「私、ママの娘よ」って言う5歳の幼女が現れた。だけど、私は16歳ですけど?
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視界は真っ暗。
目隠しをされてるのがわかる。
椅子に座らされ、後ろ手にてが縛られてる。
カビ臭さが、気分を余計に悪くする。
恐怖心。
混乱。
焦り。
いろんな感情が入り交じり、パニックだった。
一つわかるのは・・・
トラブルに巻き込まれたことだけはわかる。
あの子が現れてからトラブル続きだから。
ー遡ること2週間前ー
いつも通り、学校から家への帰り道。
母子家庭で母とアパートに暮らしている。
と言っても、母は滅多に帰ってこない。
常に彼氏がいないとダメなタイプで、彼氏によって性格が変わってしまう。
今の彼氏は・・・
パイロット?
とにかく、海外だったかな?
生活費と家賃は振り込まれてて、お小遣いは高校生になったのでアルバイトを始めた。
父のことは知らない。
小さい頃に父のことを聞いたら、泣きながら怒られ、ビンタされた。
それ以来聞かないようにしていた。
なぜ他人事のように話すかって?
小さい頃からこんな母だし、親戚なんていないし、こんな暮らしを続けてたら、慣れる。
バイトが休みだったため、私は学校が終わってさっさと家へ帰ろうとしていたんだが・・・
女の子が、アパートの前の電柱の足元に座り込んでいた。
小さな女の子。
幼稚園児か小学校低学年くらい。
私は周囲を見回す。
女の子の親がいるか確認したかった。
私は女の子に近づく。
「・・・ねえ、ここで何してるの?」
恐る恐る声をかけると、女の子は勢い良く顔をあげた。
左が黒くて、右がエメラルドグリーンの、綺麗なオッドアイ。
外国人のような顔立ちだった。
髪は栗色。
何故か、初めてあった気がしなかった。
女の子は私の顔をみて、微笑んだ。
「やっぱり!声かけてくれると思ったんだ!」
・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・ん?
「・・・えーと・・・一人?お母さんは?」
私が聞くと女の子は立ち上がった。
「ここにいるよ!」
私はキョロキョロとしたあと、自分のアパートを見上げた。
四階建ての16部屋。
全て1LDK。
「このアパート?何号室?」
「んーと、確か・・・」
女の子が指を顎に当て考える。
「302!」
「・・・それは、うちだわ。」
「でしょ?ちゃーんと覚えてたよ。」
私が答えると、女の子は胸を張って返事を返してきた。
「だから、302は私の部屋だよ。あなたの部屋は違う部屋番号だと思うんだけど・・・」
「?うん?」
女の子が首をかしげた。
「ママは302でしょ?あってるよ?」
私も首をかしげた。
「ママ?」
そこでハッとする。
もしや、ママの隠し子?
父親違いの妹?
え?どういうこと?
「ちがうよ!私のママは廣崎あすか!」
・・・えーと・・・
新手の・・・詐欺?
「詐欺じゃないよ!私はママの娘!あなたは私のママ!」
この子・・・警察呼ぶ?
何かの病気?
精神病?
どうしたらいい?
今すぐ警察に電話する?
それともママに電話する?
誘拐に間違われたら・・・?
「もー!ママ!おばあちゃんに電話しなくていいし、警察にも電話しないで!誘拐でもないでしょ!」
「え・・・」
声に出してない。
思っただけ。
考えただけ。
どうして、わかるの?
