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最近、幼馴染がぐいぐいくる。(仮)  作者: 「」
第二話 ハルカゼ
16/31

幼馴染と種目決め①

 中間テストの結果を受け取り席へ戻る。

 結果はまずまず。

 先日のファミレスで行われた勉強会が効いたのか、想像するよりも良い点が取れた。

 後日、総合得点の上位五十名が廊下に張り出されるらしいが、この点数を見るに乗るか乗らないかといったところ。


 どうだった? という石井の質問にもまずまずと答えておく。

 隠すような点数でもないので、お互いに見せ合うと似たような点数。

 ファミレスで鬼怒川さんと前田さんを教えていたし、彼の頭が良いことはなんとなく察していた。


 どの授業も答案用紙の返却がメインであり、試験前の緊張感はなくなり緩い空気が漂っていた。

 教師もそれを理解しているのか、授業の進みもゆっくりとしたものだった。

 進学校ということもあり平均点は高く、担任も満足そう。

 昼休みになり円香、鬼怒川さん、前田さんの三人が僕らの元を訪れる。


「藍浦、食堂行くよ」


 当たり前のように誘ってくる鬼怒川さん。


「え?」


 思わず聞き返し、予定にはない昼食の誘いで少し驚いて円香を見ると、申し訳さそうにしており彼女が原因ではないらしい。

 勉強会メンバーでもあるので、そういうこともあるのだろうと後ろを振り返る。

 さっきまで存在していた存在が消え失せていた。


「というか俺だけ?」

「石井ならもういないけど」


 このメンバーに呼び止められるなら石井も確保していると勝手に思っていたが、いつものように昼休みになると同時に何処かへと行ってしまったようだった。

 俺なんかよりもアイツのほうが秘密が多い。


「伊月くん、行こっか」


 円香の手が両肩を掴み押すようにして、教室の出入り口へと誘導する。

 俺も昼食のために弁当を片手に立ち上がっていたところだった。

 右肩に妙な気配を感じると、円香が小声で内緒話するように囁いてくる。

 ……こそばゆい。


「お弁当大丈夫?」

「人を押しながら言う台詞かよ」

「えへへっ。でも、本当に嫌だったら私から断っておくけど」

「まぁ、大丈夫だろ」


 俺と円香が幼馴染であることを知っている人たちだし。

 今更、隠す必要もない。


「藍浦、今日は弁当なんだ?」

「基本いつも弁当だよ」

「じゃあ前は忘れたとか?」

「……まぁ、そんな感じ」


 女子三人に囲まれて食堂に入る、しかもクラスでも上位のグループの女子たちを連れ立ってだ。

 円香一人でも大概注目を浴びるというのに、全方位から向けられる視線で針のむしろ。


「私と伊月くんとで席確保してくる」

「お願い」


 俺と円香、鬼怒川さんと前田さんで入り口で別れる。

 彼女らは真っ直ぐ食券を求めて列へと並ぶ、見送って俺らは日当たりの良い窓際の席を確保して、円香が席に座っている間に人数分のお茶を用意。

 弁当をうきうきで広げて待っている彼女に最初に手渡す。


「ありがとう」

「おう」

「伊月くん、ここ」


 隣の席をパンパン叩き、そこに座れと促してくる。

 ため息を尽きながら並んで座る。

 クラスでは立花円香に林間学校以来、彼女に気に入られた運の良い奴という認識だというのを、石井を通して知った。

 全校生徒の訪れるこの場ではどう思われるのだろうか。

 ……円香にそんな知名度はまだないか。

 同じように弁当を広げて鬼怒川さん達を待つ。


「待たせた?」

「ううん、伊月くんと話してたから全然~」


 俺の正面に鬼怒川さんが座り、その隣に前田さんが座る。

 薄々気付いていたけれど鬼怒川さんは結構食べるタイプで、成長期である燃費の悪い男子たちがこぞって注文するスタミナ丼。それに比べて隣の前田さんはきつねうどんといった具合。

