安楽椅子
さてと。
綺麗でどこか汚い音色を肴に暇を潰す。
あいつどこまで行ったんだ?
「お待たせ」
「ありがとう」
そうこうしているうちにチーズダンプリングと白ワインが到着。
なかなかいいチョイス。白ワインはビニールカップ。簡単に捨てられるし、紙カップより長く飲める。環境保護がうるさいけど、洗い物の水を使わない分だけ、エコだと思う。
「幾ら?」
「あ?12€。」
いや、12€の量じゃない。大量である。
世の中って、イケメンなら何しても得なの?
ご尊顔ありがとうで許されるの?
心の中のブリザードが吹雪いて止まない。
ダンプリングに罪はない。2人で雑談しながらつまむ。
時間は20時前。
丁度いい感じ。お腹もいっぱいだし。帰るかな。でも、居心地いい空間。この時期だけのスペシャルな世界。
「今日はどうするんだ?」
「ん?ああ。決めてなかった。ちょっと、すっげー嫌な奴に会ってさ。そいつ、俺に昔、彼女取られた〜って訳わかんないこと言って、なんか絡まれたっつうか」
カチャ。
あ、ピースのひとつが嵌まった。
ということは、「今回」の加害者か被害者か関係者はそいつか。導きの白うさぎ。
「知り合いか?」
「確か、大学時代のゼミの奴だった気がするけど、あんまり記憶にない」
頭に手を添えて、髪をかき上げる。
これだけで視線を集める。「キラキラ」って効果音が聞こえてきそう。
心のブリザードも吹き過ぎて樹氷原だ。世間は見る目が無さすぎる。隣にいる僕が引き立て役みたいじゃないか。
「仕事か?」
「ああ。ご近所さんってやつからの通報。窓から皿を庭に投げてくるって」
「怖いな、それ」
「んで、まあ、それで出動したら絡まれたっつうか」
嵌まったピースの感覚から、まだ「物語の開始」までは時間がある。おそらく10日ぐらい。それまでに材料が揃えば、望む「料理」ができる。
悔しいが、仕方ない。大盛りダンプリングの御礼じゃないが、少し話を聞いてやるか。
酔いに任せた「安楽椅子」探偵ごっこも嫌いじゃない。