なんで・・・
「あ・・・」
私が驚いて女の子をみると、女の子は気まずそうな表情で、私を見上げた。
「・・・とにかく!ママに話があってきたの!だから、中に入ろう!!」
女の子が私の手を引っ張ってアパートの集合玄関に入ろうとする。
私は焦ってその場に留まった。
「待って待って待って!!ダメダメダメ!ちょっと!あなたが行くのは警察!!」
その後、私は嫌がる女の子の手を掴んだまま警察を呼んだ。
その日の夜ー
「・・・あの子、親が迎えに来たのかな?」
独り言ながらひとりぼっちの夕食を食べる。
「まったくもう!!警察は無駄だってば!!」
「きゃーーーーーー!!!」
急な声に驚いて、持っていた食器を落としながら、声の方に振り向いた。
視線の先には夕方に見た女の子がたっていた。
「な・・・ど・・・えぇ・・・?」
声にならない。
「ママ〜私もお腹空いたよぉ〜」
女の子が、私が座っていた(驚いてずり落ちた)ソファに座って、じっと私を見つめる。
少ししてから固まる私から視線をずらした。
「やっぱだめか。」
女の子は呟いて、不貞腐れた。
「・・・どうして、ここに?ていうか、鍵しまってたし、チェーンもしてたのに・・・」
「私には無駄だもん」
何が?
え?何が無駄なの?
よくわからない。
鍵とチェーンを外したってこと?
「まぁ・・・そんな感じ。」
ん?
また声出してないのに。
どうして、私の考えてることがわかるわけ?
「人の心が読めるから。」
怖いって。
怖いって、まじで。
何?何なのこの子?
警察!どうして、この子を野放しにしたわけ?
「えー!ママひどい!心が読めるの!思い込みじゃないよ!だから、ママの質問に答えてるじゃん!!」
女の子が怒ったように言う。
「あなた何歳?私はあなたのママじゃないでしょ?・・・ママの娘・・・私の妹?」
「だから、ちがうよ!あなたがママなの!私は5歳!ママが23歳で産んだんだよ!!」
目を潤ませて睨んできた。
そんな目で見ないでよ・・・
悪いことしてるみたいじゃん。
「悪いことだよ!私はママにあえて嬉しいのに、ママは違うの!?」
違うよ!
ワタシアナタシラナイ!
「ヒドイよ〜・・・・ぅわぁぁぁぁん・・・」
泣き出した。
泣き出した。
泣き出した。
どうして!?
泣き止まない女の子にあたふたしながら、私は頭を撫でてあげた。
そして何故か・・・
「ごめんね?・・・ごめんね」
謝った。
解せぬ。
女の子は涙をポロポロ流しながら、両腕を前に付き出した。
「だっこ」
私は言われるがままに、女の子を膝にのせ、背中をさすりながら泣き止むまでそうした。
「・・・ママ・・・大好き」
何故かその言葉に胸が締め付けられた。
「トマト嫌い!」
朝から疲れる。
土曜日で良かった。
「・・・あのねぇ。好き嫌いはダメだよ?・・・大きくなれないよ?」
トマトって大きくなるのかな?
「ママ!心読めるって言ったでしょ!」
女の子が怒る。
「あ、ごめん・・・」
女の子が、パンを頬張る姿
を微笑ましく見ながら、私は話しかけた。
「ねぇ、名前は何て言うの?」
私が聞くと、女の子は目を見開き少し考えてから言った。
「・・・ミライ」
「ミライ?・・・本当に?」
「・・・うーん・・・私の名前を言うとね、未来が変わるかもしれないでしょ?だから、言えないの。」
世で言う中二病?
未来?うーん・・・
「もう!ママ!心読めるって言ったでしょ!」
私は顔に笑みを張り付けた。
「ミライちゃん。私は誘拐犯になりたくないし、まだ16歳で、子供を産んだ経験どころか・・・恋人もいたことないんだよ?」
ミライは私をじっと見つめたあと、自分の手元に視線を下げ、再び私をみた。
「あのね、私は未来から来たの。ママを・・・守るために。それに、パパとはもうすぐ出会うよ。」
うーん・・・どうすべき?
話を合わせる?
警察呼ぶ?
