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最近、幼馴染がぐいぐいくる。(仮)  作者: 「」
第三話 エンライ
27/31

幼馴染たちの暗躍

 大丈夫。

 彼女はそう言ったけど、実際はそんなことはなかった。

 円香本人に対してもっと苛烈な嫌がらせが起きてしまった訳でもない。

 もっと彼女のメンタルに打撃を与える事件が発生した。


 その日は掃除当番になり放課後一人でまとめたゴミを捨てに校舎裏にやってきた。

 誰か一人ぐらい手伝ってくれてもと思うものの、同じ掃除当番の連中は円香の立場が危うくなり、親しいと思われる俺に対しても距離を取り始めていた。

 体育祭以降少しは仲良くなれたかもしれないクラスメイトの見事な掌返しである。


 ゴミを運び終えて、凝り固まった筋肉を解していると『あまり調子にのるなよ』『お前も酷い目に合いたいのか』そんな物騒な台詞が聞こえてきた。

 まさかと思いこっそりと近づくと、四人の女子生徒の姿がある。

 リボンの色から同学年だとわかる。

 三人に囲まれている女子生徒の髪色が大人しそうな黒でほっとするが、見慣れた人物――前田さんだった。


 颯爽と駆けつけて盾にでもなれば格好いいのだろうが、静かに終わるのを待つ。


 十分、二十分と過ぎる。

 ようやく前田さんが一人になったところで姿を見せた。

 卑怯? そうだろうな。

 自分が一番わかっている。


「大丈夫?」

「え」


 声を掛けると一瞬身体を震わせて恐怖をみせたが、相手が俺だとわかるとホッとしたような表情に変わり、少し乱れた制服を直し始めた。

 シャツのボタンが一つ外れて、襟元がよれよれになっている。


「あはは~、最初から見てた?」

「いんや途中からだったけど」

「そっかー。変なところ見られちゃったね」

「円香絡みか?」

「えっと」


 言葉に詰まって視線が泳ぐ。

 嘘がつけないことは良いことだが、結果として悪いことを示していた。


「まさか友達までに及ぶとはなぁ……」

「いつかこうなるんじゃないかってうちは思ってたけどね」

「わかってたのか?」

「嫌な予感ってよく当たるじゃん」


 確かに。

 たまに良い予感もあるが、ソシャゲのガチャでこれ当たるわって思うことぐらい。

 レイドをクリアして自分が求める武器とかは一切その感が発生しないのは悲しいが。


「で? さっきの女子たちは誰だったんだ」

 どこかで見たような気がするが。


「一応、同じクラスの女子達だよ……。ほら、教室の後ろで固まっているグループの」


 あぁ、二軍の……。

 どうりで。


 クラスの半分の顔も覚えてないから、関わりのない奴なんて知っている筈がない。

 シュミレーションゲームの背景にいる顔のパーツがないモブと同じ認識だ。

 向こうからしてもこちらも同じ扱いだろうが。


「前田さんはどうするんだ? 別に円香にチクったりしないから」

「放っといたらそのうち飽きて終わるんじゃないかなーって思ってたんだけれど、そうもいかないよね?」

「まぁ、な」


 人の感情が問題に絡む面倒。


「円香ちゃんから距離置くのが一番賢いんだろうけど、それはそれで友達としてどうなんかなーって思う」


 俺が中学の頃なんか当然のように距離を置かれていたし、なんならあっち側に。

 自己防衛としてそういうもんだと思うから、前田さんが円香から離れても仕方ない。


「鬼怒川さんはどう思ってるの?」

「こころんは『あたしは円香の友達だから何があっても友達でいるだけ』って言ってたよ。男前だった」

「格好いいな、あの人」


 女子三人の中で一番ギャルっぽいのにな。

 メイク次第では地雷系もいける。

 見た目とのギャップで熱が出そう。


「だよね。うちにはそんなの思っても言えないや」


 誰もが思う。

 円香も前田さんもいい友人に恵まれた。

 だから裏切るのは忍びないと思っているのかもしれない。


「でも円香がマネージャーの期間が終われば」

「どうかな? 円香ちゃんの可愛さが上級生に伝わちゃったし、一度覚えた嫉妬は中々抜けるもんじゃないよ。上級生の圧力がなくなっても、速見君と仲が良いから、次はただ気に入らないからって理由で続くもんだよ。根底にあるのは円香ちゃんが嫌いってところから来るものだし」


