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時の魔術師に永遠の幸せを  作者: 鶯埜 餡
再会と喪失
7/28

破壊の光(後)

長らくお待たせしました。

更新再開します。



今後、しばらくの間、前話までの大幅改稿作業を同時に行っていき、新規更新は改稿後の内容となるので、もしかしたら最初に読んだ時となんか話が違う、となっていると思います(ついでに言えば、更新スピードも少しゆったり目になるかもです)。

・ルドルフとアレックスの関係(二人とも幼い時に遊んだことを覚えている。そしてアレックスはルドルフの正体を知っており、ルドルフもアレックスが学園に存在していることに気付いている)など。


ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。

『雷神よ、集え。時空を切り裂け。そして、悪意を飲み込み、早急に()ね』



 その呪文の本当の意味を知るものは少ない。しかし、その呪文のことをルドルフ・ホイットニーはホイットニー公爵家の跡取りであるという立場上に知っていた。

「まさか――――」




 偉大なる大魔術師、アレックス・ムーブメント。彼は様々な名前で呼ばれた。

 代表的なものは三つ。

 その容姿から『銀色の魔術師』。その敵に対する容赦のなさから『灰燼の魔術師』。



 そして、その彼の切り札でもある魔術の名前から、『《時》の魔術師』。



 その魔術を今、彼――――だけでなく、この場にいる全員が見せつけられていた。

「なんだ、ありゃ」

 学生の一人がそう呟く。ルドルフもそうだろう、と思った。『《時》の魔術』の詳細はごく一部の人にしか知らされていない。なぜなら、そもそも『《時》の魔術』は『六獄(ゼクス・ヘル)』に対してのみ有効であり、そして、たとえどんな魔術師でもそれを習得することはできず、ただ一子相伝(・・・・)なのだ。たとえ兄弟姉妹がいても、その魔術の呪文を発動できるのは一人。しかも、誰に受け継がれたのは発動(・・)するまでわからない。


 それを、ルドルフたちの目の前で発動していたのは、一人の女学生。そして、彼女はルドルフが知っていた少女でもあった。

(だが、あいつには荷が重い(・・・・)んじゃないのか――――)

 直感的にそう思ったルドルフはどうしようかと悩む前に、指示を出した。

『全軍、防御フィールド形成。起点は黒魔術の兵士、半径は銀魔術の学生から1ヤード離れたところ』

 その指示に誰も反論することなく動き出した。ちょうどその向こう側でヒルダが同じ指示を出しているのに気づくと、それらのことはすべて任せて、自身は防御フィールドの中へ飛び込んだ。

「ルドルフ様!」

 フィールド内に飛び込む直前、彼の行動に気付いた誰かが叫ぶのが聞こえたが、それを無視してルドルフは銀色の髪の少女の元へ向かった。


 彼女のものとへ向かっている最中も、彼女が発しているまばゆい光はハーバートが発動した『六獄』の暗黒を包み込んでいた。しかし、ルドルフは気づいていた。

 彼女の魔力は『《時》の魔術』を扱うのには少なすぎる、ということを。


 そして、扱う術者の魔力が少なかった場合、強力すぎる魔術の使用がどのような末路をたどるのかということを。

(あいつだって、本科の人間なのだから、知っているだろう。強力な魔術の発動と維持が術者の体に与える影響を――――)

 ルドルフはそう思ったが、一方では彼女の選択も正しいことも知っていた。

(もちろん、『《時》の魔術』を発動しなければ、今以上の被害が出たかもしれないが―――――)

 ハーバートが『六獄』を発動してから、数十秒。暗黒の煙は周囲に影響を及ぼした。彼が狙った『偽ルドルフ』もその煙に巻き込まれたのか、倒れていた。もし、彼が動きながらの発動だったら、そして、『《時》の魔術』をアレックスが発動していなければ、もっと被害は甚大だっただろう。

 そう考えているうちに、アレックスまであとわずかというところに迫った。むやみやたらに魔工石を引きはがしてもいいのだが、そうした場合、彼女の命の保証はできない。だが、ルドルフはそれができなかった。しかし、もうすでに一刻の猶予もなかった。

(レクスが溶けかかっている(・・・・・・・・)―――――――)



 『溶ける』。

 魔術は自身の魔力の消費と対価に発動できる。

 人の魔力は定まっており、魔工石は魔術を発動する際の媒体や増幅材として使うものであるが、それでも補えないほどの魔力が必要な魔術の行使を行うと、その分だけ人体への負担がかかる。

 その負担は場合によって変化し、軽いものだと数日寝込む程度で済まされるが、重いものだと術者の命を奪うこともある。

 しかも、魔術の発動によって術者が死ぬ場合、人体は一欠片(・・・)さえ残らなく、全て消え失せる。

 それを通常、魔術者たちは『溶ける』というように使い、魔術学園―――ひいては魔術師を養成する場所では一番に教えられるはずのことだった。


 魔術師となるために学んでいるアレックスも当然、学んでいるはずだった。しかし、現在の彼女は何も考えずに行使したのか、彼女の体が空気と同化してきていたのだ。そのため、予備用にと思って持ってきていた魔工石で作られた苦無を数本、左手の指と指の間に挟み、彼女の手と『《時》の魔術』を発動させている魔工石の境界に向かって放った。

(剥がせ(・・・)――――)

 ルドルフは苦無を放つと同時に、彼自身も駆け出し、直後に起こった衝撃を受け止めた。

(凌げた、か―――――)

 彼は気絶して倒れた彼女を支えており、彼女の体がまだ実体(・・)としてそこに存在していることに安堵した。

(さて、これからどうするか)

 アレックスを救ったのはいいのだが、問題はあの『六獄』の使い手だった。彼のほうを見てみると、使い手―――ハーバートは次なる狙いをアレックスとルドルフに向けていた。

(くそ)

 公爵嫡男らしからぬ悪態を心の中でついたが、彼が攻撃してくることはなかった。

『ルドルフ様、ハーバートの動きは封じました』

 そう念話で聞こえてきたのは、ヒルダの声だった。どうやら、アレックスから魔工石をはがした際に起こった衝撃に気を取られた際に、うっかりヒルダの捕縛魔術に捕まったらしい。

「ああ、ありがとう」

 ルドルフは侍女(・・)の声に安堵した。

(これで、アレックスも無事(・・)だといいんだが―――――)

 彼はすでに動きが封じられているハーバードをほったらかしにして、アレックスをお姫様抱っこにして抱え、防御フィールドの外に向かった。

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