「だから、警察は無駄なの!本当の話なの!」
ミライが叫んだ。
私が少し考え込んでいると、ミライが視線をキッチン横の棚に向けた。
「これなら信じてくれる?」
そう言って棚に迎い、何かを取って戻ってきた。
私のアルバム。
私に興味のない母は、何故かアルバムだけはきちんと作っていた。
まるで、誰かに見せるために。
ミライはアルバムを3枚めくると、四枚目の厚紙の真ん中にフォークをさした。
「ちょっと・・・!」
私が止めようとすると、中袋のようにパカッと開いた。
そこには鍵と一枚の写真が入っていた。
写真は、若い頃の母。
そして、男の人。
みたことない人。
「その人がおじいちゃん・・・ママのパパだよ。」
その後は覚えてない。
ミライがなにか言っていたけど、衝撃が大きかった。
何故ここに写真があるのがわかったのか。
何故この人が父だとわかったのか。
ただ黙って見つめた。
自分に似た男の人に。
「ママ?大丈夫?」
ミライが、私の顔を覗き込んだ。
「・・・どうして、」
知ってるの?
「未来の・・・ママが教えてくれたの。」
私はミライの顔を見つめた。
昔から私は勘が鋭い。
何故か、"嘘"と"本当"が見分けられた。
"未来のママが教えてくれた"
嘘だとわかった。
けれど・・・
「・・・未来の話をしたら、未来が変わっちゃうんじゃないの?」
私が聞くと、ミライは傷ついた顔になった。
「・・・信じてもらうためには、ある程度の未来を話した方が良いって・・・聞いたの。」
その日から奇妙な生活が始まった。
謎の女の子との二人暮らし。
ご飯を作れば、幸せそうに食べてくれる。
嫌いなものがでると、不貞腐れるけどぶつぶつ言いながら食べてくれる。
そんな姿が愛しくて。
一緒にお風呂に入れば、ふざけて遊び初めて、私がのぼせる。
お風呂上がりに二人でアイスを食べて。
一緒に買い物も行って。
二人で公園に遊びに行って。
いつしか、半信半疑だった親子は事実になっていた。
その日は、朝から変だった。
いつもはスッキリ起きられるのに、だるかった。
なんというか、頭にモヤがかかった感じ。
「ママ?大丈夫?」
ミライが心配そうに聞いてきた。
安心させるように微笑んで、ミライの頭を撫でた。
「大丈夫よ。ありがとう」
私の笑顔をみて少し安心したような表情のミライ。
どこか悲しげに見えた。
私が鞄をもって玄関に向かう。
「・・・ママ。無理しないでね。」
玄関まで見送るミライ。
いつもの光景。
だけど、なぜか、胸が締め付けられた。
ミライが私に抱きついてきた。
「ママ、大好き・・・」
悲しそうな。
切実な。
ワタシも抱き締め返す。
そのまま玄関をでて学校へ向かった。
ボーッとしたまま歩いていると、誰かにぶつかった。
尻餅をついてぶつかった人に謝ろうとした。
「are you ok?」
英語に緊張して顔をあげる。
エメラルドグリーンの瞳と視線があった。
どこかでみたことのある。
既視感。
「大丈夫かい?」
目の前の男性が日本語に切り替えて、手を差しのべる。
私は彼に手を預け、立ち上がった。
顔をあげないと、顔が見えない。
とても背の高い人。
会わせた視線をはずせなかった。
相手も私から視線をはずさなかった。
繋がった手を話すことなく見つめ合った。
ふと、彼が不思議そうにみる。
英語でなにかを呟いた。
『・・・効かない。これが・・・』
何を言ったかわからなかったけど、彼の表情に見覚えがあった。
ミライ
私は彼に背を向けて走り出した。
家に向かって。
不安で。
怖くて。
家には誰もいなかった。
その日からミライが消えた。
一週間しか一緒にいなかった。
それでも、長く一緒にいたような感覚だった。
食事も。
お風呂も。
何て事ない時間も。
夜寝るときも。
いつも、音のしない家。
ひとりぼっちの家。
ミライがいることで満たされてた。
いなくなったことで初めて気づいた。
ずっと寂しかった。
誰もいない家。
気づかないようにしていた。
いや、本当は気づいていた。
空っぽの部屋で、ただ座っていた。
玄関から物音が聞こえて、急いで玄関に向かう。