 こっちが見ていると同様に相手も見ている。


「ちょっと待て待て、なにそれ」

「今日も美味しそうでしょ。食べる?」

「ありがと。……いや、そうじゃなくて」


 鬼怒川さんの視線が円香からこちらに。


「見ての通り一緒だよ。見た目だけじゃなくて味もね」

「同棲してる?」

「してないしてない」


 そう誤解されるのも仕方がない。

 たまに泊まることもあるが、一緒に住んでいるわけでもない。

 キッチンやトイレ共有のボロアパートに住んでいるイメージが一番近い。


「藍浦は円香にお世話になってること?」

「あははっ、違うよ。私が伊月くんのお世話になってる」

「……どういうこと?」

「えーっとね」


 円香が鬼怒川さんにどういう生活を送っているのかつらつらと話し始める。


「はぁ……。そういうこと、藍浦が言ってた妹ってのは円香のことだったのね。最初から言ってくれればフォローしてやれたのに」

「ごめんね」

「生活能力を藍浦に頼りすぎだとは思うけれど、これも家庭の事情みたいなもんだし、あたしが言える立場じゃないけれど。友達ぐらいには言ってよかったんじゃない?」

「ファミレスでも言ったけれど、私じゃなくて伊月くんがね」

「そうね。藍浦が悪いわ」

「……なんで?」

「いや藍浦の言ってることもわかるんだよ。あたしも円香の友達だから紹介してくれって言われることあったし、そんな何回もあったわけじゃないけど面倒くさかったし」

「あ、うちもあるよー」


 ちょっとだけ意外。

 でも言われてみればそうかと納得する。


「何、その顔?」

「鬼怒川さんとか前田さんみたいな……、いや、なんでもない」

「途中で止められるとモヤモヤするんだけど」

「やだ、俺の尊厳が死ぬ」

「何々? うちも気になるだけどー」


 ちびちびと麺を啜っていた前田さんまで参加。

 小柄な彼女が器用にテーブルの下を潜り手を伸ばしてくる。

 脇腹に指先を添えられると、こちょこちょという擬音を交えてくすぐってくる。


「ほんと、ちょっとまって……っ、くすぐりは、無理ぃ……」

「あはは、いーちゃんしなしなじゃん」

「笑ってないで止めろっ」

「んーっ」

「なんで、不満げ、なんだよ……っ」

「私がくすぐってもすぐベッドかソファにぶん投げるじゃん。対応ちがくない?」

「当たり前だろアホかっ」


 身内なら掴んで投げることも容易いが、クラスメイトのまともに話したこともない女子を触ることすら恐れる。

 社会的死に直結する。

 そもそもクラスで発言力が高い人物に睨まれるだけで、学校での生活は送りづらくなるものだ。


「咲希ちゃん」

「なに?」

「ごー」

「おっけー」


 彼女らが満足するまで玩具にされるのだった……。


「で、結局藍浦は何を言おうとしてやめたわけ?」

「だから言わないって」

「咲希」

「りょ」


 鬼怒川さんが名前を告げると前田さんの手がわきわきと動きにじり寄ってくる。


「単純に君たちも十分に可愛いのに当て馬にするのって変な話しだって言いたかったんだよ」


 あっさりと白状する。

 ずっとくすぐられ続けて制服は乱れ、汗だくになった。

 ようやく落ち着いてきたところだったのに、また同じような目に合うのは勘弁。


「へぇ」

「んふふ」

「……」


 三者三様の反応を見せる。

 感心する鬼怒川さん、小悪魔的な笑みを浮かべる前田さん。

 円香はちょっと拗ねた。


「なんだよ」

「いやぁ……、藍浦って身長が低いせいか嫌な感じに聞こえないなって。なんてーか、弟とかに褒められるってこんな感じなのかなって」

「だよね」


 前田さんよりは高いが? そこはちょっと不満を抱く。


「伊月くんはこんなんだけど、ちゃんと格好いいところもあるんだよ」


 フォローしてくれるのはありがたいが、こんなってなんだよ。

 というか円香に格好いいところ見せたことあっただろうか。

 情けない姿もまた見せたことないと思うが。


「藍浦の格好いいところね、例えば?」

「料理が出来る」

「家庭的ね」

「手際の良さが格好いいと思うんだよね」

「それは円香しかわからない格好よさでしょ」


 そして本人の前で話すことでもないと思う。


「確かに、私だけがわかる伊月くんの良さだね……。んー、じゃあ脚が速いこと?」

「まぁ運動出来る人は格好良くは見えるかもね」

