あなたの体臭が嗅ぎたいです~とある変態高校生の話~
表現内容に変態的な部分があります。苦手な方はご注意ください。
こちらは銘尾 友朗様主宰「夏の匂い」企画参加作品です。
ふんわりとシャンプーの匂いがした。
いつも登校時にすれ違う、名門女学院の制服を着た彼女。
僕の向かう高校とは真逆の位置にあるため、いつも同じ時間帯・同じ場所ですれ違う。
ほんの一瞬のすれ違いだけど、僕はいつもこの瞬間を心待ちにしていた。
彼女は清楚で上品で可愛らしく、誰から見ても美しいと言うに違いないルックスをしている上、颯爽と歩く姿はまるでモデルさんのようだった。
そんな彼女から、今朝はふんわりとシャンプーの匂いがした。
「あれ?」と思ったけれど、足を止めて残り香を嗅ぐわけにはいかない。
僕はそのまま通りすぎた。
きっと、このうだるような夏の暑さのせいだろう。
寝ていて汗をかきまくったから、朝シャンに切り替えたのだ。
いつもの彼女特有のフェロモンの香りが嗅げないのは残念だったけれど、これはこれでクセになりそうな匂いだった。
それから、何日も何日も彼女はシャンプーの匂いを振り撒いて僕とすれ違った。
何のシャンプーだろう、と近くのドラッグストアでパッケージを嗅いで探しまわったこともある。
けれども、当然パッケージから中のシャンプーの匂いなんてするわけもなく、銘柄や謳い文句から「これかな?」と想像するしかなかった。
そんなある日のこと。
初めて彼女は僕を目にすると歩みを止めた。
「……?」
どうしたんだろう、と思っていると僕と目線を合わせながらズリズリと少し距離をとっていく。そして、一定の距離を保ったまま通りすぎようとしていた。
「………」
その姿を見て、僕はかなりのショックを受けた。
まさかバレたのだろうか。
僕がすれ違い様に匂いを嗅いでいたというのがバレてしまったのだろうか。
まあ確かに、すれ違うたびに鼻で大きく息を吸っていたからバレててもおかしくはないけど……。
すると彼女は恥ずかしそうに言ってきた。
「あ、あの、ごめんなさい……」
「え……?」
「け、今朝は急いでて髪洗ってないの……」
「……?」
「……いつも私の臭い嗅いでたでしょ?」
「………」
はい、きたー!!!!
僕がすれ違う度に匂い嗅いでるの思いっきりバレてたー!!!!
「今日の私、きっと汗臭いと思うから……」
「そ、そんなことありません!」
思わず僕は声をあげていた。
「あなたから発せられる匂いだったら、どんな匂いでも僕にとっては宝です!」
「………」
ってー!
何を言ってるんだ、僕は!
完全に変態発言じゃないか!
お、終わった……。
僕の高校生活、終わった……。
明日から別のルートを通ろう。
そう思っていると、彼女はドン引きするわけでもなく顔を赤らめながら言ってきた。
「ほ、ほんとに?」
なぜか嬉しそうに笑っている。
綺麗な笑顔だな、と思った。
その笑顔につられて、僕の口からまたポロリと本音が出た。
「はい。大好きです、あなたの匂い」
すると、彼女は「私も」とつぶやいた。
「私も、好きです……」
「……へ?」
「あなたの体臭」
「………」
へ、変態だった!
彼女も変態だった!
まさかの展開に唖然とする。
こんなにも可愛くて清楚な感じの子なのに。
名門女学院の制服を着てるってことは、頭も相当いいはずなのに。
天才と変態は紙一重とはこのことか。
などと、どうでもいいことを考えていると彼女はモジモジしながら聞いてきた。
「あ、あのぅ……、お願いがあるんですけど……」
「なんですか?」
「少しの間、息を止めててくださいませんか?」
「は、はい?」
息を止める?
何言ってんの、この人。
「少しの間だけでいいんです。お願いできませんか?」
少しの間ならどうということはない。
よくわからないお願いだったけれど、僕は彼女の言うとおり鼻をおさえて息を止めてみた。
すると、距離を取っていた彼女がソソソッとやってきた。
「………?」
いつもすれ違う、絶妙な距離。
そこで何をするのかと思いきや、いきなり彼女は僕の胸元に顔をおしつけてきた。
「ぶほっ!」
「ちょ、息止めててください!」
「ななな、何してるんですか!?」
「匂いを嗅いでるんです!」
「に、匂い?」
「あなたの体臭」
なんだ、この人。
マックス変態じゃないか。
「やっぱり、あなたの匂いを嗅がないと一日が始まらないんです!」
「いや、僕の匂いなんて……」
普通に汗臭いだけだと思う。
「く、臭くない?」
「いいえ、あなたの体臭は完璧です! 濃密で、濃厚で、鼻の奥がツンととろけるような、素敵な匂いです!」
「それ、褒めてんの!?」
軽くショック受けるんですけど!
けれども彼女は嬉しそうに僕の胸に顏をうずめながらくんかくんかと鼻を鳴らしている。
「ああ、やっぱり最高。あなたの匂いは最高」
その言葉に頭の中の何かがプツンと切れた。
「あ、あの! 僕もお願いがあるんですけど!」
「はい?」
「あなたの匂いも嗅がせてください!」
「え?」
「失礼します!」
僕は彼女が逃げるより一歩早くその華奢な身体をがっしりと抱きしめ、首筋に顔を近づけた。
「ひうっ!?」
小さく悲鳴を上げる彼女の首筋から、その体臭を一気に鼻に吸い込む。
朝洗ってないと言うだけあって、彼女の首筋からはムワッと濃厚な汗の匂いがした。
けれどもそれは不快でもなんでもなく、爽やかな青春の香りだった。
「い、いや……ちょ……やめて、くだ……さい……」
嫌がる声がさらに心地いい。
「やっぱり……朝のシャンプーの香りもよかったですけど、あなた自身から発せられる匂いのほうが好きです」
「わかりました……わかりましたから……」
彼女は顔を赤らめながら僕の腕から逃れようとする。
そのたびに濃密なフェロモンの香りと芳醇な汗の匂いが鼻腔を刺激するものだから、たまらない。
「ああ、なんて香しいんだ。僕はいまだかつてこんなに素敵な匂いをこんな近距離で嗅いだことがない」
僕の言葉に、彼女の身体からふっと抵抗する力がなくなった。
「ほ、ほんと……に……?」
「はい。できれば一生、嗅いでいたい匂いです」
我ながら何を言ってるんだと思うけど、彼女は嫌がるふうでもなく「ふふ」と笑った。
「嬉しい。私も……一生、あなたの体臭を嗅いでいたいです」
そう言って、胸元に顔をうずめる。
僕はそんな彼女の髪の毛をそっと撫で、頭の匂いを嗅いだ。
まさかお互い臭いフェチだったとは。
真夏の早朝。
汗ばむ暑さの中、僕らはいつまでもお互いの匂いを嗅ぎあっていた。
これでもかーってくらい変態的な二人を書きたかったんですー!
ごめんなさいー!
お読みいただきありがとうございました!
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偶然通りかかった人「朝っぱらから何やってんだ、あの二人……(ドン引き)」