そこにいたのは・・・
「あすか?あんたバイトは?」
「・・・ママ・・・」
母はため息をついて、靴を脱ぎながら私を押し退け中に入った。
「何でいるの?バイトは?もう義務教育過ぎたんだから、少しは自分の足で立ちなさいよ。」
目の前の母は、バッチリ化粧をして、八つ当たりのような説教をする。
こんな人だったろうか。
「・・・本当にその目。イライラするわ。学校に行かせてやってるんだから、感謝くらいしなさいよね。」
私の記憶の母は・・・優しかった。
優しく頭を撫でてくれたはず。
どうして、
なんで、
「なんなのよ!その目!!腹が立つわ!!私に依存しないで!あんたなんか産みたくなかったのに!何でいるのよ!何で死んでないのよ!かってにくたばってくれれば良かったのに!!」
母の目が血走っていた。
憎悪の目だった。
右の頬に痛みが走った瞬間、床に押し倒されていた。
馬乗りになった母は、なにか叫びながら私の首に手を掛けていた。
息ができない。
なにも聞こえない。
なにも・・・聞きたくない。
「あんたさえ・・・あんたさえいなければ!愛されてたのは私なのに!!あんたなんか死ねば・・・!!」
母の狂気が、私の何かを割った。
私の何かが崩壊した。
その瞬間。
母の目から血が流れた。
「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
急に叫び、頭を抑えて、床を転がり始めた。
口や
鼻や
血をだらだら流してる。
「やめてぇ!!!!やめて!!!わかった!わかった!やめて!もえやめてえええぇ!!!」
母が叫びながら懺悔をする。
みたことがある。
みたことがない。
見たはずがないのに、前にも経験した、そんな気がした。
震える足を叱咤して、私は部屋を後にした。
走って、走って、走り続けた。
前にもあった光景。
母に駆け寄っては叩かれ。
話しかけては叩かれ。
質問しては叩かれ。
突き放されてきた。
あったはずのない記憶。
いつも優しかったはずの母。
いつから優しかった?
母の恋人が私を襲った日。
襲った?
襲われた。
大きな男。
それを見た母が、激高して私の意識がなくなるまで殴り続けた。
目を覚ましたら、母は優しくなっていた。
その日から、私は自分の記憶を封印した。
辛い記憶を。
走り続けて、気づけばミライと良く来た公園についた。
公園のベンチに座る。
ただ空を見上げた。
綺麗な月と星。
肌寒い、透き通った空気。
目を瞑って深呼吸をする。
いったい何が起きているのかわからない。
混乱してる。
「どうか・・・しましたか?」
低い男性の声が聞こえた。
驚いてバッと声の主をみる。
「君は・・・」
朝、ぶつかった男性だった。
「良かったらどうぞ」
そう言って温かい飲み物をくれた。
温かいのみものを両手で持って暖をとる。
飲み物を見下ろすと、ついつい吹き出してしまった。
「・・・日本の方は好きだと聞いて・・・」
男性が気まずそうに微笑んだ。
「ふふふ・・・日本人の誰もが好きなわけではないと思いますけど・・・私はすきです。おしるこ・・・ふふふ」
何故か笑いが止まらなかった。
混乱していたことも、恐怖心も、何故か薄らいだ。
「月が綺麗ですねぇ。寒いからか、空も綺麗に見えますね」
男性が空を見上げていった。
「日本語、お上手ですね」
「ハーフなんですよ。母が日本人でね。厳しい人で日本語をみっちり教えられました。」
「バイリンガルですね。羨ましい」
「そうですか?成せばなるですよ。あなたも出来るようになりますよ」
彼の微笑みがとても綺麗だった。
何故か安心できた。
「こんな時間になぜここに?」
「・・・あなたこそどうしてここに?」
私が聞き返すと、彼は少しはなれたところにあるホテルをさした。
「あそこに滞在してるんです。日本はコンビニが有名ですからね。行ってみたくて。迷子になってしまいましたよ」
ははは、と笑う。
彼は、体ごと私の方に向いた。
「そうだ!暇なら一緒にコンビニ行きません?コンビニデート!!」
目がキラキラしてる。
それはもう。キラッキラッ。