 二軍と言われる彼女達は一軍の彼女達に劣等感を覚えている。

 どんな理由であれ引きずり下ろすことに快感を感じてしまった。今はただ小さなものでも、こうやって行動に移して、どんどん肥大化していくことになる。

 自分のほうが優れていると錯覚。


 ここで止めてしまいたいと思う。

 けれど、速見のように影響力もない俺がどうにか出来る問題なのか。


「藍浦くん」

「ん?」

「その顔、何かするつもり?」


 俺は顔に出やすいんだったな……。

 前田さんとも良く話すように――

 円香のおかげというか、所為というか。

 今は周りに友人とも呼べる人物が複数いる。


「まぁーね。前田さんにもちょっと協力してもらいたいんだけど」

「何? 全然いいよ」

「ありがとう、その時になったらお願いするね。俺はちょっと家に帰って色々考えてみる。暫く彼女らを泳がせてみるよ」

「わかった」


 俺は前田さんと手を組み、仲良くさせてもらっているメンバーにも協力を仰ぐことにした。

 やるべきことは、円香のグループの力を増やすこと。

 そして抗えなくなった彼女らの八つ当たり先を変えること。


「何してるの? 二人とも」


 何時まで経っても来ない前田さんを心配したのか、円香が息を切らせ汗だくになりながら探してきたようだ。

 なんでこうもタイミングが悪いのだろう。

 そういう星の下に生まれたとしか思えない。

 ここに訪れなかったら、例え彼女を傷つけたとしても、秘密裏に全て終わらせることも出来たんじゃないかって。


「「特になにも」」


 声が揃ってお互いを見合わせる。

 気まずくなって目を逸した。


「何もないわけないよね? なんとなくだけど今のでわかるよ。二人とも優しいもん、私に関係あることだよね?」


 答えられず俺も前田さんも黙ってしまった。

 沈黙は肯定とは良く言ったもので、円香は答えを得てしまう。


「また……、こうなっちゃうのかな」


 顔を歪ませ崩れるようにしゃがむ円香。


『また』か。

 こっちは気にしてない。と、言えば嘘になるが過去は過去として消化出来ている。

 思い返してみると高校に上がってからというもの、円香は中学時代の事を気にしていた。大事な友達にも嫌がらせが及んだことでトラウマ刺激されてしまった。


 円香が悪い訳じゃない。

 あの時は俺の環境、円香の幼馴染として隣にいれる事に嫉妬した男子たちが。

 今回は男子に注目されるという美貌に嫉妬した女子たちが。


 意味もわからない嫉妬で、大事な幼馴染を悲しませる行為。

 ただ笑っているだけで周囲を和ませるこいつを泣かせる環境に、段々と腹が立ってきた。


「円香」


 子供の頃。

 小学生よりもまだ幼い頃。

 どこに行くにも一緒で、後ろをついてきた彼女。

 どんくさくて泣き虫で、転んでは泣く少女をあやすあの頃の自分。

 身長は当時まだ俺のほうが高くて。

 彼女の涙を指で拭い、頭を撫でていた。


 今は身長差的に彼女の頭に手を乗っけることは不格好で。

 だけどそれ以外に円香を慰める方法は知らないけど、いつだって彼女を慰める役目は俺だった。


「大丈夫だって。任せとけ」

「……うん」


 後は前田さんに任せるとして、やるべきことを整理しながら彼女達に背を向けたが、声が掛かり歩く寸前で止まる。


「……いーちゃん」

「どうした?」

「ごめん。なんでもない」


 家路を進みながら協力者を求める。

 数少ない連絡先の名。

 今はそれが頼もしく思う。


 俺がやろうとしていることはどこまで行っても他力本願。

 自分の非力さに涙が出るね。


「ちょっと流して欲しい噂があるんだけど」


 数コールの後に出た彼に対してお願いをする。

 状況を読み込めず戸惑っていたが、誠意を見せて頼み込むと快く協力してくれることになった。



 ※



 翌日。

 教室にはとある噂が流れた。

 俺が意図した物ではなく、自然に発生した物だ。

 正直、願ったり叶ったり。

 自分がやろうとしていることに真実味が出そう。


『立花ってパパ活してるんだってよ』

『純情そうにしてるけど、やることやってんだな』

『でもあの娘、男子にべたべたして慣れてるって感じしない?』

『あー、ちょっとわかるかも。俺も立花と話してると勘違いしそうになるし』


 クラスの男女の会話。

 二軍女子が撒いた毒が男子たちも侵されていく。


『金出したら俺でもやらせてもらえないかなー』


