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最近、幼馴染がぐいぐいくる。(仮)  作者: 「」
第一話 ユキドケ
8/31

幼馴染はどうしたいのか

 再びバスは走り出した。

 窓の景色はずっと壁が続いている。


「もう、円香。車酔いしやすいんなら早くいいなよ」

「うー、ごめんね。心配掛けたくなくて」

「結果として心配になったんだから、一緒よ一緒」


 俺の隣に席替えした円香が友達に怒られている。

 窓から石井、俺、円香、鬼怒川さんという編成に。

 円香が鬼怒川さんの肩を枕にしつつ、怒られているからそのまま縮こまっている。


「にしても藍浦は、よく円香の変化に気づいたわね」

「あー……」


 鬼怒川さんに報告して円香の面倒を見るようにと伝えたのは俺だった。

 答えない訳にはいかない。


「立花さんにとってはいい迷惑かもしれないんだけれど、妹にすっごい似てるんだよ。乗り物酔いしやすい所とか」

「やっぱり、藍浦って……」


 バレてないはずだけれど。

 でも円香の最近の態度を見ると、石井のように鋭い人間なら違和感を感じるのかもしれない。

 鬼怒川さんの口をじっと見つめてしまう。


「シスコンなんじゃね」

「あ、あぁ……」

「認めたっ」

「違うって、鬼怒川さんが妙に真剣な顔だったから、何を言うのかって……。石井も何かいってやれよ」


 バスの中で特に誰かと話そうともせず、ニコニコと人の話しを聞くだけの石井に話を振った。


「さぁ、僕は藍浦と高校で知り合ったばかりだよ。君の妹との関係も知らないし、君が妹の話しをしたのも初めて聞いたよ」

「俺の味方はいないってことか」

「……」


 円香越しに鬼怒川さんの視線が突き刺さる。

 黙っているからちょっと怖い。

 なんだろうと首を傾げて見せる。

 髪の色でそちらに視線が行きがちだが、顔をよく見ると円香ほどじゃないにしても、整っていることに気づいた。

 考えてみれば同じトップグループだから当たり前。


「よく見るとうちの班の男子って結構粒ぞろい?」

「男の俺が見ても石井は結構格好いいよな。気味が悪いけど」


 顔は良いのに中々に陰が薄い。

 昼休みになるとこつ然と姿も消える。


「中々に酷いね。せめてミステリアスっていってくれたら良かったのに」

「藍浦は見た目っていうか中身? 色々と気が利くって感じだし。朝の荷物なんか自然にって感じで、そこそこ好感度上がったよ」


 そんなことで好感度上がるとかちょろいのかな。

 俺もまた鬼怒川さんがこんな話しやすい人だとは知らなくていい人なのかもと思っている。


「だよねー。藍浦くん面倒見よすぎてびっくりしちゃった」

「初対面は陰キャ臭くて、オタクっぽくてハズレだと思ったけど、思わぬ収穫かも」


 品評会が始まって居心地が悪い。

 先程までグロッキーになっていた円香がイキイキしだす。

 また酔うぞ、馬鹿。

 枕替わりにしていた肩から頭を上げ、こちらに近づくて俺の顔に向けて手を伸ばしてきた。

 すっと目隠しされるように手のひらを合わされ、するっとそのまま上へと手のひらが移動した。


「藍浦くんの瞳、綺麗だと思うよ。目つき悪いけど……」


 くすりと微笑み、言葉を続ける。

 元気な口調が静かで一言一言が少し重さが乗り、少し大人びたお姉さんのような声色だった。


「前髪切ったほうがいいんじゃないかな? ファッションセンスもいいみたいだし、もっと自分に自信を持ってもいいと思うよ」


 最近なんだか幼馴染の様子がおかしい。

 あと、しれっと自画自賛したことを俺は見逃さなかった。



 ※



 乗り込んだ順番と真逆に俺らは最後にバスを降りることに。

 ぐっと伸びをして立ち上がり、そのまま降車。

 荷物を取り出し、石井、鬼怒川さん、円香の順番で渡していく。バスの中であんなことを言われてしまったので、渡す時に少しだけ意識してしまった。

 それもお見通しなのか、班の全員がうっすらと笑みを浮かべる。

 ちくしょう。


 太陽の位置が頭上ぴったり、昼食と自由時間が始まる。

 調理係が弁当とお茶を受け取り、班の全員に手渡す。

 後はそのまま敷地内なら好きな場所で食べていいらしい。


 設置されている屋根付きのベンチを見つけ寄ってみると、いくつの班もそこで座って昼食を摂っており、俺らもそこに加わることにした。

 可も不可もない弁当。

 景色と山の空気が美味しいだけに少し味気ない。


 美味しいと喜ぶ、石井と鬼怒川さん。

 俺と円香は揃って首をひねる。


「どしたん円香? 食べれない? まだ体調悪いとか?」

「ううん。これなら昼夜とカレーでもよかったなぁーって」

「あぁ、円香がいつも食べてるお弁当、分けてもらったことあるからわかるけど美味しいものね。確かにこれだと物足りないかぁー。でも作るの調理係がメインであたし達が手伝うだけだよ? あんまり変わんないんじゃない」

