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時の魔術師に永遠の幸せを  作者: 鶯埜 餡
再会と喪失
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混沌の意識と真実(後半)

 アレックスが倒れた直後、その倒れた物音を聞きつけたヒルダが部屋の中に入ってきた。

「何がどうしてこんな状況になったんですか?」

 侍女という立場でもあるが、学園内では同学年として存在しているヒルダは、ルドルフに対してあまり敬語を使っていなかった。

 彼女が見た部屋の状況はどう見ても主が後輩であり、初恋である女の子を押し倒している状況にしか見えなかった。


「いやぁ、アレックスに求婚したんだけれど、なぜか気絶しちゃってね」

 ルドルフはにこやかに言う。ヒルダはそんな主の行動に呆れを通り越して、驚いてしまった。

「―――――多分、アレックス様はご自身の重要性に気付いていないんでしょう。それに、彼女の重要性を説いたところで、ホイットニー家が世間から言われる結婚像しか知らなければ、頷かないと思います」

 ヒルダの指摘にルドルフは納得した。確かに彼女が、大魔術師『アレックス・ムーブメント』の子孫であること、そして、ホイットニー家の理想的な結婚(・・・・・・)を知らなければ、驚くことも無理はないはずだ、と思い直したのだ。

「ねぇ、ヒルダ」

 ルドルフはあることを思いつき、侍女であるヒルダにあることを提案した。主の提案に通常ならばヒルダは全力で断りたかったが、確かに彼女も思っていたことであり、アレックスが『《時》の魔術』を行使したことで要される懸念でもあったので、それについて迷いなく頷いた。

「わかりました。では、()のほうはよろしくお願いします」

 彼女はそう言って、部屋を出て行った。


 ヒルダが出て行った後、しばらくの間、ルドルフは過去に思いを寄せた。



 彼が6歳の時――――

 もう一人の幼馴染とともに、親や教育係の目を盗んで町へ抜け出していたある日、二人はある銀髪の少女に出会った。彼女は身なりこそ平民のようななりをしていたが、魔力持ちであることはすぐに分かった。

『なあ、お前ってどこの子供なんだ?』

 幼馴染はルドルフが声をかけるよりも早く、少女に声をかけた。突然かけられた声に少女は一瞬、固まったが、

『私はレクス(・・・)。あなたたちこそどこから来たのよ。この辺じゃ見ない身なりしているみたいだけれど』

 と、はっきりと言った。一応、変装として、平民たちが着るような服を着てきていたが、どうやら彼女は二人が貴族であることを見破ったらしい。

 彼女と何度かと会ったのだが、彼女は自分のことを話すのはあまり好きでないらしく、家のことさえ教えてくれなかった。しかし、どうやら彼女の正式な(・・・)名前が『アレックス・ムーブメント』であるということを、たびたび訪れたその街で知った。

 建国の魔術師の子孫と名乗りたい輩が多く、そういう連中が名乗ったりつけたりする名前に『アレックス・ムーブメント』は多い。もしかしたら、そういう家に生まれたのかもしれない。彼女自身が望んだことではないはずだ。だから、建国の魔術師と同じ名前であるのにコンプレックスを持っていたのだろう。道理で教えてくれなかったのだろう、とその時、ようやく二人は気づいた。

 しかし、その時すでに遅く、その少女――――アレックスはその街から消えていた。

 彼女の居場所をつかもうとしたが、公爵の跡取りといえども、今はただの子供だ。大した力はなく、むしろ探すことにより彼女に迷惑をかけることになるのではないかと思われた。

 なので、気づいた時にはすでに彼女のことは忘れていた。


 しかし、彼女――――アレックスが競技場に出てきたときは、驚くと同時に嬉しかった。あの銀髪の少女に再び会えるなんて、と感じた。もちろん、彼女が『《時》の魔術』を行使したことにより、建国の魔術師の子孫であることは彼からしてみれば明らかだった。




 彼以外に、気づいたとすれば、『六獄』の発動者であるハーバート、そして教員陣も気づいた人もいるかもしれない。ハーバートはヒルダが捕縛した時にはすでに、正気を失っていたということだから、よほどでない限りは漏らすことはないだろう。しかし、教員陣に緘口令を敷いておかないといけない、と思ったルドルフは、校医でもある女性医に任せ、その場を去った。




「『アレックス・ムーブメント』か」

 琥珀色の髪を持つ皇太子は驚いた。目の前には青い髪の女がおり、彼女が報告した内容には、彼も驚くしかなかった。

「はい」

 その女はしっかりと頷いた。

「今はレナード卿(・・・・・)が保護しております」

 『レナード卿』。そう言った彼女に、皇太子は笑う。

「そうか。あいつはようやく見つけた(・・・・)のか」

「ええ」

 青い髪の女も微笑みながら言う。その口調の裏には何も感じ取ることができなかった。

「レナード卿からの伝言です」

 そう言って、彼女は皇太子にあることを告げた。


「なるほど。奴は考えたな」

 皇太子は目を細めた。その黒い瞳の奥には、何か底知れぬ闇があった。

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