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最近、幼馴染がぐいぐいくる。(仮)  作者: 「」
第一話 ユキドケ
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幼馴染とのお出かけ

 朗らかな春の日差し。

 土曜日の昼下がり。

 人でそこそこ賑わうショッピングモールに訪れていた。

 四月の中旬になったばかりという季節柄なのに、売り場は夏の物が少しずつ置いてあった。

 あと数ヶ月もすればキャンプグッズに水着の特設コーナーなんかが出来ているだろう。


 彼女と並んで歩きながら、歩調を合わせる。

 どちらに合わせているのかと言うと、円香が合わせてくれていた。


 円香の脚は長いからなぁー。

 決して身長差ではないと思いたい。

 隣に並んで立つとわかる。

 こいつまた身長伸びてやがる。


 俺の身長は自称、155センチ。

 円香の身長は158センチ。

 うん、今日はブーツ。

 底が厚いから円香の身長が伸びたわけじゃない。

 そうなのだ。


 しかし。

 ……彼女と買い物に出かけたのは間違いだったと悟る。

 すれ違いざまに見られるし、用を足しに離れれば見知らぬ男性に声を掛けられている場面に出くわす。それだけの注目度が自分の予想を越えて存在していた。

 それも踏まえクラスメイトに見つかる可能性もすっかり忘れていた。


「何が必要なんだっけ?」

「ほら」


 もう来てしまったのだからと気持ちを切り替え、質問してきた円香にスマホを渡して見せる。

 プリントを写真で残してメモっている。


「準備いいよね。お母さんみたい」

「買い忘れてまた来るのも面倒だからな」

「まぁいーちゃんのお陰で私は助かってるけど」

「なら余計な事を付け加えて言うな」


 二人でまずは雑貨屋に向かう。

 俺は別に備え付きのシャンプーでも良いのだが、円香はそうも行かず旅行用のシャンプーボトルを買いに来た。

 その他のトラベルグッズもここで買う予定だ。


 円香と二人で買い物に出かけるのは久しぶりで、すれ違う人たちが彼女に釘付けになることも久しぶり見た。

 そんな彼女を見てみる。

 お出かけだからちゃんとした私服。

 デニムのショートパンツに白いTシャツというシンプルな出で立ち。紺色のシースルーのアウターは、少しでも涼しくなろうと思ったのか脱いで今は腰に巻かれている。


「どうしたの?」

「お前、本当に外面はいいよな」

「なんでいきなりの悪口っ!?」


 カラフルな看板の目立つ雑貨店に入る。

 目的の物をすぐに見つけ、その中でもデザインはどれがいいか円香に聞きながら決める。


「いーちゃんも同じ奴買わないの?」

「荷物増えるし、備え付きでいいよ」

「荷物が増えるの嫌なら、私がお風呂入った後に貸そうか? 私たちいつも同じシャンプー使ってるし、私のになれてると備え付きの奴使うとごわごわになるよ」


 何も考えてないようで、何も考えていない。


「……」

「そんな馬鹿にしたような目で見なくてもいいじゃん」

「馬鹿だなお前」

「そんな笑顔で罵倒しないでっ。わかってるよ、わかってまーす。そんなやり取りしたら、関係性を疑われるって言いたいんでしょ」

「よくわかってるじゃないか」

「ちぇー」


 隣の棚にあるシャンプーボトルと似たような、更に小型のものを手にする。


「これもいるだろ?」

「あ、うん。そうだね、ありがとう」


 風呂上がりに化粧水などを塗りたくっている幼馴染の姿を思い出す。

 いくら粗雑な彼女でも平日だけはケアはしっかりしている。

 円香は迷わず受け取り、買い物かごの中に追加。


「いーちゃん、人のことよく見てるよね」

「そうか?」


 円香のだらしない姿はたしかにずっと見ている。

 女の子らしい所も、まぁなくはない。


「ちゃんとすればモテそうなのに」

「俺がモテたら、お前の面倒見られないけどな」

「……、いーちゃん暫く恋愛禁止ね」

「なんでだよ」


 虫除けスプレー、あとはモバイルバッテリーなんか必要だろうと、徐々に増えて重くなっていく荷物を見て。


「ほら」


 手のひらを彼女に向ける。