外国の人って軽いノリなのは知ってるけど、間近で見ると迫力あるわ〜〜
私はそのまま流されるように彼とコンビニに向かった。
「わぁ!」
「これなんですか!?」
「こんなのもあるんですね!」
「これ美味しそうだなぁ」
小声だが、嬉しそうな、楽しそうな、そんな声で。
キラッキラッした目で。
そんな彼を見ると、私も笑ってしまう。
買い物が終わり、コンビニをでた。
「・・・家まで送るよ」
彼が言った。
「大丈夫。バス停あるし。ありがとう」
少し冷静になれた。
まだ時間は必要だけど。
たぶん母は家にいないだろう。
彼に手を降って私はバス停に向かう。
「あすか!」
彼に呼ばれて振り向いた。
「またね!」
そう言って手を降ってくれた。
私は笑いながら手を振り替えし、バスがすぐきたのでそのまま乗り込んだ。
彼はバスが見えなくなるまで手を降ってくれていた。
でも私は気付かなかった。
彼の背後にもう一人男性が立ってることに。
『彼女が?』
『あぁ』
『普通の子供に見えるな』
『・・・かわいそうな子供だよ』
『同情なんて出来ないぞ』
『わかってる』
『彼女がいれば、世界は終わる』
バスから降りて、家へ向かう。
少しだけスッキリした。
そんな気持ちで。
そとから見た部屋はやはり電気が消えていた。
ため息をつきながら部屋の扉に手を掛け、あけた。
空けた瞬間、むせ返る血の匂いがした。
恐る恐る中へはいる。
手探りで電気をつける。
息を飲んだ。
目の前に倒れる男。
血の海になっている。
後ずさって壁に背中を預けた。
壁?
壁なんかあった?
あるのは棚。
腰の辺りの高さしかない棚。
でも、背中全体にも何かが当たっている。
恐る恐る振り替える。
冷徹なスカイブルーの瞳が、最後の記憶だった。
なにかで殴られそのまま意識をなくした。
そして、私はカビ臭い部屋にいることになる。
最初はパニックで声をあげていたが、誰も答えてくれない。
どのくらい時間がたったかもわからないまま、声をあげることをあきらめた。
「・・・だれか・・・だれか、答えて!お願い!!」
胸が苦しい。
息が出来ない。
その時、ギィィと音がした。
足音が聞こえ、だれかが近づいてくる。
いや、だれかたちだった。
だれかが目隠しを取った。
周囲は薄暗く、ずっと真っ暗な状態だった私は、直ぐに明るさになれた。
目の前に立つ人を見上げた。
私は驚きからなにも言えず、目を見開いた。
「これが娘か。私に似たな。」
憎々しげに呟いた男。
写真で見た男。
私は彼を知ってる。
「・・・あの女の尋問は?」
「滞りなく。」
「終了次第ラボに連れていけ」
目の前の"父親"が私の目隠しを取ったと思われる人に言った。
部屋には父と二人きりになった。
四方は壁だけで、なにもない部屋。
人が5人くらいしか入れなさそうな部屋。
「お前は私の娘だ。」
そう言って彼は私の縛られていた手を解放した。
「驚いただろう。どうやら部下が勘違いしてお前を拉致したらしい。」
父に連れられその部屋をでた。
廊下は細長く、突き当たりまで行くと、階段を上った。
上った先の扉をでると、ガラス張りの廊下になった。
ガラスの向こうは吹き抜けになっているようで、一階に人が何人かいるのが見えた。
廊下は吹き抜けを囲むように作られている。
ついた先は、"会議室"とかかれている部屋だった。
椅子に座らされ、女の人がお茶を出してくれる。
「私は5歳までのお前しか知らない。」
父が話し始めた。
父の話を要約すると、、、
両親は結婚していなかった。
母が一方的に父を慕い、既成事実を作った。
しかし、父は娘を可愛がるも自分に愛情を示してくれず、嫉妬して何度も私を殺そうとしたそうだ。
恐怖に怯えた父は、母を追い出したそうだ。
母は父の隙をついて私を連れ去ったらしい。
意味がわからない。
覚えのないはずの記憶とも違い。
父の言うことの辻褄があわない。
母の性格を考えれば、私を連れ去ることに疑問しかない。
父の気を引きたいなら、連れ去らずに一緒にいる気がする。
それに、あの部屋で血の海になっていた人。
あの人は誰?