「ほ、ほらカレーは誰も作っても美味しいしっ」


 円香がこちらを見て、少し慌てたように取り繕う。

 別に変なところはなかったと思うが。


 案に俺の作ったご飯が食べたいだけのようで。

 食い意地が張っていると思わなくもないが、こう言われて嬉しくないわけがなかった。

 ちょっとだけ頑張ろっかな。


「僕はカレー作りより、この後のテントを建てることのほうが苦労しそうだけどね」

「「確かに」」


 やったことはないが、なんとかなるだろうと俺だけは楽観的だった。

 一時期ソロキャンとか流行ってたし、昔に比べて簡略化されてると思うんだよね。


 昼食後、班の皆でどうしようかと話し合いになった。遊具の貸出もあるが、円香のこともありテントの準備まで、昼食を摂ったベンチでまったり過ごすことに。

 なんだかんだあんなことを言いながらも、円香は綺麗に完食。

 弁当の箱、お茶のペットボトルとゴミが出たので片付ける。

 運んできた時に使ったビニール袋で包み、指示されている場所へと持っていく。

 ベンチから離れたところで、芝生を鳴らす足音が近づいていくる。


「いーちゃん手伝うよ」

「ご覧の通り一人で持てる量だぞ」

「……ただ、いーちゃんと話したかっただけだよ」

「謝らなくてもいいよ」

「あは。流石、幼馴染」


 車酔いのことだろうと、彼女の顔を見てすぐにわかった。

 何年幼馴染をしていると思ってる。


「お前、今までどうしてたんだ? 中学の時修学旅行とかあっただろ」

「前日にいーちゃんと徹夜してたじゃん。移動中爆睡してて酔う暇すらなかったし、帰りはちょっと酔ったぐらい。今回はちょっと緊張してたからかな?」

「ふ~ん」

「ほらいーちゃんと同じクラスになって初めての旅行だし」

「嘘ついてるのバレバレだぞ」

「うっ。幼馴染って、やりづらっ……」


 円香は転がっていた石を蹴り上げる。

 勢いよく跳ねていた石も途中で力をなくして止まる。

 歩いて近づく度に円香は足で石を進めている。


「でもいーちゃん、まだ本当のことは教えないよ」

「そうか」

「本当の家族だって秘密にしてることだってあるでしょ?」

「まぁーな」

「いーちゃんのパソコンにあるエッチな動画とか漫画とかね」

「……おい」


 ぴゅーっと円香は走り出し、石井と鬼怒川さんのところまで走り出した。


「あのやろっ」


 一度こちらを振り返り、べーっと舌を出して見せる円香。

 俺が追えないことを知っての作戦。

 あとで憶えてろ。

 これを言うのも何回目だよ。


 自由時間は終わり、本日泊まるテントを建てることになった。

 複数の木が生い茂る場所に僕らはやってきた。

 班でテントを受け取りに行くが、当たり前だが男子と女子で離れた場所で建てる。


 俺と鬼怒川さん、円香と石井で別れる。

 力仕事もいるから男子が必要であり、組み立て自体は男女混合でやることを学校側で決められていた。

 俺に怒られることを察知した円香は石井に声を掛けて一目散に逃げて、今は無言で女子側のテントを黙々と組み立てている。

 あいつら身長高いからやりやすそー……。

 鬼怒川さんと俺の身長はあまり変わらない。

 ギリ俺が勝ってるぐらいだろうか。


 テントの設営についての説明が最初にあり、そのあと班ごとに決められた場所に移動する。

 設営中のテントとテントの間を、事故がないようにと教師たちが見て回る。


 ……舐めていた。

 本当に力仕事で、いつの時代のテントなのか、器具一つ一つが重いのなんのって。

 しかも複雑で面倒くさいし。

 幸い木陰で涼しくはあるが、作業をしていると汗が吹き出てくる。


「ふんぬっ……」


 重い鉄の塊のようなポール。

 それを組みわせて骨組みにする。


「鬼怒川さん、ちょっとここ支えてくれる?」

「あいよー」


 鬼怒川さんの手を借りながらも、なんとか組み立てて、天井や壁となる布を通す。

 うん、見た目は完全にテント。

 最後にペグを地面に打ち付ける。

 少し押したぐらいでは崩れないのを確認して、教師を呼ぶだけなのだが。

 教師はまだ遠くにいる。


「藍浦さんきゅ」

「あぁ」