 手渡されたものは彼女の手のひら。


「……」

「あれ? 違う?」

「かご重いだろうから預かるって言いたかったんだが」

「あははー……」


 円香は照れたようにハニカミ、恥ずかしさを誤魔化すように早口で言い訳を重ねる。


「小学校までずっと手繋いでたじゃん。どんくさかった私がコケないようにって、その時もいつも『ほら』って言ってたからそうだと思ったのっ」

「何年前の話だよ」

「言うて四年前ぐらいだよ」


 小学六年まで普通に仲良しこよし幼馴染。

 今でも仲が良いという自負があるが、手を繋ぐ発想は今の俺にはない。

 四年生ぐらいまではギリ同じぐらいの身長だったのに、六年生にもなる頃には円香のほうが身長が高くなって見下されるようになり、手を繋ぐのが嫌だったという記憶が蘇る。

 今は大分、追いついたと思う。


「良いから荷物持つよ」

「ありがと」

「あいよ」

「でもやっぱりいーちゃん恋愛禁止。私が認める人じゃないと駄目だからね」


 意味わかんねぇー。

 円香と違って人並みに恋愛は興味ある。

 あるが、自分から動いてまでしようとは思わない程度。

 だから現状維持。


 買い物かごの中身とメモったものを照らし合わせ、あとは自宅にある物で十分だろう。

 円香に尻を向けと、彼女は俺の尻ポケットから長いことを使ってきて少しボロボロになった財布を抜き取る。

 そのまま彼女に会計を任せて、店員さんが違うカゴに移した物を手にとって移動。

 袋に詰める作業を開始。

 会計を終えた円香が戻ってくると、財布のあったポケットにスムーズに戻してくれた。


「いーちゃん良いこと思いついた」


 と、お店を出たところでの円香。

 碌なこと考えてなさそうだなーという予感はある。

 長い付き合いの勘によるもの。


「一応、聞いてやる」

「私といーちゃんが付き合ったフリをすればいいんだよ」

「はい、却下。お前、ラノベ読んで感化されただけだろ」

「まぁー、はい。そうです。でも割りと良いと思うんだよね、楽しそうだし。私も男子たちに対して予防線張れるし、学校でいーちゃんと普通に話せるようになるし」


 どのラノベを読んだかわからないが、彼女が今話したメリットもそのシナリオになぞらえている物だと思う。


「俺のメリットは?」

「可愛い幼馴染の彼女(嘘)と付き合える」


 デメリットの方がデカいじゃねーか。

 結局、現実はラノベのようにはいかない。


「はいはい」


 手で追い払うように見せて、会話を打ち切った。

 つもりだったが、円香は不機嫌そうになる。


「私もいーちゃんと恋人は願い下げだけどねっ」

「お前から言い出したことだろうが」

「いーちゃんってお兄ちゃんっていうよりお母さんって感じだし」

「そうだよな。俺も円香のこと手のかかる妹として見てる。あとお母さんは余計」


 今晩の夕食の買い出しもしようかと思ったが、思ったよりも時間が掛かった。

 時間の確認に使ったスマートフォンを仕舞い、円香に提案することにした。


「今日は外食するか」

「たまにはいーちゃんも休まないとね」


 学生の味方でもあるファミリーレストラン。

 値段は安く、ドリンクバーで何時間も粘れる。

 テスト前の勉強に使える場所。

 自宅だと円香も俺も欲に負けてゲームや漫画なんか手を出してしまう。


「このファミレスに来るのも久しぶりだね」

「そうだっけ?」


 向かい合うように座り、メニューを広げる。

 さて、何にしようかなと考えている間にも、円香はずっと話しかけてくる。


「中間とか期末とかテストの時は来てたけど、三年生になってからは私塾に通ってたから」

「そうだったな。まさか、本当に桜台中央高校を受けるとは思わなかったし」

「結構頑張ったからね」

「えらいえらい」

「えへへ」

「でも、なんで中央にしたんだ?」

「んー、制服が可愛いとか色々あるけれど、やっぱりいーちゃんが受けるからかな」

「面倒みてもらいたくてか」

「まぁーねん」


 校内で面倒を見ることはあまりないが、スケジュールをお互いに把握出来るから、やりやすくはある。今日みたいに買い出しにだって連れていける。


「でも円香が受けると知ったら中学の友達連中も受けるとか言わなかったのか」

「あー、言われた言われた」

