ⅩⅢ: Imitation
【朝 ロンドン某所 宝石市会場】
時間というのは早いもので、ついに月曜日になった。
現在ノアを含む四人は朝早くから屋敷を出発し、ロンドン某所に来ていた。
そこでは宝石市の会場付近ということもあり、人が多くなり賑わいを見せている。宝石市の会場になっている古い建物の入口には多くの男性客がひっきりなしに出入りしているようだ。
到着した時にバーノンが先に馬車を下りて、関係者に目玉商品の詳細を聞いたところ、狙いの『エメラルド』は十時から店の奥で展示され始め、十一時からオークションが順番に始まるとのことだった。
それを踏まえて、四人は時間まで馬車にて待つことにした。
しかし、時間が経つにつれ、会場前は簡単には入れないほどの人が集まってしまっていた。それを見たノアは全員で入るのではなく、エマとチャーリーのみが入るほうがいいと判断する。いや、ただ人混みが嫌なだけかもしれないが。
そうして馬車にいるノア達と別れて、二人が必死に会場に入ると、やはり中は予想通りの混み具合で、なかなか進まない。
やっと店の奥にたどり着いた二人は、時間通りに展示されていた今回の目玉になっているいくつかの宝石の前へ進む。
そこにまず狙いの『エメラルド』があることをしっかりと確認した二人は無事にモルガン侯爵の使いとしての任務をこなし、店の裏で『エメラルド』を小切手と交換し手に入れることができた。ここまでかなりの時間がかかったが、帰りは人混みを避けられたので、素早く馬車まで行くことができた。
急ぎノア達の馬車に乗り込むと、チャーリーが御者に適当に走らせるよう告げる。
「無事手に入れました」
「見せてくれ」
チャーリーが会場から見えないようにカバンに入れて持ってきた頑丈な木の箱を取り出し、ノアに見えるように箱を開ける。
中には大きな宝石が入っていた。
ノアはそれを手に取って数秒程目視で観察する。
それを見たバーノンがジャケットの内ポケットからルーペを取り出し、ノアに渡した。ノアはノールックで受け取り、本格的にそれを鑑定し始める。
しばらくしてから顔をゆっくりと上げた。
「……ふむ、これは、偽物だ……」
「……え……偽物ですか? そんな……じゃあリーク情報が間違っていたということですか?」
チャーリーが困惑の色を見せる。
「いや……今まで間違った情報だったことはない。情報屋には大事な信用問題に関わるからな。必ず本物の宝石が出品される時しか情報は送ってこない奴らだ」
「では、なぜ偽物が……」
「情報通りに本物は存在している。がしかし、それをすり替えた奴がいるんだろう」
「そんな! あんなに人がいたのに……そもそもすり替えなんて難しいのではないですか?」
「そうですねぇ、私もそう思います……でも、もし展示前に変わっていたら……? 凄腕の鑑定士以外の一般人にはそう見分けられませんわ」
エマがそう言ってノアを見ると、それに気づいたノアがドヤ顔で微笑む。
「あぁ、エマの言う通りだ。僕レベルの鑑定士なんてあの中にはそういないだろう! 今のところはそれが一番本物とすり替えたタイミングとしては可能性が高いな」
「ご主人様……皆さん、鑑定士はもちろん自称ですよ!」
「うるさいな、僕は宝石商と、社交場に、お茶会と、色々と当主としての仕事が忙しいんだよ……本当は宝石鑑定もやりたいんだけどな……」
ノアがふくれっ面でブツブツと呟く。
「まぁ……話が逸れましたが、宝石が誰によってすり替えられたのかを調べなくてはいけませんね……何となく嫌な予感がしますが……」
バーノンが「うーん……」とぼやきながら話し出したのを見てチャーリーとノアは「「逸れたのはお前が元凶だよ!!」」と息ピッタリにツッコんだ。
「揃ってらっしゃるわ……!!」
エマが二人のツッコミに感心と驚愕の表情をすると、ノアがため息を漏らして話を続ける。
「まぁ、そうだな、とりあえずこの偽物は一旦持ち帰る。研究材料になるし」
チャーリーがそれを聞いて前に身を乗り出した。
彼の様子はまるでムムムという効果音が付きそうなほど真剣である。チャーリーは偽物をじっくりと観察しながらノアに疑問を投げかけた。
「兄さん、これが偽物って言われても、俺には一体何でできているのか分かりません……」
「これはガラスだ。これは特に精巧に作られているからまぁわからないのが普通だよ」
「そうなんですね……もっと勉強します……ムム……」
チャーリーはノアから偽物を受け取り、なんと自分で「ムム……」と言い、うなりながら観察を続けている。
その勤勉な様子を微笑みながら見た後、ノアはふと窓の外に視線を移し、次の行き先を決めた。
「バーノン、御者に行き先の変更を伝えてくれ」
「はい……かしこまりました。しかし、どちらに?」
「あの、煙草くさい男のとこだ」
「imitation」=「偽物」
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