア君がコイツのスイッチを押しちゃったのね……!

おかしいわね、これまで二回も会っているのに、初めてこの男の裏を見た気がする……私もまだまだってことかしら……)


 マークスは思考を落ち着かせ、口を何とか動かした。

「……できてもしませんよ、そんなこと」

 急ぎ、こわばった表情その場から離れ、ウィリーとチャーリーに後ろから肩を叩く。

 二人はそれに気づいて、少し時間が経ってから、ホールの人混みから抜け、マークスの歩いて行った個室の方面へと戻り始めた。


(一体何があったんだ……? 奴が接触してきて、少ししてから兄さんが叫んで出て行ったのは分かったけど……)


(……当主様があれほど大声を出す所は見たことが無いな……とにかくあの人がいるから大丈夫だとは思うけど)




 そうして全員がホールからいなくなると、バーのテーブルには一人の男と一杯のカクテルのみが残された。

 男は無言でカクテルを手に取り、それを飲み干した。

「……まだ時間はある……大丈夫さ……まだ近くにいるはずだ。彼女を探さなくては……」

 そう言って、ボールドウィンはバーの壁にある時計を見た。

 現在は七時半である。

 下船まであと一時間半の船の旅で、ノア達の知らぬうちにその鬼ごっこは始まろうとしていた。



お読みいただきありがとうございました。


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