「・・・あの、母は?」
私が恐る恐る聞くと、父は厳しい表情を、さらに厳しくした。
「あの女は・・・逃げた。気にするな。もうお前を煩わせない。」
「ここは・・・?」
「私の研究所だ。」
「研究所・・・?」
「遺伝子研究所」
「遺伝子・・・」
「人間の遺伝子は未知だ。人によって違ってくる。同じDNAを持つものはいない。解明されていない遺伝子もある。それを研究してる。」
「・・・それって・・・」
「途方もない?突拍子もない?」
父がふっと笑った。
「そうだな。超能力と言うものを信じるかい?超能力とは、物を浮かせたり、爆発させたり、未来を見たり、心を読んだり。」
父の言葉にうつむいていた私は顔をあげた。
「その超能力が遺伝子に組み込まれていたどうなる?」
父は嗤った。
嗤って私をみた。
「・・・そうか、お前も見に覚えがあるのか。どんな力だ?何ができる?」
私から視線はずさず、すごいスピードで一気に私に近づく。
「物を浮かせる?未来か?それとも、透視とかか!?」
父の笑顔は怖かった。
おもちゃをもらって喜ぶ、純粋な子供の笑顔。
恍惚な、幸せそうな笑顔。
狂気に悦する笑顔。
父の笑顔に全身が震える。
その時気づいた。
私はその能力を使える人を知ってる。
心が読めて
未来が見えて
密室に入ることができる人。
ミライ・・・!!
「アリス・・・」
栗色の髪をした女の子は怒った様子で声の主をみた。
「どうして邪魔するの!」
アリスと呼ばれたミライは、目の前の人を睨んだ。
「ママが傷ついてもいいの!?ママの事死なせていいの!!?」
「アリス・・・」
その人は、アリスと視線をあわせるため、膝をついた。
「アリス。僕はもちろん、ママを愛してる。そして、君も。僕たちの大切や娘が、自分を消そうとしてるのに、止めないはずがない。」
アリスは肩に乗った父の手を払った。
「パパは知らないから!!あの研究所でママがどんな目にあったか!!ママは何年も・・・」
アリスは目にたまった涙を溢さないために、瞬きをした。
「とにかく!邪魔しないで!!アリスはママを守るの!パパは帰って!!」
アリスの言葉に父の瞳から光が消えた。
まるで何かに操られたかのように、持っていたマイクロチップを取り出し、腕時計にいれた。
時計をいじると、彼はそのままその場から消えた。
「パパ・・・ごめんね。育ててくれてありがとう」
アリスは父のいた場所を見つめ、呟いた。
アリスは持っていた紙に、ペンでなにかを書いた。
ホテルの扉を空け、23階の部屋まで行く。
そして、扉の隙間から紙をいれた。
「どうか相方が気づいてくれますように」
そう言ってアリスはその場を後にした。
私は混乱したまま、父に案内された部屋にいた。
真っ白な壁に、ベッドや棚まで白い。
落ち着かない。
すべての展開が早すぎて混乱している。
はっきりわかってるのはミライのことがバレたら、ミライが危険と言うこと。
部屋の外が騒がしくなった。
その瞬間部屋の扉が開き、焦ったような表情の男の人が現れた。
「あすか!」
エメラルドグリーンの瞳が心配そうに見えた。
私はなにも考えず、差しのべられた手を取った。
彼に教えていないはずの名前を知られていても。
彼にすがった。
彼の優しさに。
彼の笑顔に。
彼の瞳に。
誰かにすがりたかった。