 なんて下賤な会話まで聞こえてくる。

 まぁ、男なんてこんなもんだろうな。

 朝練に参加しているサッカー部、規律を求める速見がいない間は特に。

 メンタルにきてたのか、円香は風邪を引いて休んでいる。

 聞かれなくて良かったとも思う。


 ちなみに円香には俺らの計画は深く話していない。

 ただ少しの間グループから離れて一人になってもらう。

 これは前田さんや鬼怒川さんに被害が行かないためにも、あいつらには自分たちの思った通りに行っていると勘違いしてもらっておこう。


 昼休みになり、俺と石井に鬼怒川さん、被害者の一人でもある前田さんと昼食を一緒にする。

 石井には協力を求めたが、前田さんから鬼怒川さんに伝わり強制連行中という訳だ。


「あたし達ぐらいには話してくれてもいいんじゃない? 今日、男子たちまで円香の悪く言ってて本気でムカつくんだけど」


 全員学食にいるわけなのだが、鬼怒川さんが苛立ちを隠すことなくテーブルを指先で突くものだから、周りの生徒たちは俺らを避けて空間が出来てしまっている。

 お茶を人数分淹れてきて渡すと、お礼を述べてくれるあたり本当に人が良い。


「まぁやることは単純だよ。その人らの場所を無くせば良い。円香は元々高い地位に居たから落ちるのに時間が掛かってるが、あいつらはそうじゃない。上からの圧力に弱いやつらだ、クラスの王様に断罪してもらえばいい」

「王様?」

「速見だよ」


 それに速見は円香に惚れている。

 利用しない手はないだろ。


「でも速見くんの前ではあの人ら何もしないけど」


 当たり前のように前田さんが疑問を口にする。


「速見も気づいていると思うよ。ただ、確証がないから言えないってだけなんじゃないかって俺は思ってる」


 疑わしきは罰せず。

 集まったこの三人も人が良いが、彼は別格という程人が出来ている。

 聖人君子かなにか。

 そうでなければ王様と表現しない。

 クラスの雰囲気を把握しておきながら、人に期待しているような節さえある。

 だからこそ現行に速見を突き出す。

 いくらこそこそと嫌がらせを続けるアイツらも一溜まりもなく、二軍という立場からこき下ろされる。

 そのために円香を一時的にグループから外れて一人になってもらう。


「藍浦、今流れてる噂はどうするの?」


 今度は鬼怒川さんからの質問。

 ぶっちゃけこれは簡単な問題。


 人の噂は七五日というが、実際に日が進めば人は新たな話題に移り変わる。

 けれど一度貼られたレッテルというのは、簡単に剥がされるものでもない。

 それは俺がよくわかっている。


「別の噂を流してそいつに罪を擦り付ければいい」

「どういう?」


 鬼怒川さんがぽかんとした表情で再度聞き直す。


「パパ活してるという噂を流したのはとある男子。傷心中の立花円香に付け込んで交際しようと画策してるって」

「それって……」


 口に出した鬼怒川さんもだが、目を見開きこちらを見つめる前田さんも気づいたようだ。

 石井には全て話してる。

 人はより面白いと思う噂を口にする。

 あたかもそれが真実かのように。

 共通認識となったそれは嘘でも真実に塗り替わる。


 ちょっと怒った表情になる女子二人、だが何も言わせないために手で制止。

 俺は言いたいことを勝手に口をして去ることにする。


「そういう訳で俺は明日から円香に学校でアプローチすることにするよ」


 ちなみにもう一つの問題。

 上級生。

 円香がサッカー部から離れれば自然と消えるだろう。

 自分の彼氏に近づくなという威嚇にすぎない。


 それでも何かあった場合。

 保険として石井に情報を集めてもらって弱みを握るだけにしている。

 そうなれば生徒会長直々にお叱りを受けることになるだろう。

 俺は平和主義者で出来れば動きたくないぐうたらな性格なもんで、そうならないことを祈ってるけど。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「パパ活してるという噂を流したのはとある男子の一人と浮いた立花円香」 はちょっと意味が取りづらいです。円香が男子と同格に取れてしまいます。 [一言] 自分を犠牲にする、というやり方は、…
[一言] 証拠あつめて警察に提出すればいいのに たとえ恋絡むても、いじめをするやつはクズだ
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