 ガチで疲れた。

 もう寝たい……。

 傍に置いていたスポーツドリンクのキャップを明け、喉を潤す。

 あぁ……、染み込むぅ。


「藍浦ってさ、もしかして円香と付き合ってる?」

「ぶっ」

「うわっ。きちゃない」

「ごめん。鬼怒川さんが変なこと言うから……。付き合ってる訳ないよ」

「だよねー。あたしもそう思う」


 じゃあ、なんで聞いた。

 けれど疑いの目は晴れず、じーっと見つめられる。


「なに?」

「でもどこかで見たことある顔なんだよねぇ……。それに藍浦といるときの円香はなんだか楽しそうだし」

「鬼怒川さんといる時も楽しそうだけど」

「んー、そういうことじゃなくて。なんて言うんだろ? 円香ってあー見えてガード固いし、藍浦みたいに話しかけたりしないんだよねぇ。すっごい違和感というか」


 どうやら俺は円香を見ているようで見てなかったらしい。

 予想以上に彼女の仮面は分厚く、自身の周りにはバリケードが張られていたようだ。

 一年間。

 学校のいる円香の姿を見てなかった弊害だろうか。


「すっごいモヤモヤするーっ」


 これ以上探りを入れられても困るし、ある程度解答を用意してあげる。

 うちの班何気に鋭い奴が多い。

 俺らの偽装が甘いのかもしれないが。

 ……多分、後者。

 距離を取れば話さなくても済む、でも近いとどうしても避けられないこともある。

 それに俺の意図を汲んだと言っていた円香。

 緩やかに詰めてきている気もしないでもない。


「あはは……。俺、宗像中学出身なんだよ」

「え!? あたしら同中じゃん」

「そうなんだ」


 知っているが誤魔化した。

 会ったことはあるのかもしれないが、俺は知らないし、鬼怒川さんと同じ中学なのは円香からの情報。

 これぐらいなら石井にも話したし大丈夫だろう。

 俺らって結構わかりやすいんだろうか。


「道理で見たことあるって思ったんだ。廊下とかですれ違ったのかも」

「かもね。あと立花さんとは二年の一学期は同じクラスで、委員も同じだったこともあるから。友達だったんだよ」


 これも嘘ではない。

 俺がやるからと、彼女も同じ委員に所属した。

 今思うとこれも荒れた原因の一つだったのかもしれない。


「あたし中三で転校してきたから、円香と藍浦の関係知らなかったんだ」

「謎は解けた?」

「いんや、寧ろ余計に気になったわ。それだけにしては仲良すぎない?」

「鬼怒川さんも友達の事なのに、めちゃめちゃ聞いてくるね……」

「円香はどう思ってるか知らないけど、親友だと思ってるからね。変な男に引っかからないか監視してるだけ」

「大丈夫だって立花さんに対して気がないから。その委員の時に似たような趣味つーか、読書が趣味でお互い貸し借りするぐらいには仲良かったから」

「なるー。確かに円香、よく本読んでるわ」


 これで追及の手は振り切っただろうか。


「何々、何の話?」


 本当に今日はよくちょっかい掛けてくるな。


「円香と藍浦って昔は仲良かったんだって聞いたよー。なんで教えてくれなかったの?」

「ん、んー?」


 円香が俺を見下ろす。

 どこまで話したのかと聞いているようだ。


「俺と立花さん、同じクラスで同じ委員だったって」

「あ、あー。うん、そうだよ。その時から仲良かったんだー。またこうやって話せて嬉しいな」

「……うん」

「昔みたいにまたこうやって話せるともっと嬉しいかも」

「たまにならね」

「約束だよ」

「ういっす」


 なんとか話を切り上げることに成功。

 円香は鬼怒川さんを連れ立って女子テントへと帰っていった。

 入れ違うようにして石井がこちらに来る。

 にやにやとした表情を携えて。


「なんだよ?」

「別に僕は何も言ってないよ」



 ※



 時間が経つと今度はカレー作り。

 材料は準備されており、洗って切って、焼いて煮込めばおしまいである。

 米は既に炊いてあるらしい。


「じゃあ立花さんは材料洗ってきて」

「りょっす」


 びしっと敬礼して食材を抱え歩いていく。


「あたしたちは何をすればいい?」

「ぶっちゃけ俺一人で出来るからなぁ……」


