第5話~絶望~
崖の下に降り、多数の残骸をかき分けながら、佳佑は必死に咲良を探していた。岸田も何とも言えない表情で、生存者がいないか、大きな声を掛けながら探していた。
佳佑は唖然の表情を浮かべた。何も言葉が出なかったからだ。しばらくすると、岸田が
岸田「小野!!」
と大きな声を上げた、佳佑が咲良が見つかったかもと、少しの期待を持ちながら向かうと、岸田が指を差した。そこには、多数の残骸の下に、手があった。佳佑がなぜ自分を呼んだのか、不思議でしょうがなかった。
佳佑「どうした?」
岸田「お前覚えてるか?、俺が高校生の時に、お前の家に遊びに行った時の事」
佳佑「あぁ、確かあいつが中学生だったっけ、それがどうしたんだよ」
岸田「あの時、俺が上げた指輪」
佳佑は思いだした、確かに初めて岸田が俺の家に遊びに来た時のことだった。
~回想~
岸田にお茶を差し出した、佳佑の母
母「ゆっくりしていってね」
岸田「あっ、ありがとうございます」
母は二階の部屋へと消えていく。その時、中学校から咲良が帰ってきた。
咲良「ただいま~」
そのまま、大急ぎで岸田と佳佑と大好きなお菓子がある、居間へと来た。
佳佑「こら咲良」
咲良「だって、お腹すいたんだもん」
佳佑「お客さんが来てるんだぞ」
喧嘩になりそうな雰囲気を岸田は
岸田「いいんだよ小野、咲良ちゃんだっけ?」
咲良「そうだけど」
咲良はお菓子を食べながら言った。岸田はポケットから何かを取り出し
岸田「はい、これ上げる」
佳佑「いいのか?」
岸田「先週かな、ハワイ行ってさ、その指輪を作ってくれる人に、削ってもらったんだよ。ある意味世界に一つだけの指輪かな」
佳佑「いいのに、大事だろ」
岸田「いや大丈夫だよ。ほら咲良ちゃんあげる」
咲良が笑顔で受け取る。
咲良「やった。お兄ちゃんありがとう~」
~現在~
それに似た指輪を付けた手が出てるのを見て、佳佑はとっさに、瓦礫をかき分けると、そこには綺麗な咲良の遺体があった。
佳佑は息が段々と荒くなり、次第に人間力を失い
佳佑「生存者がいます!!」
と大きな声を上げると、他の消防団員や取材陣が、顔をこちらに向ける。岸田は慌てながら
岸田「違います。大丈夫です」
佳佑「何言ってるんだよ。おい咲良、帰るぞ。何ここで寝てるんだよ」
岸田が佳佑の体を抑え、
岸田「小野何言ってるんだよ、もう死んでるんだよ」
佳佑「ふざけるな!、咲良はまだ死んでないんだよ。咲良...」
そのまま泣き崩れた。
岸田は、茫然と泣いている佳佑を見るしかなかった。目の前で友達の妹が死んでいるからだ。と、そこに、消防団長が近づき
消防団長「綺麗なご遺体だ」
岸田と佳佑は消防団長を黙って、見つめる。
消防団長「ここら辺にあるご遺体は、黒焦げか体の一部が無い、でもこのご遺体は、全て綺麗に残っている」
佳佑は、咲良の頭を触り、そのまま号泣した。
その後、生存者が発見され、結局524人の乗客乗員中、僅か4人しか生存者がいなかった。
場面は変わり、藤岡市民体育館に佳佑と岸田はいた。そこは今回の墜落事故の犠牲者の遺体安置所として使われており、咲良の遺体もあり、佳佑は棺桶の横で、ただ茫然と座っているだけだった。
しばらくすると、自動販売機から買ってきたジュースを手に帰ってきた岸田が、茫然と座っている佳佑を見て
岸田「小野」
佳佑がゆっくりと顔を岸田に向ける。岸田は少し笑顔になり
岸田「飲むか?」
岸田がコーヒーを差し出す、佳佑はそれを受け取る。
佳佑「ありがとう」
岸田が佳佑の隣に座り、コーヒーを開け、飲みだす。
岸田「はぁ、咲良ちゃんにも上げる」
岸田は咲良の棺桶の前にコーヒーを置いた。
佳佑「ありがとうな、岸田」
岸田が首を振り
岸田「ううん、友達の妹だもん。ビールじゃダメだろ?」
佳佑は笑顔になる。そういう冗談を言う岸田が、昔から友達として好きだった。
佳佑「確かにな」
岸田「で、どうするの?」
佳佑「何が?」
岸田「仕事とか」
佳佑「あぁ、まぁ休み取るよ」
岸田「確か、証券会社だっけ?」
佳佑が頷く。確かに証券会社は中々休めないが、今回ばかりは何を言われても休もう、そう思っていた。
岸田「そっかぁ」
佳佑「お前はいいのか?」
岸田「ん?」
佳佑「お前だって、新聞記者の仕事あるんだろう?」
岸田「友達置いて、のうのうと記者の仕事できるか」
佳佑は微笑み、目に涙を浮かべながら
佳佑「ありがとう本当に」
すると、近くから岸田の上司の編集長が、やってきて、岸田が立ち上がり
編集長「岸田君、ちょっといいか?」
岸田「あっ、分かりました」
と、佳佑に岸田は優しく声をかけ、そのまま、編集長と体育館を出て行った。
その間に、佳佑は思いだしていた。咲良との最後の会話を
~回想~
空港での場面で、咲良に佳佑は
佳佑「気を付けろよ、無事に帰ってこいよ」
咲良「分かってる。じゃあね」
飛行機に向かって行く咲良、手を振る場面がゆっくりになっていく、佳佑は泣き出した。あの時止めてれば、こんなことにはならなかったって、ある意味の後悔をしていた。
第5話終わり