灰色の靴と青いジャケット
キーンコーンカーンコーン。
キーンコーンカーンコーン。
あれ?もう17時か。ここにいると時間感覚がわからなくなる。気がつくともういい時間。
報告書も作成したし、片付けて帰ろうかな。
そんなふうに考えながら、のびーとする。
一日中、ギアを付けてるからアバターでも疲れた気がする。
ギアを外して現実世界にログインする。
こっちでも伸びーる。ガキゴキする。音が変。
痛み止めでも飲むかと手を伸ばしてメガネをかけ直すと、目の前には、にやにやした悪友がいた。
おい。「なんでいんの?」
勝手に部屋に入って来ないでほしい。
「いやー、ちょっとさ。お前に会いたいなー。なんちゃって」
照れ臭そうな笑顔。気持ち悪い。いつからいたんだ。
嫌な予感。サイレンレベル。
こいつがこういうときは大体酷い目に遭う。
「今度はどの女の子?」
「いや、違うって。なんだよ、ちょっと信用なさすぎない?」
あるわけないだろ。普段から信用できない。
初めて会った時から、本当に碌な目に合ってない。嫌だな。
ジト目で見つめる。相変わらずなラフな格好。もう冬が近いのに寒くないのか。ウーリッジの青いジャケットが様になる身長に、猫っ毛な黒髪。ピチTに映える鍛えられた感じな上半身。ビンテージ系のジーンズに灰色の靴。
くっきり二重で人懐っこそうな茶色と虹色の目。アレキサンドライト。少し厚めの唇。
大きくて無骨な手に、テノールでハキハキした声。
なんかさ。神様って、不公平すぎない?ってこいつ見ているとマジで思う。別に僻んでなんかいない。
「なあ、ちょっと手を貸してくれないか?」
そう言って、こいつは手を差し伸べてきた。
野郎の手なんざ、お断りだ!