 醤油やらマヨネーズやらずらーっと並んでいる調味料。

 カレーにマヨネーズって合うのかな? まぁ、あれはサラダ用か。

 施設で用意されていたのものだろう。

 スパイスもいくつか調味料と一緒に並んでいて、ラベルに施設の名前がプリントされていた。何に使うのか全くわからない物まで置いてある。


「石井は野菜の皮むき頼むよ」

「わかった」

「鬼怒川さんはサラダの盛り付けでも頼もうかな」

「おっけ任せて」


 指示を出して、円香が戻ってくるまで基本みんな待機。

 俺は貰った牛肉に下味をつけて寝かせておく。


「みんな洗ってきたよ」


 と、タイミング良く円香が戻ってくる。

 石井が謎に器用で野菜がすぐこちらにやってくる。

 正直、赤ワインとかローリエとか工夫するための材料はあまりなく、市販のルウに書いてあるレシピ通りに作るしかないのである。


 下味を絡めた牛肉を炒め、たまねぎを追加。

 たまねぎの色が変わりしんなりしてきたら、煮込み鍋に投入。

 今度はじゃがいもと人参も炒める。

 狭い場所に生徒が複数にいて動きづら……。


「私、もうやることない?」

「んー、後でアク取り任せようかと思ってたけど」

「がってん」


 普段、調理場に来ないからか円香は楽しそうにしている。

 笑顔四割り増し。

 軽く炒めたじゃがいもと人参を追加し、醤油を大さじ二杯ほどこっそり入れておく。

 うちのカレーはこう作っているから、もしかしたら二人には合わないかもしれないが。


「立花さん、じゃがいもがやわらかくなったら教えて」

「うん? うん」


 不安になってきた。

 十分ぐらい経ったら一度様子見に戻ってこよう。


 その間に米を貰いに行く。

 ついでバターとターメリックをこっそりと。

 もっと凝ったものもここにあるスパイスたちなら出来るかもしれないが、俺はそこまでレパートリーが多いわけじゃない。


 調理場の生徒も煮込む作業に入っており、担当が一人ずついるのみで、今は洗い場のほうが人数が多い。

 円香がぼーっと眺めている鍋のほうもちょうど良さそうなので、ルウを入れて後は十分ぐらい更に煮込むだけ。アク抜きも普段から俺の作業を見ているし、手伝ってくれたりもしているからしっかりやれていた。

 最後にたまにかき混ぜるように指示を出しておいた。


 パクってきたものからわかるようにターメリックライスを作ってみる。

 炊く時に追加するのが楽だが、後から出来ないわけではない。

 バターを溶かしてターメリックを加え、あとは中火で米と炒めるだけ。

 塩コショウで味を整えて、即席ターメリックライス。


「え、米黄色っ!?」


 サラダ作りが終わった鬼怒川さんがフライパンの中を覗き込み、驚きを見せる。


「きぬちゃん、これはサフランライスだよ」

「ターメリックライスです」

「……」


 睨まれても違うものは違う。

 というか、お前鍋は?

 円香の興味が別のところに移ってしまったので、代わりに鍋の元へ。


「いーちゃん」

「戻ってくるんかお前」


 俺が来た意味ねぇーじゃん。


「もう出来た?」

「あぁ。ってかちゃんと鍋見てろ」

「あははぁー……」


 誤魔化しやがって。


「人参は少なめにして、共有で食べれる形で野菜スティックにもしたから」


 にんじんの味は減るだろう。

 妙に味覚が鋭いから、少しでも混じると気づいてしまう。


「ナイスっ」

「はいはい」

「いーちゃん愛してるぜ」

「早く準備してくれろ」


 なんともまぁ懐かしいやり取り。

 実写映画もアニメも面白かったよなぁ、あの卓球漫画。

 どっちもサブスクでみたけど。


「誰がオババだ」


 まぁ知ってるよな。

 一緒に見たんだから。

危うく投稿忘れそうでした。

見る度に評価やいいね増えてました。ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] もうそろそろ、隠しきれない感じ。 一つ言質を取られてしまいましたねえ。
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