「あ、そうだ。もうすぐ体育祭じゃん。いーちゃん、リレーに出ようよっ」

「出ない出ない、あと興奮するな。ついで大声であだ名で呼ぶな」

「ごめ~ん」


 軽い謝罪をするものの、出走に関しては諦める様子はなさそうだ。

 こっちには発言力はなく、あっちにはある。

 彼女が言い出せばなんだかんだ彼女の言う通りになるのが見えている。


 それから三人は体育祭の話で盛り上がり、俺は静かに昼食を続ける。

 俺いる意味あるんかな? と、思わなくはないが、時折円香がこちらをみて笑うから意味はあるのだろう。

 よくわからん感性。


 しかし、脚が速いというのは小学生の頃の話。

 さて今はどうだろう。

 期待に応えたいと思うのは、男としての性か兄としての矜持か。



 ※



 翌日のロングホームルームにて壇上に男女が二人登壇。

 我らがクラスのイケメン代表である速見と美少女代表である円香である。

 影響力の強い二人はそのままクラスの委員長と副委員長に収まっている。

 速見が進行をして、決まったことを円香が黒板に綴る。

 時折、二人で談笑を交え、誰が見てもお似合いの二人と言ったところ。こういうのを見せつけられると円香が少し遠くにいったように感じてしまう。


 そのうっすらと覚える劣等感に背を向けるように廊下側の窓を見つめ、青い空をただただぼんやりと眺める。

 速見の声が騒々しい教室の中でも響き渡っており、この学校での体育祭のプログラムを説明しているのが聞こえる。


 クラスごとに分かれると思っていたが、どうやらクラスの中でも紅組と白組に分かれるようで、ちょっと変わってるなという感想。

 白組の進行が速見で、紅組の進行が円香になり、教室でもすでに紅白で分かれるように促される。

 廊下側が紅組ということで俺はそのままの場所で待機。

 今回は石井が白組に移動したことで気軽に話せる男子が消滅してしまった。


「ねぇ、伊月くん」

「えあ?」

「聞いてる?」

「ごめん、聞いてなかった」

「伊月くんには私の補佐してほしいなーって」

「なんで俺?」


 周りを見れば前田さんが居て、そのほかの知り合いはいなかった……。

 あ、いたわ。

 牛田がいる。


「あれとか」

「牛田くんは人前に出るのが苦手だから無理だよ」


 円香がそう言うと頬を赤く染め頷く長身の男子生徒。

 照れ屋は健在だった。

 簡単に直るものでもないか。


「前田さんは?」

「うちは無理かな~」


 事情は知らないが無理らしい。


「知らない人には頼みたくないし、伊月くんしか頼める人いなくて」

「わかったけど何をすればいいんだ?」

「紅組の集まりに着いてきて私のフォローするだけかな? あと、私が出席出来ない時の代わりとかお願いするかも」

「まぁ、それだけなら」

「うんっ。じゃあよろしくねっ」

「……おう」


 手をがっちり握られぶんぶんと上下に振り回される。

 家でも同じような行動だが、衆目の面前だと気恥ずかしさが漂う。

 嫉妬の混じった視線を浴びつつ、円香の手を払う。


「ありがとうっ。んじゃ、種目決めに移ろう。一人で二つの競技まで出てもらうことになるから、そのつもりで選んで欲しいな」


 円香が進行しながらクリップボードと彼女愛用のシャーペンを寄越してくる。

 種目の隣に空欄があり、そこに氏名を記入するようになっている。

 紅白対抗リレー・男子に既に藍浦伊月と丸っこい字で記入されていた。

 しかもボールペンで……。


 彼女をこっそり睨むとチラッと舌を出して性格の悪そうな笑みを見せつけてくる。

 ほんとにこいつは……。


「この時間だけじゃ足りないと思うから、後で個別に私と伊月くんで聞いて回るね」


 そしてこっそりと二人が一緒に居てもおかしくない動機をこうやって作り上げる。

 元から彼女に振り回されてばかりだが、この頃は特にそう思う。

 これからはもっとだる絡みしてくるんじゃないかなって、予言に似た予感をさせるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] だる絡みと言っている割には、まんざらでもなさそう。 だんだんと、カミングアウトの度合いが深くなっていって… ですね。
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