再配布ポイント
「・・・おい、おい!」
「ん?ああ」
唐突に「現実」に引き戻された。
「あのさ、潜っている間は無防備なんだから勝手に入ってくるの、止めてくれない?」
「警察官がそばにいるなんて最高の警備体制だろ?」
わざわざセキュリティレベルが最高なこの場所を選んでいるのに、このバカはわかっていない。涼しげな笑顔は窓の外の風並みに冷たい。
「あと10分程度でlimitだし別にいいだろ?」
「その10分程度で解決するかもしれないだろ?」
「・・・わかったのか?」
「まあ、だいたいは」
筋肉バカにも分かるように話をすると、黙って朝焼けな青空を映す窓に向かっていく。
「待てよ!」
「・・・」
あーあ。怒った。こいつ怒るとすぐにこうなるから嫌なんだ。「怒った顔も素敵」って同僚に言われてるけど、僕にはちっともわからない。
「まだ始まっていない」
窓枠に手を掛けて、片足乗せて飛び出し掛けている間抜けな格好で止まった。非常に馬鹿っぽい。
「彼女は確保した?」
「ああ。今は証人保護法未満の扱いで犯罪学的被害者救援チームに保護されている」
「州直下の?」
「ああ。お前の名前で保護を頼んだ」
「僕は単なる銀行員なんだけど」
「今から警察官になるか?」
「嫌だよ。肉体労働は苦手なんだ」
話している間に落ち着いたのか、ようやくこっちに振り返った。まったく。
「コーヒー」
「わかった」
壁際のコーヒースタンドから、嗅ぎ慣れた豆の匂いがしてくる。
カチリ。
何か動いたらしい。
電脳世界は「Movie」が見れるし考えられるんだけど「ピース」が嵌まらない。「結節点」がないと解決まで進まない。
面倒。ため息ついたら、目の前にコーヒーカップ。ベストタイミング。くたばれ。
「ありがとう」
僕は出来るやつなんだ。
「Bitte schoen」
こいつはいつも紅茶。飽きないのか。
「で、どうする?」
「とりあえず、上司に話しておかないと」
「あ、それはしといた」
「そっちの上司は?」
「任せるけど、話を聞かせてほしいってさ」
お気に入りの椅子から起き上がる。
「今は?」
「大丈夫だって」
「Herzlich willkommen」
「あー、いらっしゃいませ」
「おはよう、今日もいい朝だね」
「おはようございます」
朝から警察官に囲まれる銀行員。
窓の外は珍しい冬空。まあ、いいけど。