「だろうな」


 その光景は簡単に思い浮かぶ。


「七割は落ちたみたいだけど」

「結構ごっそりと振るいに落とされたな」

「私としては嬉しいけどね」

「そうなのか? お前、友達を大事にしている印象あったが」

「新しい環境に身を起きたかったし……。友達と遊ぶのは楽しい。でも――」


 円香がメニューから視線を外してこちらを見る。

 なんだろうと、疑問に思いながら首をひねると。


「やっぱり、言わない」


 憂いの表情を残して、メニューへ視線が戻った。

 俺も特に気にすることはなく、選ぶことに専念。


「決まったか?」

「うん、これ」


 メニューの写真を指を合わせる。

 わさび醤油仕立ての和風ソースのステーキセット。

 ちょっとだけ渋いな。

 ステーキを選ぶのおこちゃまって感じで彼女らしいが。

 テーブルに備わってるベルを鳴らし、店員さんを呼び円香の物と自分の物とドリンクバーを注文する。

 一人で席に立ちコップを二つ手に、メロンソーダとコーラを注いで戻る。


「ほい」

「ん」


 スマホを弄っている円香の前にメロンソーダを置いてから席に座る。

 暫くしてステーキセットとからあげ定食が運び込まれる。

 メニューについてきたサラダの中からプチトマトを円香の皿に乗せると、お返しとばかりに人参がこちらに皿に盛られる。そのままの箸でからあげを一つ持っていかれる。

 少し待つと円香がステーキを一口大に切り分け、俺に寄越してくれる。


「「いただきます」」



 ※



「ふぅ。食った食った」


 そんなことを言うのは正面に座る円香だ。

 だらしなくぐってりと身体をソファにあずけて、お腹をぽんぽん叩いている。連動して胸まで大きく揺れてしまっている。

 お前、自分が注目を集める人間だと忘れてないか?


「あの、お客様。そのような態度を取られると他のお客様に迷惑なので」

「え? あ、はい。すみません」


 腑に落ちない顔で円香は謝罪して、しっかりと座り直した。

 普通言われるわけないからな。

 円香の気持ちはわかるぞ。

 店員さんの姿が見えなくなると。


「私、何か変なことした?」


 ストローを加えて、氷が少し溶けて色の薄まったメロンソーダをぶくぶくと。


「いや、ただぐーたらなだけだな」

「だよね」


 自覚あるんか。

 膨らんだお腹のように弾けてしまえ。


「円香は目立つからな。ただ店員の目を引いちゃっただけだろ」

「そういうことなら仕方ないかぁー」


 適当に言った言葉に納得し、表情が穏やかな物に戻る。

 人の言葉を素直に信じるのは彼女の美徳ではあるが心配にもなる。


「そろそろ帰るか」

「うん」


 今度は俺が支払いを済ませ、外でぐっと伸びをしている円香に声を掛ける。

 Tシャツの裾が引き上がり、お腹いっぱいになって少し膨らんだお腹、白い肌に形の良いへそが見えた。

 外に出ると茜色の空と紺色の空が制空権を奪い合っている。

 紺色のほうが圧倒的に強く、そろそろ完全に色を塗りつぶそうとしていた。


「家に帰ったら久しぶりにイカのゲームでもやるか」

「いーちゃん、空見て思いついたでしょ」

「まぁな」

「あはは。いいよ、私うまくなったから見てて」

「コソ練してたのか」

「当たり前じゃん。いーちゃんばっかりに良いところ持っていかれてるし」


 案外努力家なんだよな。

 ただ自分の興味のないものは続かない。


「いーちゃん、早く帰ろっ」


 軽い足取りで俺を追い抜き、すれ違いざまに手を取られる。

 そのまま引きずられるように家路を急いだ。

三日に一回ぐらいのペースで投稿出来ればいいなと思っています。


たくさんのブックマークと評価、いいね。ありがとうございます。

励みになります。

マイペースで執筆していきますので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] この年でのこのたっばは、かなり小さいんですね。それはやはりコンプレックスになりますか。 食事のシェアもスムーズで、お金の扱いも任せられる。やっぱり「まだ」距離感が家族なんですよねえ。この上な…
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